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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル6 メルチの弱点

「という感じなんですが」


メルチはどっと疲れるのを自覚した。

魔王相手に、魔王軍敗北の歴史を語っていたことに途中から気付いていたからだ。

不興を買ってしまうこともありうる状況だったが、意外に魔王の機嫌は悪くなさそうだった。


「ふむ。参考になった。助かったぞ、メルチ」


「ありがとうございます、魔王様」


「聞きたいことがいくつかある」


魔王は、メルチだけではなく、キース、ヨートも見た。

ここにいるメンバーから情報をできるだけ得ようとしているようだ。

情報収集が感情の爆発より優先されることを理解している。


「なんでしょうか」


「今は、魔王軍との戦いから五百年たっているのは間違いないな?」


「はい」


三人が頷くのを見て、魔王の表情がわずかに陰る。


封印されている間に、自身の築いてきたものがほとんど消えてしまったのだから、ショックは大きいだろう。

国も、仲間も、己の力ですら失われてしまったのだから。


「次の質問だ。魔王軍の三つの拠点とはどこかわかるか?」


メルチとキースは首を横に振った。


「一つはここ封印の森です。ここには封印された魔王様と魔将の一人が待ち構えていると信じられてきました」


唯一、ヨートだけが答える。

拳聖という人物に師事し、キディス王国の外から来たヨートはキース達より知識が多い。

その日ぐらしだったキースや、神官の修行をしていたメルチが知らなすぎるだけかもしれないが。


「なるほど、守るものなき封印の城、か」


魔王は鎧へと姿を変えた部下の姿を思い起こす。


「もう一つは、トロアキア藩王国にあるジャガーノーン砦。勇者に敗れた魔将ジャガーノーンの娘が魔将代行として統治しているらしいです」


「ジャガーノーンに娘か。何人かいたが誰が継いだ?」


「そこまではさすがに」


「それもそうだな。ところでトロアキア藩王国と言ったな? どのような国だ?」


「大陸最大の国家ベルスローン帝国の属国です。帝国に服属していますが、藩王による自治権を持っています。海に面しているので漁業と貿易が盛んらしいですね」


「ベルスローン帝国か。名前の繋がりからベルヘイムと何らかの関係があるのか?」


「はいはいはい、魔王様!そこは私がお答えします!」


「うむ、メルチは元気だな。よかろう、答えるがよい」


「ベルスローン帝国は、勇者の出現によって求心力を失ったベルヘイムを乗っ取って生まれた国家です。実際は不明ですが、皇帝家はベルヘイムの王の血筋を自認し、ベルヘイムの正統な後継国だと国内外に喧伝しています」


「内乱からの政権奪取か。人間は我ら魔族以上に面白いことをする」


ニコニコしながら、魔王を見ているメルチにキースは小声で聞く。


「どうしたんだ? ずいぶん、魔王……様と打ち解けているじゃないか?」


「そうなのよね。さっき会ったばっかりなのに、なんでかお慕いしたくなってるのよね。不思議だわ」


メルチ自身にも、魔王への好感情は説明できないようだ。

キースも魔王に対する恐怖感は思ったより感じなかった。

あれこれ説明しているヨートも同じようだ。


「もう一つの魔王軍拠点はどこだ?」


魔王の質問にヨートが答える。


「もう一つはトロアキア藩王国の隣国であるベリティス公領のベリティス城です」


「ベリティス……だと?」


「はい。魔将ベリティスが治めている領地で、帝国が不可侵地帯としています」


「ふむ。“謀将ベリティス”か」


魔王は考え込む。


「魔王様はそのどちらかに向かわれるのですか?」


メルチの声に魔王は首を横に振った。


「お主らの情報でいろいろ分かったが、まだまだ足りぬ。余が封じられていた五百年で何が起こったか、知らねばならぬ」


「つまり?」


「余もキディスに行こう」


「本気ですか、魔王様?」


「本気だ」


キースとメルチは顔を見合わせた。


「魔王様はキディスで何を?」


「余は、知らねばならぬ。これまで何が起こったのかを。何ゆえ、余が信頼し、後を任せた者らの大半がいなくなったわけをな」


「魔王様……」


魔王の憂いを含んだ顔に、メルチはなんとかしてあげたい、という感情を覚えた。

それは、キースもヨートも同じなようだった。


「それで、だ。今の時代を知るのにお前たちの知恵と力を借りたい」


真摯な魔王の顔に、メルチは思わず頷いたのだった。



封印の森から街道をたどり、二日ほど歩く。

すると広い平原に石造りの城が姿を見せる。

かつて、魔王直轄軍と人類連合軍が激突したキディス平原の跡地だ。

今は、その跡にキディス王国の王都がある。

対魔王軍の前線基地をその始まりとしている王都は、平原の北側にある小さな丘に王城を築き、その周りに城下町がある。

城下町を囲むように、城壁が建てられている。

一般の出入口は南門となっており、そこには入都手続きを待つ人が列を成していた。


「今日は列が長いなあ」


キースが順番待ちの列を見ている。

旅人、行商人、冒険者が並んでいる。

皆、長く待たされているのか、げっそりとした顔をしている。


「何かあったのか?」


「ちょっと聞いてみます」


魔王の疑問に、キースが動く。

知り合いらしき冒険者や、商人らに話を聞いている。


「ローグ職って口が上手いんですよね」


メルチのそのセリフは偏見である。

まあ、キディスに限ってはローグ職の者は口が上手い、のかもしれない。

口が上手いキースは、しばらくしてから得た情報を魔王たちに話した。


「どうやら、ノーブルエッジの分隊が帰ってこないと、その情報を得るために南門の前で検問をしているようです」


「その、帰ってこないノーブルエッジの分隊って」


「ふむ。余が成敗した鎧どもだな?」


キースは頷いた。


「ということは、テルヴィンを連れて帰るともめますね」


猿ぐつわと腕を縛るくらいの拘束だけのテルヴィンがちらりとこちらを見る。


「もめるでしょうね」


取引してパーティーメンバーを売った男の言うことなど貴族の集まりであるノーブルエッジが信じるわけもない。

いくら、テルヴィンが貴族の出だと言っても、下級貴族の四男という箸にも棒にもかからない身分だ。


「ということは、この長い列は王都に入るのを待っているわけではないのだな?」


急に、違う話題を口にした魔王に、思わずキースは頷いた。


「それは、そうですが」


「なら前へ進もうではないか。余は無為に待つ時間というのがことのほか嫌いでな」


そう言うと魔王は、列の横をずんずんと歩きだした。


「ま、まお……ええとラスヴェート様!?」


まさか、群衆の前で魔王様などと呼ぶわけにも行かず、メルチは魔王の名を呼んだ。


「余の名を呼んだな?メルチ。メルティリア・グラールホールド」


「……どうして、私の名を?」


「余の名を呼ぶということは、余に誠心誠意仕えるという意思表示になる。具体的には、霊的な繋がりができて“天凛の窓”が常に表示されている状態になる」


「えええええ!?」


「お前の名前だけではないぞ? 細かなステータス、家族構成、幼いころの将来の夢まで事細かに余にはわかる」


「しょ、しょ、将来の夢!?」


「“私の将来の夢は立派な神様に仕えて、かわいいお嫁さんになることです”」


「ぐぎゃあああ!?」


およそ、うらわかき女性が出すべきではない声を出して、メルチは逃走した。


恥ずかしさの限界を見た、と後にメルチは語った。

次回!ノーブルエッジを挑発する魔王様、そして新たな登場人物!?


明日更新予定です。

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