表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
68/142

レベル67 魔王軍は肉食系

「紹介しよう、魔王軍十二魔将の一人“闇将”ファリオスだ」


嫌そうな顔のまま、ベリティスはダークエルフの女のことを紹介した。

関わった人員全部が嫌そうな顔をしていた。


「どーも。ファリオスだ。よろしくな」


眩しいほどピカピカの笑顔で挨拶するファリオスだった。

さっき、ここにいるほとんどを殴り倒したのを忘れたのだろうか。

いや、戦えば戦うほどわかりあえるという人種かのかもしれない。


「で、何しに来たんだ“闇将”さんは」


キースは軽く聞く。

なんかこういうのの扱いに慣れてきた。


「いやあ、一年くらい前にさ。魔王様が動いたような気がして、それを追ってたら半年前かな、突然消えたから……面白くなりそうだと思って来てみた」


「ダークエルフたちはさぞ苦労しただろうな」


同じく苦労人のベリティスが呟く。

聞けば、ダークエルフ族はずっとこのファリオスのことを封印というか、監視というか、していたらしい。

結局、彼女の気分次第でどうとでもなるものだったようで、その徒労感を思うと、ダークエルフたちに同情したくなる。


「それよりも、あんたさっきの弓使いだろ? あんたの矢、ゾクゾクしたぜ」


「は?」


「いやあ、なんか殺気? 冷たい息のような、さ。見込みあるよ、あんた」


「……いや、それほどでも……」


「それと、あんたジェナンテラだよな?」


ファリオスはベリティスの隣に立っていたジェナンテラを見た。


「え、あ、はい。ご無沙汰してます」


魔王軍時代にダークエルフ軍を率いていたファリオスとは、面識があった。


「いいね、あの精霊。あんたも容赦なくぶっぱなしそうで面白い!」


「あ、ありがとうございます」


「その他はダメ。全然使えない。教練サボってんの? ベリティスさんは」


「お前の基準が高いだけだ」


ベリティスの言うことは正しい。

人間には、長命種であるエルフや魔族の力を単体で超えるのは難しい。

人間のベリティス軍だって、この時代ではかなり強力な集団である。


ただ、ファリオスの基準は元の魔王軍の基準だ。

ファリオスに認められるぐらいでないと魔王軍では使えない。


うなだれていたのは、ヨートとアグリスだった。


この二人は、新生魔王軍との戦いで活躍している。

だから、それなりに自分は強いと思っていた。

しかし、ファリオスには手も足も出なかった。

戦いにすらならなかった。


ヨートはファリオスの一撃で昏倒し、アグリスはキースが間に合ったから生き延びたようなもの。

ファリオスは二人を殺すのは簡単だった。

だから、生かされただけなのだ。

全然ダメ、使えない、というセリフは二人の心に突き刺さった。


「そうかなあ?」


「それで、私の城で暴れに来たのか?」


「いやあ、それもいいかなと思ったけど。あんた死にそうだし、オレが鍛えてやるよ、こいつら」


ファリオスの笑顔に叩きのめされたベリティス兵たちの表情が固まった。


「殺すなよ?」


「殺さなければ何をしてもいい?」


「そう思ってくれてかまわん」


「了解」


その日、“闇将”ファリオスがベリティス軍の教練担当に就任した。



その夜のことだった。

ベリティスの授業を終えたキースのもとに、ヨートが訪れた。


「修行の旅に出る?」


ヨートはそう告げた。


「昼間のことなら気にしなくていいと思うけど?」


ファリオスとは圧倒的に実力差があったが、むしろ無いほうがおかしい。

人間と魔将にはそれほどの差がある。

それにくらいついているキースの方が異常なのである。


「私が納得出来ないだけです」


「そう、か」


「私は魔王様に拳を捧げました。と、同時に拳聖の弟子でもあります。どちらにしろ強くならなければならない」


「そうだね。俺もそう思うよ」


魔王様に仕えるにはもっと強くならなければならない。

彼の隣で戦うためには。


「だから行きます」


「ファリオス様の修行でも強くなれると思うけど?」


「彼女を超えなければならない」


その目は本気だった。

キースは頷いた。


「魔王軍は、いやランアンドソードはヨートの帰る場所だ。それだけは忘れないでくれ」


「わかった。ありがとうキース」


キースは今になって、この寡黙な仲間のことを信頼していたと気付いた。

初めて所属した冒険者パーティーで年もレベルも近い二人だった。

そうか、本当に仲間だと思っていたんだ。


「必ず帰ってこいよ」


「約束する」


ヨートはその夜のうちに、ベリティス城を出ていった。


夜が明けて、朝が来て。

特に何も変わりはない。

ただ、寡黙な拳術家がいないだけだ。


キースはそれを少しだけ寂しく思った。




ベリティスがキースを呼び出したのは、数日後のことだ。


意外にもファリオスは兵たちに無茶な訓練はしなかった。

まずは体の基礎をつくる。

人間の限界を超える魔族的な体に、まずは鍛えるということらしい。

その訓練風景を横目に見ながら、キースはベリティスの話を聞いている。

ベリティスは椅子に座っている。

もう、立つのもしんどいらしい。


「春になったら帝都へ行け」


「なんのためにです?」


「お前が正式にベリティス公爵の後継者だと皇帝に証明するためだ」


「本気ですか?」


「本気だ。そのために色々仕込んでいるのだからな」


ベリティスのキースへの信頼が厚すぎる気がする。


「だって、俺平民ですよ?」


「それを言うなら私とて魔族だ。そもそも、帝国法には平民が貴族の地位を受け継ぐことへの禁止事項や罰則規定は存在しない。いいか、貴族だから偉いのではない、偉いから貴族なのだ」


「また難しいことを」


「ともかく、根回しはしている。頼むぞ、二代目」


二代目と言われればまあ悪い気はしない。

幼い頃からの環境のせいか、キースは誉められると弱いのである。


やがて訓練に皆がついていけるようになり、ジェナンテラは精霊の扱い方を、アグリスは剣技をファリオスに教わるようになる。

驚くべきことに、ファリオスはスキルをまったくとっていないことが判明した。

技や魔法などのアクティブなスキルだけでなく、能力やスキルを強化するパッシブスキルもだ。

つまり、彼女の力は彼女自身の膂力と技術で成り立っていることになる。


「ダークエルフは皆そうなんですか?」


ある日の夕食でキースはファリオスに聞いてみた。

たまたまどちらも焼肉定食だった。


「そんなわけあるか。エルフとは基本打たれ弱く、精霊スキルに長けている。扱う精霊の種類によってダークだの、ウッドだの、ハイなどと分けられるだけさ」


実は結構重大なことを話している気がするが、キースはエルフ研究学者ではないのでスルーする。


「じゃあなんで、ファリオス様は自分自身の力だけで戦っているんです?」


「その方が面白いから」


焼肉をごはんにのっけてバクリと食らうファリオス。

なんだろう、魔王軍って肉を旨そうに食わなければいけない規則でもあるのだろうか。

ジェナンテラもそうだったし。


「ていうか、レベルが10あがるたびに強制的に選ぶことになりますよね?」


「実はあれは無視できる」


「そうなんですか」


「無視するメリットはないけどな」


スキルをとらないことを選んだ、このダークエルフの女性のことをキースはまだ理解できない。


「どうして、ファリオス様は魔王軍に参加したんです?」


「そんなことは決まってる」


また焼肉を食らいながらファリオスは言った。


「魔王様が強くて面白そうだったからさ」


良いことを言っている風味のファリオス様が、俺の焼肉まで取ろうとしたのでその手を叩き落とした。


ケチ、とファリオスは言った。

次回!夢の中で魔王様が大暴れ!ようやく出番だ!


明日更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ