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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル65 同族嫌悪× 似た者同士○

結局、二柱の神に見張らせていたのは、キースが理のみで生きる存在であるかを知るためだったのだそうだ。

合理的に行くのであれば、小屋に残っていた骸など裏に捨てておけばよい。

目につく動物を片っ端から射殺していけばいい。

キースにはそうできる力と技術がある。


だが、キースはそうしなかった。

死者は弔い。

獣は必要以上に殺さなかった。

これは、理だけでなく情もある、とベリティスは判断したようだ。


ちなみにベリティスだが、今にも死ぬとかではなく無理をしなければまだ長生きできる、らしい。

だが、後継者としてキースを指名したということは、何か無理をするつもりなのだろう。


「謀略とは理だけでなく情も大きな要素を持つ。なぜなら、相手にするのは感情を持つ存在だからだ」


理。

ことわり。

条理、道理。

こうすれば、こうなる。


しかし、感情は不条理だ。

それを知り、合わせ、操る。


情と理を両輪にして、謀略はなりたつ。


「片方だけでは、はじめは上手くいってもいずれ駄目になる」


とまあ、こんな風にベリティスはキースに個人授業をし始めた。

たまに、ジェナンテラも混ざり、議論もあわせた授業になる。

森の生活は終わり、こんどは寝ても覚めても授業という生活になった。

森の生活の方が楽だった、とキースは思っている。


座学だけではなく、戦闘訓練も行われるようになった。

ベリティス公の軍隊は、異様に実戦慣れしているため、キースもかなりしごかれた。

なんでも、傭兵、冒険者を中心に山賊や野盗出身者で構成されているらしい。

実戦経験豊富なわけだ。

ローグ系のやつらの中にはキースの知り合いもいた。

まあ、しごかれるのには変わりはない。


「弓箭の腕前に関してはまずまずといったところだが、それ以外の近接戦闘に関しては駆け出し冒険者レベル」


というのが、キースへの評価である。

でも、俺駆け出し冒険者なんだが。


体力づくり、攻撃の基礎、防御の基礎を叩き込まれる。

なんでも、兵卒を知らずして兵略は語るべからずが、ベリティスの思想らしい。


一定のペースで、訓練場を走る。

兵士たちよりは遅れぎみだが、なんとか食いついていく。


「ではな、キース。先にいくぞ」


と、軽快にとばすのはジェナンテラだ。

精霊使いにして、魔王(仮)。

ジャガーノーン系列の魔族の特徴である頑健な肉体を持っている

ため、あのように速く走れるのだろう。

その後ろについていくノーンもジャガーノーン系だからがっしりとしている。

ジェナンテラは、細身で肉がついていないのにノーンが追い付けない。

筋肉の要素は魔族には関係ないのだろうか。


昼でも、涼しくなってきたのはもう秋が来ているからだろう。


「籠城に適した季節をあげよ」


隣を走っていたベリティスが、急に質問をしてくる。

今にも死にそうな設定はどこへいった!


その言葉をぐっと飲み込んでキースは問いの答えを発する。


「秋です」


「その理由は?」


「作物を早めに備蓄することができるため、長期の兵糧を確保できること。それに冬が来れば積雪によって包囲が困難になること。この二つが理由です」


「その場合、敵軍がとるべき作戦は何か?」


今度は陣営を変える想定だ。


「力押しで犠牲を省みない策、もしくは相手が兵糧を確保する前に作物を確保すること」


「両作戦の問題点を挙げよ」


「前者の力押しは攻城戦用の装備が必要、そして防衛側の死を覚悟した防御を突破しなければならない。後者は相手の作戦行動を読んで先に動かねばならないことと、兵糧の確保時に多額の金銭もしくは現地の反感、あるいはその両方が必要になるのが問題点です」


「では、それを踏まえて守備側1500がこもる城を攻める策をたてよ。ただし、早期の兵糧確保には失敗している」


どうして、ランニングしながら模擬戦を行わねばならないのか。


「籠城に対しては三倍以上の兵力で攻めるのが基本、ゆえに最低でも4500の兵力が必要」


だいたい100スタインの領地で3人の兵士を供出できるとされる。

1スタインが一年の間に一人が食べるライサル麦の量だと言われる。

百人が一年食べられる領地で三人だ。

つまり、4500人をひねりだすためには15万スタインの領地が必要。

15万スタインもの領地といっても解りづらいが、だいたい中規模の貴族がそのくらいだ。

1万スタインの領地を持ってはじめて貴族と呼ばれるともいわれる。

大貴族だと100万スタインの領地を持つと言われるけど、そんなのはごく少数だ。

だいたいベリティス公領だって、10万スタイン、約3000人の兵士が限界だ。

であれば、仮想敵はどこだ?

こちらが手を組める友好勢力は?


「仮想敵をグランデ王国北部のベルデナット女王軍と仮定、こちらは海軍でグランデに上陸した陸戦部隊、ベリティス公爵軍とトラアキア藩王国軍と想定」


ベリティスの片眉がピクリと動く。

キースは走りながら続ける。


「上陸した我が軍はトランデ城塞を包囲、城塞側はすでに兵糧を確保している1500」


「なぜ、王都ではなくトランデ城塞なのか述べよ」


「半年前の内乱によって王都周辺は戦闘に耐えうる施設が存在しない。もし、それらが健在としてもトランデ城塞がグランデ随一の堅城であることは間違いし、こちらとしてもそっちに追い込みたい」


「追い込みたい、とは?」


「王都は町並みが入り組んでおり、防衛にも攻撃にも向かない。それに王族の脱出口は必ずあり、それを利用された場合捜索が困難になる点、そしてトランデ城塞には決定的な弱点があるためです」


「後学のため聞いておこう。トランデ城塞の弱点とは?」


「その堅固さそのもの。固いゆえに小回りが効かず、また攻撃に転ずるのが遅れてしまう点です」


グランデ内戦の際に、トランデ城塞にこもった正規軍はどちらにも攻撃しなかったのではなく、できなかったということになる。


「ふうむ。では、それらを総合してどう攻める?」


「秋のうちに、別動隊を1000から2000組織します。残りで包囲を続けつつ、別動隊は周辺の制圧を進めます。この時、早期の制圧を望むなら焼き討ちを行い、時間に余裕があるのなら領民を取り込む方向でいきます」


「その後は?」


「トランデ城塞からベルデナット軍は必ず出てきます」


「籠城しているのに、か?」


「はい。支配者には下位の者を庇護する義務があります。故に臣下が攻撃されているならば助けなければならない。トラアキアが攻められた時にベルスローンの皇帝が出陣したように。そうでなければ、その臣下は離反します」


忠誠を尽くす者もいるかもしれないが、そういった者はおそらくトランデに入城している。

誰だって勝てない相手とは戦いたくない。

忠誠心の低い者は特にだ。

ましてや、国軍からの支援が受けられないのなら、とっとと寝返った方が得と考える者もいるだろう。

実際にグランデの内戦では、寝返りの嵐だった。

スターホークのモノノフトルーパーの寝返りなんて見事だった。

寝返りつつ、こちらに大打撃を与えていったのだから。


「全ての臣下が寝返るまで動かなかったら?」


「その時は、全軍で兵糧攻めです。まあ、そこまで持つんなら、こっちの作戦目的はほぼ達成されたようなものですけど」


「なぜ、グランデを想定した?」


「なんか、仮想が妙に具体的な気がして。ここいらでそのくらいの兵力運用ができる勢力を考えたら、グランデかな、と」


ベリティスの片眉がまたピクリと動く。


それに、ベリティスはベルスローンの軍人だ。

ベルスローン帝国がこれ以上拡張するのなら、グランデやキディスがある辺境地方に進出するしかない。

その時の最初の相手はグランデ王国となるだろう。

それをベリティスが念頭に置いていた気がする。


「なら、お前に任せて見るか?」


グランデ侵攻を?

キースは考えることもせず断った。


「ベルスローン帝国の軍人ならアリかもしれないですけど、俺は魔王軍の一員なんでナシです」


「ほう? なぜかな?」


「辺境地方は潜在的には魔王様の領土も同然ですよ。キディスの女王もグランデの女王も、もっと言えば二つの国の軍部もある程度、魔王様がコントロールできます。そこに攻め込む意味はないです」


それに、とキースは続けた。


「俺はあそこでは死んでいることになっているので」


グランデの先王の王弟アトロールの軍師キースは、決戦の最中、星光国騎士団とともに戦死した、ことになっている。

それがベルスローンの軍師として侵略してくるなど悪い冗談だ。


「死者が操る地獄の軍団、など面白いと思うぞ」


クックックと悪そうにベリティスは笑う。


「アルメジオン様に兵を借りますか」


「それも面白い」


なんだかんだいって、ベリティスとキースは気が合うのかもしれない。



次回!ベリティス城に冬が訪れ、嵐のような人物が来訪する!


明日更新予定です。

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