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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル66 その女凶暴につき

グランデ王国侵略など、もちろんおこらず、冬になった。

キースのいた森も雪に覆われ、白く染まっている。


ベリティスは激しい動きができなくなっていた。

大量に魔王に譲渡した魔力は、やはり回復できるものではなく。

ベリティスの命は、残り時間は刻一刻と短くなっていく。

ジェナンテラもその事に気がついていた。



来訪者があったのは、そのあたりのことだった。



ベリティス公の城の門番は、山賊出身の男だった。

とはいえ、とっくに足を洗っており、ベリティスに仕えた年月の方が長い。

しかし、若いころに覚えた粗野な口調はなかなか抜けない。

だから、見慣れない来訪者につい乱暴な口の聞き方をしてしまったのだった。


「なあ、あんた。なんの用だ?」


これをもう少し口汚く言ったような感じだ。


来訪者はねずみ色のフード付きのコートを頭から被っている。

そのため、顔などは見えない。

かろうじて体型から女性ではないか、と判別できる程度だ。

寒いから頭からフードを被っていてもおかしくはないが、ここはこのあたりの領主ベリティスの居城である。

不審といえば不審だった。


「ベリティスの手下にしては品がないな」


若い女の声だ。

山賊出身の門番は予想が当たったことと、言われた言葉の内容に戸惑う。


「あんた、領主様の知り合いか?」


「どうだっていいよ、そんなことは」


「え?」


「私はここを通りたい。で、あんたはそれを塞いでいる。だから、私は押し通る」


まるで言葉が通じていないのではないか、と思うほど彼女は門番の言うことを聞かなかった。

元、山賊の勘が警鐘を鳴らした。


これはヤバいやつだ、と。


咄嗟に門番は逃げた。

と、同時にねずみ色のコートの女はフードをはねあげ、顔を見せる。


「ダークエルフ……!?」


褐色の肌、銀色の髪、長く尖った耳。

エルフと呼ばれる亜人のさらに亜種といわれる暗黒の種族。

そのダークエルフが手に巨大な両手剣を握っていた。


「こんな門なんかで私を止められると思うなッ!!」


両手剣が振られる。

門に当たる。

当然のように、門は粉々に砕けた。


ダークエルフの女は満足そうに頷き、城内に進んでいく。

門番は腰がぬけて逃げることも、追いかけることもできなかった。


侵入者ありの報告は、瞬く間に城内に伝えられる。

訓練をしていたベリティス兵、そしてヨートとアグリスもその報せを受ける。


「この城に侵入だなんて、どんな方なのでしょうか?」


アグリスは緊張した面持ちで駆ける。


「わかりません。けど、ベリティス公の居城に侵入するということは、よほど自信があるということでしょう」


ヨートも拳を握ったり、開いたりしながら駆ける。


侵入者は、どうやら城門を通過した先にある広場にいるらしい。

先に向かった兵士らはどうなったのだろうか。



城門広場はうめき声に満ちていた。

兵士らは死んではいないが、倒れて動かない。

立っているのはただ一人。

両手剣を持ったダークエルフの女だけだ。


その女の発する戦闘の気配に、ヨートとアグリスは瞬時に戦闘態勢に切り替える。

油断すれば死ぬ。


ヨートは魔力を解放。

上昇したステータスのままにダークエルフの目の前に立つ。


「ああ?」


ダークエルフの女の訝しげな声に構わず、踏み込み、その力を関節を介して伝導、拳へ繋げる。


「“四崩拳”」


突きだされた拳は、確かに女の腹に当たった。

ヨート自身まれに見る会心の一撃だった。


しかし、それはなぜか大きな岩を殴ったような感触をヨートに与えた。


「なんだそれ? 殴ったのか、今?」


ダークエルフの女はつまらなそうに言って剣を振った。

ヨートは剣の腹で殴打され、吹き飛ばされ、昏倒する。

兵士たちも同じようにやられたのだろう。

アグリスは震える剣を強く握り直し、駆けた。


「う、うああああ!」


「遅いよ」


すでに、ダークエルフは反応していた。

その銀の髪をひるがえして、両手剣が振られている。

アグリスは咄嗟に「ウツロ返し」を発動する。


「ん~? なんだ、妙な技だな」


魔力の爆発、そして選びうるいくつもの可能性の中から四つを同時発動。

即ち、緊急回避と牽制の三連撃。


「同じタイミングで手数が増える感じか? なら」


ダークエルフはニィッと笑った。

そして、アグリスの方を見て言った。


「なら、全ての可能性に対処すればいいだけ」


突きだされた両手剣の鉄板の様な刃は、アグリスの三連撃を全て受け止め、回避しようとしているアグリスの胸部装甲にまで届く。

ほんのちょっと力を込めれば、心臓を貫きうる威力のダークエルフの女の突きは、しかしそこで止まった。


左には今にも放たれる寸前の、キースの矢が。

右には解き放たれる瞬間を待つジェナンテラの精霊“朱雀”が。

ダークエルフの女を狙っているからだ。


「剣を引け」


キースの声。

どんな相手であろうと一歩も引くことのない覚悟を決めた声だ。


「いやだ、と言ったら?」


「あなたがうん、と言うまで狙い続けます」


戦闘中だろうが、食事中だろうが、入浴中だろうが、睡眠中だろうが、なんだろうが。

敵対し続ける限り、キースはその矢で狙い続ける。


「ふうん?」


ダークエルフはその桃色の唇をペロリとなめる。

舌もきれいな桃色だった。


そして、スッと剣を引き、片手で器用にくるくるとまわし、背中に納めた。


「数百年ぶりに自由になったんだ。飯や風呂まで見張られていたらたまらない。というわけで、ここは君の勝ちにしよう」


清々しい笑顔でダークエルフの女は両手をあげた。

敵対する意思はない、ということだ。


そこでジェナンテラは精霊を解放する。

朱雀は空へと融けていった。


「ジェナンテラ!?」


キースは舌なめずりをする獣のようなダークエルフの表情を見た。

その顔はジェナンテラを向いている。


キースにできたのは注意をうながすことだけだった。


「?……!?」


気を抜いたジェナンテラへ、ダークエルフの女は手を突きだした。

精霊を解放したばかりで、戦う手段がないジェナンテラは殺気とともに向けられたダークエルフの女の手刀に反応できない。


「でも、なめられたままってのは癪にさわる」


キースもとっさのことで矢を放つまでの反応ができない。

あまりにも鮮やかな裏切りに対応できない。


「こ、の! 妾を侮るなッ」


ジェナンテラは精霊を強引に、自身の前に呼び出す。

ジェナンテラを突けば精霊が爆発を起こし、ダークエルフの女をジェナンテラごと爆破する。

肉を切らせて骨ごと爆破する覚悟だ。


「いい、いいよ、お前ら。ヒリヒリするようなギリギリ!! もっと味合わせろッ」


顔に喜色を浮かべてダークエルフは、手刀を突き出すのを止めない。

キースは矢を放つのを止めない。

ジェナンテラは精霊を展開するのを止めない。


このまま行けば三人とも爆発する精霊に巻き込まれて最悪死ぬが、三人とも動きを止めなかった。



「まったく愚か者どもが」


その声を発したのは、この城の主。

手にした杖を振るい、高位の魔導スキルである“行動停止”を多重発動している。

キースも、ジェナンテラも、ダークエルフの女も動きを止めている。


ダークエルフの女はその顔に喜色を浮かべた。


「久しぶりだな、ベリティス!」


ベリティスは嫌そうに顔を歪めて、その女の名を言った。


「貴様の顔を再び見ることになるとはな、ファリオス」


ダークエルフの女……ファリオスは腕を組んでニィッと笑った。

トラアキア編の最後でチラリと出てきたダークエルフの女性です。


次回!その女が騒動を引き起こしたり起こさなかったり!


明日更新予定です。

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