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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル68 終わりの夢

魔王様回です。

これは夢なのだとラスヴェートははっきりとわかっていた。

なぜなら、彼は元の魔王の姿であり。

玉座に座る彼の前には十二の魔将がかしずいていたからだ。

魔将の後ろには様々な姿をした魔王軍の将兵が広い部屋を埋め尽くすように並んでいる。


スケルトンやゾンビ、リッチなどのアンデッド。

ローブに身を包んだ魔法使い。

漆黒の体躯を持つ巨大な猟犬達。

翼持つハルピリュア。

数こそ少ないものの、強大な力を持つドラゴン。

褐色の肌と長い耳を持つ魔法戦士であるダークエルフ。

赤や青の肌を持つ巨躯たる鬼の一族。

まるで影や水面のようにゆらゆらと漂うインビジブル種。

小さいながらも屈強な変異ゴブリン。

一本角が特徴の戦士型の魔族たち。

獣の頭とその力を持つ獣人。

鋼の肉体と意思をあわせ持つインテリジェンスゴーレム。


それらが並ぶのは壮観ではあったが、静止画のように動かない。

だからこそ、これは夢なのだとラスヴェートは気付いている。



豪華絢爛たる魔王城。

その謁見の間には、特注でドワーフに造らせたステンドグラスが陽の光を虹色に変える。

その光がどこにどう映るかまで計算されているのだ。


そんなことを懐かしく思いながら、ラスヴェートはどうしてこうなっているのかを考え始めた。


最後の記憶ははっきりしている。


トラアキアで遭遇した時の神ヤヌス・アールエル。

その双子の神のうち、加速を司る金色のヤヌラスとラスヴェートは戦うことになった。

仲間たちの協力とジェナンテラが正気を取り戻したことで、なんとかヤヌラスを討つことができた。

しかし、その勝利に油断したラスヴェートを減速を司る銀色のヤヌレスが奇襲し、死に到らしめた。


死んだのだ、余は。


そのことに気付いて、ラスヴェートは胸を押さえた。

ヤヌレスに突き刺された箇所だ。

夢の中の体には傷はついていない。

だが、刺されたという生々しい記憶が甦る。


だが、死んだというのなら迎えに来るのはアルメジオンのはずだ。

魔将の一人にして死を司る神アルメジオンとは、そういう取り決めだった。

その彼がいないということは、ラスヴェートはまだ死んでいないということになる。

ラスヴェートはその後のことを思い出そうとした。


けれど、死んだかどうかもわからないあやふやな己の記憶は、その後のことを覚えていないようだった。


夢の中の魔王城の謁見の間には、いつの間にか誰もいなくなっていた。

心細さを覚えながら、ラスヴェートは立ち上がる。


その時。

ラスヴェートは見た。

空間に走るひび割れを。


魔王城の夢は粉々に砕けちり、ラスヴェートは果ての無い虚空へ投げ出された。

真っ暗で何も見えない。

落ちているのか、浮かんでいるのか、あるいは静止しているのか。

それすらもわからない虚ろな夢。


長いような、そして一瞬のような時が流れた後。


うっすらとどこかの景色が浮かび上がる。

ひび割れた大地、赤茶けた空、枯れ木の森。

生命力が失われた世界の姿だ。

その世界には大きな亀裂が走っていた。


亀裂?


どこかでその単語を聞いた気がする。

近い記憶だ。

少なくとも封印から目覚めて以降。


思い浮かぶのは、金色のヤヌラスの顔。

人形のような顔に嘲りの色を浮かべた彼の言葉。


世界に亀裂が入った。


その言葉と、この景色が妙に符号している気がする。


『原初の神はその虚ろな心のまま弑された』


急に頭に浮かんだ文字列にラスヴェートは驚く。


『その身から流れいでたる血は亀裂に満ちた』


いったいなんだ?

これは何の記憶なのだ?


『そして亀裂より炎の杖持つ滅びの巨人が生まれた』


ひび割れたその世界の亀裂から、漆黒に燃える腕が生えた。

腕、肩、頭が亀裂から現れる。

ラスヴェートはその顔を見た。

金に輝く瞳を。


『巨人いでし時。すべからく世界は燃え上がり、灰塵に覆われ、大地は砕け散り、そして滅びる』


ラスヴェートと巨人の目があった。

その目に浮かんだのは、敵対する意思。


巨人の口が動く。

それはラスヴェートの知らない言語。


危険を察知し、ラスヴェートは大きく避ける。

その直後、さっきまでラスヴェートがいた場所が爆発した。

巨人の目がラスヴェートを追う。

それに応じて、爆発が連鎖し一気に迫ってくる。


「おのれ! マナバースト」


ラスヴェートは近接爆裂系魔導スキルを発動。

魔力の爆裂が、巨人の爆発攻撃と相殺……しきれず熱風がラスヴェートを煽る。


「余が防げない……魔導スキルではない。かといって精霊スキルでもない。どちらかというと神聖スキルに似ているが違う。つまり、あれは神々が使う神技と同じような“魔法”ということか」


魔法スキルは神々がこの世界の存在に与えたもの。

この巨人はそれとはまったく違う系統の魔法を使っていた。

それはつまり、巨人はこの世界のモノではないということか。


そこで、ラスヴェートは気付いた。


「世界を滅ぼす存在。亀裂……こいつが!?」


ラスヴェートたちの住む板状世界に亀裂が入った時、神々はそれを人間のせいだと考え、人間を滅ぼすために魔族を創造した。


だがしかし。

亀裂を起こし、それを拡げていくのをこの巨人が行っていたとしたら?

すぐにでも動いて、しかるべき対処をしなくてはならないはずだ。

人間と魔族と神々で争っている場合ではない。


しかし、これは本当に夢なのか?


予知夢、というものがあるのは知っている。

だが、こんな本当に戦っているような夢などあるのか。


巨人はさらに口を動かす。

ラスヴェートは跳ねる。

地面が爆ぜる。


「おおよそ、直径1メートルほどか。いったい何を爆破しているのだ?」


種がわからないから魔法なのだが、巨人はただ口を動かしな何かを呟いているだけで魔力を消費している様子もない。

範囲攻撃なので、その中にいなければ大丈夫だが。

その範囲もだいたい掴めてきた。

連鎖する爆発も読める。


それが巨人の狙いだった。


連鎖爆発の範囲から回避したラスヴェートは、巨人の顔、口許が動くのを見た。

詠唱ではなく、嗤ったのだ。


ゾクリと体が震える。


そして、ラスヴェートは動けないことに気付く。


麻痺? 違う。

神の目のような拘束? 違う。

魔力拘束? 違う。


違う! これは時間が凍っている!?


そんな概念はラスヴェートには無かったが、直感がそう告げていた。

爆発によって飛び散った大地のかけら。

小石や枯れ木の破片が宙に浮いたまま、停止している。

思考できているのは夢だからか?


しかし時間を完全に止めるなど、時の神ヤヌス・アールエルでも無理だ。

あの神の権能は時の加速と減速。

時を止めることはできない。


つまり、巨人は神以上の存在?


凍った時間に唯一、巨人だけが緩慢に動けていた。

まだ上半身の半分しか地上に出ていなかったのが、ゆるゆるともう半分も現れ始めている。

そして、もう片方の腕が引き上げられる。


その腕は、黒い金剛石にも例えられそうな漆黒の氷の塊で形成されていた。

最初に露出していた黒く燃え盛る腕とは対照的だ。


『はじめに亀裂があり、その中では炎と氷がせめぎあっていた』


まただ。


巨人は氷の腕を掲げた。

その手のひらから光がこぼれ、そして鋭く尖った円錐に形成される。

いや、簡単に言おう。


槍だ。


光の槍が無数に生まれる。


それが動けないラスヴェートに向かって、一斉に解き放たれたように射出された。


まずい。

回避しようにも時間が凍っているため動けない。

スキルの発動もできない。

自身の防御力に期待するしかないが、姿こそ魔王のままだが実際はレベル1だ。

よくて人間の冒険者なみといったところだろう。

いつも身につけていたラインディアモントの鎧もない。

これは直撃コースか?


あれ全てに貫かれて、なお存在を残すとなれば奇跡の話だな。


そして動けないラスヴェートに光の槍が殺到する。

次回!夢の中で魔王様はどうなる!?そういえばまだ眠ったままの人がいたような。


明日更新予定です。

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