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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル74 夜襲、そして風

さて、なんでこんなことになったんだっけ?


キースは弓の弦を引き絞って、つがえた矢を放つ。

“集中”で命中率のあがった“精密弓”はおそらく相手の急所に当たる。

結果を見ずに、キースは移動する。

“隠密”のパッシブスキルで隠れて移動する際に相手から見えにくくなっているはず。

矢の放たれた方向からキースの位置を察知できるくらいは相手だってするだろうから、いつまでも同じ場所にとどまっていられない。

また矢をつがえ、弦を引き、放つ。

移動する。

まだ矢に余裕はある。


前線で一人戦うジェナンテラはまだ大丈夫だ。

もともとジャガーノーン系統だけあって頑健だし、力もある。

そのうえ、契約した精霊“朱雀”による炎系精霊魔法スキルを駆使しているから、複数の相手と戦えている。


けど、その他の兵士らは少々きつそうだ。

まだ死者が二人なのは奇跡のレベルだ。


だって相手は百人以上はいる盗賊の集団なんだから。



キースとジェナンテラ、そして兵士が八人。

これが帝都へ行き、キースが正式にベリティス公爵位を継ぐことを報告する使節団の全容だ。

まあ、帝都のベリティス公邸にも兵士はいるので道中の安全確保を考えたら十人いれば大丈夫だろう。

それに全員がファリオスに鍛えられているし。

なにせ行きは順調で、まったく邪魔が入らずに進行できた。

帰りも問題なく帰れるだろう。



そう思っていたのは黒の海を渡り、スバルツポートから出発し、ベリティス領に入る直前に日が暮れ、付近に町もないため夜営をしようとしていた今日までだった。


キースの“気配察知”のパッシブスキルは、森での生活や戦闘、訓練によってランクアップし“気配察知・強”になっていた。

察知範囲が拡がり、相手のこともなんとなくわかる。

その範囲に敵対者が入ってきたのは夕食後だ。

すぐに襲ってこないのは寝静まるのを待っているため、か。

手慣れている。

さすがにその人数が五十人をこえると、兵士やジェナンテラもそわそわし始めた。

スキルがなくてもなんとなくわかったようだ。


「囲まれている」


「やはり、そうか」


「たぶん襲われる」


影から獲物を狙う蛇。

その目に見つめられているような。


キースは雑談しているふりをして、兵士らに命令していく。


「戦闘準備、あまり火に目をやらず夜目に慣れておけ」


ベリティス公の兵だけあって全員すぐに行動を開始する。



「キース様、あいつらのことですが」


兵の一人が酒を継ぐふりをして話しかけてくる。

中身はただの水だ。

どうやら、情報を持っているらしい。


「知っているのか?」


「公爵領の外の野盗をとりまとめた男がいるのは知っていました。元傭兵のゼールという男です」


「有名なのか?」


「ここ数年で名をあげた奴でして二つ名が“亀裂”のゼール」


戦場を自分の兵で真っ二つに裂くから、らしい。


「“亀裂”ねえ。聞いたような気もするが。そいつがこのあたりの盗賊をまとめているのか。ローグギルドの情報にはなかったな」


「どうやら、そのゼールですがローグギルドの幹部にツテがあるらしくて」


「ふうん。元傭兵だからかな」


ローグギルドは決して犯罪者集団ではないが、ローグという職や技術は犯罪に使われやすいものだ。

ギルド幹部ともなれば、盗賊らとの繋がりがあるものも多い。

まあ、キースもギルド幹部でありながら、魔王軍所属なのだし。


「デュオケラという武器商人です。ご存知でしたか?」


 帝都で出会った陰険そうな、強面の男の顔が脳裏に浮かんだ。

 あいつか。


「知っている。帝都で絡んできたからな。ちょっと脅してやった」


「なるほど」


「ただなあ、その腹いせにしては大掛かりだし、ちょっと帝都からは離れすぎているんだよな」


 デュオケラが意図的にキースに情報を流さなかったということはありそうだが、報復行為でこの盗賊集団が狙ってきたわけではなそうだ。

 

 そしてキースはこちらから手を打つことにした。


 頃合を見て、焚き火を消す。



「やるぞ」


こちらは火を見ないようにして、目を暗闇に慣れさせていた。

対して盗賊共は、焚き火を目印にしていたはず、目は暗さに慣れていないはずだ。


ジェナンテラが“朱雀”を呼び出し、キースは距離をとる。

兵士たちは固まって盗賊を囲んで倒す。



それから、どのくらい時がたったのか。

兵士が二人死んだ。

酒を注ぐふりをして情報を教えてくれた兵と、元冒険者だという若者だ。

彼らのためにも生き延びなければならない。


「射撃の軌道から射手の居場所を割り出せ! 精霊使いには複数であたれ」


敵の指揮官らしき男の声がする。

なかなか的確な指揮をする。

隠れて狙撃するのもそろそろ限界だ。

いずれ見つかって追いたてられる。

ならば、先手を打ち続けるしかない。


キースは暗がりから飛び出した。


驚いている盗賊共に“連続弓”と“複数装填”のアクティブスキル、そして“射撃速度上昇”を組み合わせて面攻撃をしかける。

十人はいたと思うが、ほとんどの相手の急所に矢が突きささり命を奪う。

立っているのは二人だけだ。


しかし、その二人が手練れなのは見てわかった。

獰猛な顔の男と小太りの小身の男。

教えてもらった情報で得た相手の名前を呼ぶ。


「“亀裂”のゼールだな?」


獰猛な顔の男が驚いたように口を開き、そして笑う。


「その通りだ、ベリティスの後継ぎ」


俺のことを知っている?

やはり、これはデュオケラの襲撃なのか?

しかし、それにしては奴の気配を感じない。

こいつらの目的は、なんだ?


「違うと言ったら?」


「違わないさ。俺たちははじめからあんた狙いだ」


「デュオケラの件か?」


「デュオケラ……? あれは単なる協力者だ。今回は関係ない」


違ったか。

しかし、はじめから俺狙い?



「あんたのような奴に狙われる理由はないんだが」


「俺にはあるのさ、行けッ!」


キースの後方へ向けて放たれた命令は、しかし誰も受け取らなかった。

それは一瞬でも、キースの注意を引いた。

後ろを振り向こうとして、二人から目を離す。


それが隙をつくる行動だと悟って、視線を元に戻すが既に敵は動きだしている。


「姑息な真似を!」


「悪知恵が働くと、言ってもらおう!」


ゼールと小太りの男が武器を抜いて接近していた。

キースは二人をじっと見た。

デュオケラを狼狽させた“視線”だ。


「き、貴様! 俺を見るな」


「ひええええ」


ゼールは狼狽し、小太りの男はへたりこんだ。

というか、そんなに威力あるのか、この目。


「囲め、囲んで押し殺せ」


ゼールは後ろにいた盗賊たちに命令をくだした。

あっという間に数十人がキース一人を狙う状況になった。


これは死ぬかもしれない。


武器を持った盗賊たちが一斉に走り出す。

出きる限りは射殺すが、限界はある。

矢の面攻撃。

精密弓。


死にたくない。

俺自身と、そしてジェナのために。

あと、魔王様と。


「不屈な矢と良い瞳じゃ」


風。

声とともに訪れたのは疾風だった。

夜の闇を駆け抜けたそれは、襲いくる盗賊たちの命を刈った。


その風の正体、それは。

白い毛並みの虎。

人のかたちを持つ虎だった。


「あなたは……?」


「あれなるはジャガーノーンの娘か、懐かしいのう。そして、ベリティスと同じ目を持つ人間」


虎人。

亜人の中でも獣の一部を持っている種族は獣人と呼ばれる。

彼らは同じ動物の部分が顕現した者同士で氏族を組む。

その中でも、肉食系の動物が顕現した氏族は生まれながらの強者だった。

特に、獅子人、狼人、それに虎人が最強の氏族の座をめぐって争っているとも言われる。


目の前で盗賊を一蹴した虎人の老人は虎の顔で微笑む。


「わしはカレガント。虎人の前族長にして、かつての魔王軍で“獣将”と呼ばれていた者よ」

次回、ベリティス城に戻ってきたキースたち。

そこで彼が見たものとは?


明日更新予定です。

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