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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル75 謀将怒りの鉄鐘

カレガンドの出現に、不利を悟ったゼールたちは撤退した。

肩で息をしながらも、キースたちは生き残った。

戦場となった野営地は血まみれで、元の姿がわからない。

うっすらと夜が明けつつある。


「黎明、か。魔王様のように清々しい」


カレガンドが目を細めて、明け行く空を見ている。


「ご老公、残っていた奴は始末したぞ」


やって来たのは、カレガンドと同じような白い毛並みの虎人だ。

背はキースより低いがガッシリとした体格をしている。

おそらく、ノーンよりも筋肉がついている。

生粋の捕食者か、とキースは感じる。


「ご苦労じゃったベナレス」


若い虎人はベナレスと言う名前のようだ。

ベナレスは頷くと、キースの方を見た。


「へたばっているようだな、人間。まあ、この程度さ人間は」


「ああ!?」


疲れているところに急に、けなされた。

キースは我慢強い方だが、プチンとキレることはある。

特に、神経をはりつめた戦いのあとなどはその傾向が強い。

瞬間的に“集中”、“精密弓”、“射撃速度上昇”を組み合わせる必殺必中の矢を放……つ寸前でベナレスが吹き飛んだ。


カレガンドがベナレスを殴り飛ばしたようだ。


「ご老公! なぜ、俺を殴る?」


かなり混乱しているようだ。

なにせ、キースにもわけがわからない。


「若者が失礼をいたしました、キース殿。どうか、この老体に免じてお許しいただけないでしょうか」


「あ、頭をおあげください、カレガント様」


あわててキースはカレガンドの頭をあげさせようとする。


「なぜだ!? ご老公!」


殴られた頬を抑えながら叫ぶベナレス。


「許す、許しますから」


なんとかしようと焦るキース。


「ありがとうございます、キース殿。そしてベナレスよ、この方はベリティスの後継者、つまりは次の“謀将”だ。いいか、たとえ人間とはいえ、キース殿はれっきとした魔将。無役のお前が無礼を働いてよい相手ではない」


人の世では貴族。

魔族の世では魔将。

大変な立場であることは、わかっている。

わかってはいるが、カレガンドのような伝説の存在に頭を下げられると焦る。


「大丈夫か、キース」


戦闘を終えたジェナがやってきた。

服が破れたり、擦り傷はあるようだが無事みたいだ。


「ああ、俺は大丈夫だ。この、カレガンド様が助けてくれた」


「カレガンド様? なんでこんなところに!?」


ジェナもカレガンド様も魔王軍時代に面識があるのだろう。

あれ……なんだか、似たようなことを最近思ったような。

……ああ、ファリオス様か。

元魔将が二人か。

何が、起きている?


「ジェナンテラか。息災のようで何よりだ」


「はい、カレガンド様もお変わりなく」


「なんのなんの、もうあちこちガタが来ておるよ」


「ところでなぜ、ここに?」


「うむ。古い友人が、そろそろこの世を去るようでな。見送りに参ったのじゃ」


古い友人という単語が、キースとジェナンテラの心に突き刺さる。


「まさか?」


「カレガンド様、その古い友人というのは……」


「無論、ベリティスのことよ」


虎の瞳は悲しげだった。



カレガンドとキースたちは同行することになった。

殴られたベナレスは表向きはおとなしくなり、キースにも敬語を使うようになった。

戦闘の疲れもそのままに、一行はベリティス城に向かって進み続ける。


上空を翼もつ一族が飛翔していく。

ハルピュイアだ。

肩から先が鳥の翼のように進化した亜人の一種だ。

この地方にはあまりおらず、南方のあたりに大きな集団があるらしい。


「あのひときわ大きな緋色の翼のハルピュイアはデルフィナの娘じゃ。なんとも懐かしい」


カレガンドがそのハルピュイアの群れを見て言った。

キースはそこまで詳細に見れない。

言われてみれば、のような感じだ。

さて、ハルピュイアだ。

彼女らの目的は、やはりベリティスなのだろう。

“飛将”の子供たちか。


地面に目をやれば夜の闇のような集団が駆け抜けていく。

野犬にしては大きな体躯、黒い毛皮。

夜の猟犬、と呼ばれるナイトハウンドだ。

そんな夜行性の獣が真っ昼間から平原を駆け抜けていく。


「クランハウンド様……」


ジェナンテラの思い出に浮かぶ、漆黒の魔将。

勇者に挑み、敢えなく散っていった夜を駆ける犬の王。


空に再び目をやれば、五翼のドラゴンがベリティス城の方へ飛び。


地には深紅の肌を持つ大柄の“鬼”がのしのしと歩いていく。


その後ろにはゆらゆらと揺らめく何かが付いていく。


「カレガンド様、これは……」


キースは隣を疾走する虎人に尋ねる。


「皆、わかっているのだ。旧友の死、そして古き約束が果たされる時、だと」


五百年前に止まった魔王の魔王軍。

それらが再び、参集しこの時代で何を成すのか。

キースは我知らず、ゴクリと唾を飲み込む。


「緊張してるの? キース」


小声で、キース専用口調でジェナンテラが声をかけてきた。


「緊張してる。皇帝と会った時以上だ」


「その気持ちはホントにわかる。でも、皆イイ人だよ」


「性格はともかく、みんなファリオス様のようだったらどうしようと考えている」


二人の脳裏に、全て力で解決しようとする脳禁ダークエルフの戯画が浮かんだ。


「……大丈夫。カレガンド様のような方もいる」


「なら、いいけど」


かなりの急行でキースたちは、その日のうちにベリティス城に到着した。

そして、ベリティス城が無茶苦茶な状態になっているのを見た。


獣人とハルピュイアとドラゴンと鬼とナイトハウンドとゴーストっぽいのが城門の前でひしめきあい、入れろ入れろと騒ぎ立てている。

対応する門番は元山賊の彼だ。

人間への対応はできるが、こんなモンスターなのか、亜人なのか、よくわからない者らへの対応はできない。


もう一人対応している者がいたが、キースたちの姿を見るなり大きく手を振ってきた。


「キース様! ジェナンテラ様!! お助けください!」


一本角がたくましいノーンだった。


「やれやれ。これ、俺が仕切るしかないのか?」


「仕方ないよ。キースが今やこの城の主なんだから」


ジェナがキースだけに苦笑を見せる。


あの帝都の夜以来、ジェナがめちゃくちゃ可愛い。

ともすればニヤけそうなキースは気を引き締める。


さて、どうするか。

騒いでいる奴等に大声で叫んでも聞こえないだろう。

何か大きな音で注意を引く必要がある。


キースの目に、城の鐘楼がうつった。

時刻を報せたり、緊急時にならしたりする鐘だ。


キースは弓を取り出し、矢をつがえた。


「キース?」


“集中”、“精密弓”、あと威力は抑え目で。


放つ、というよりはつまんだ矢を軽く離す感覚。

弦から飛び出した矢が、目標に必ず命中するという予感。


矢は鐘楼の鐘に命中した。


鐘はキースの矢の威力に耐えきれず大音声を発しながら、吹き飛ぶ。

鐘楼は飛んでいった鐘が開けた大穴のせいで今にも崩れそうになっている。

そして、どこか遠くの方でゴーンと妙に寂漠な想いを抱かせる音がした。


ざわめきは静かになったが、まだ低くうねっている。

全員の目がキースに向かっているのがわかる。


ひそひそとした話し声。


「あれは誰だ?」

「人間?」

「人間であれほどの威力、まさか」

「勇者……か?」

「いや、あれはベリティスの後継者らしい」

「“謀将”の!?」

「“謀将”の知とあれほどの弓を併せ持つとは」

「なんでも神を射ったらしい」

「神を!?」

「神殺しか」

「神をも貫くなら鉄の鐘程度どうにでもなろう」

「貫神の射手」

「“貫神の射手”!」

「見ろ、あの威風堂々ぶりを“貫神の射手”ぞ!」

「“貫神の射手”!!」


「のう、貫神の射手殿」


ジェナンテラの口調が通常モードになる。

つまり、キース専用口調では話したくない、怒っているということになる。


「なんだ」


「どうするつもりなのじゃ?」


「注目を集ようとした……まあ、それには成功はしたが」


「収拾つくのかのう」


「なんとかする……なんとかしなきゃ」


その後、収まらぬ喧騒と興奮の中、キースは各集団から二人ずつ代表者を募り入城させた。

残りは城の周囲と、キースの住んでいた森で待機することになった。


キースがぶっ飛ばした鐘は、ベコベコにへこんだ状態で落下し、“謀将怒りの鐘”としてベリティス公領の観光名所になった。

次回!謀将死す。


明日更新予定です。

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