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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル64 謀将の後継者

「ベリティス様が呼んでおる」


たらふく食って人心地ついたジェナンテラは、ようやく用件を話した。


「そういうのは先に言え!」


「ううう、またキースが怒るのじゃ」


「で、何か仰せつかるのか? それとも一時的な呼び出しか?」


「妾はともかく、キースたちはベリティス様の配下では無いのだから、仰せつかるということではないじゃろう、たぶん」


魔王軍時代、ジェナンテラはベリティス軍団に配属されていたそうだ。

ジャガーノーンが死に、魔族残党の取り纏めをジェナンテラがするうちに疎遠になってしまったらしい。

魔族があらかた滅び、ベリティスに保護されたのをきっかけにジェナンテラはベリティス軍に復帰したようだ。

まあ、今はほとんど人間の軍なのでいきなり将にはなれず秘書扱いからの再スタートだという。


「ふうむ。今からか?」


「今からの方がよかろう」


「だったら先に言え!」


「同じ事を言ったのじゃ」


「大事なことだから二回言ったんだよ」


キースは手早く火の始末をして、ジェナンテラとともに森の外へ出発した。


ベリティス城は質素ながらも堅城であり、この時代の城建築の見本とも言われている。

キースはまだ二度目の入城だった。


ベリティスは私室にいた。

机と椅子、の他にはところ狭しと本棚が置かれ、ぎっしりと書物や資料がつまっている。


「急に呼びつけて悪かったね、キース君……夕食はタヌキかね?」


「はい。そちらの秘書殿にあらかた食べられましたが」


「ジェナンテラ……夕飯にたくさん食べると太ると、言わなかったかね?」


「うげ……言われました……」


「訓練場で汗を流すといい、十周も走れば余分な脂肪も落ちるだろう」


「……十周……」


「聞こえなかったのかね?」


「い、いいえ。ただいまより、訓練場を駆けてきます」


ジェナンテラはあわただしく出ていった。


「……まるで娘のように扱うんですね」


「娘のようなものさ」


ベリティスは机に腰かけて、キースを見た。


「……」


「森での暮らしはどうかね?」


「食べ物は豊富だし、あんなところに都合よく小屋があったり、なかなか楽しんでますよ」


「それは良かった。キディスローグギルドの幹部キース君」


「教えてないことを口に出されて、俺が動揺するとでも?」


「いやいや、こちらとしてもこのくらいはできると、ということさ」


「そうですか。それで、俺に何をさせたいんです?」


「それは、君があの森で何を見つけたかにかかっている」


「俺が、あの森で?」


半年に渡り暮らしてきた森。

キディスのスラムよりも環境はいい。

食べ物も豊富だし。


「いるんだろ? アルメジオン」


ベリティスの言葉とともに、冷たい手で心臓を鷲掴みされているような気分になる。

虚空からフッと現れたのは髑髏の面をかぶった男、死神にして“死将”アルメジオン。


「いやあ、久しぶり。あの節以来だね」


スローンベイからトラアキアまで幽霊船で送ってもらった時に別れて以来、か。


「お久しぶりです」


「どうだった?」


ベリティスの質問にアルメジオンは答える。


「死者への敬意は感じたよ。弔い、埋葬、遺品も大事に使ってくれた。彼も喜んでいたよ」


アルメジオンの言う“彼”とはおそらく、あの小屋で亡くなった不法移民のことだろう。


「そうか、参考になった」


「じゃあ、そういうことで。今、神の間の監視が厳しくてね。すぐに帰らなきゃ」


と言ってアルメジオンはまた虚空へと消えた。


「一体、なんなんです?」


「待て。もう一人だ。お答えいただけますか、バルニサス様」


その声に反応して、ベリティスの書棚にある本が一冊飛んできて宙に浮く。


「適当な寄り代がなくてすまないね」


「いえ、来ていただけて光栄です。お願いしていた件ですが」


「あの件ですね?」


「はい」


同じ神相手なのだが、アルメジオンとバルニサスに対する受け答えが違うのだな、とキースは感じた。


「人には人の、獣には獣の、それぞれの法があります。あの森での彼は人でありつつも、獣の法を尊重している態度が見受けられました」


「わかりました。ありがとうございます」


「では、私もあの会議にでなくてはなりませんので」


本を寄り代にしていた司法の神バルニサスは、本を書棚に戻して帰っていった。


なんなんだ?

神様二人に、俺のことを聞いて何を?


「魔王様も君のことを気に入っていたようだった」


と、ベリティスは呟いた。


「そう……ですね。気に入られていた自覚はありましたよ」


「ジェナンテラも、だ」


「そう、ですかね」


「だから、これは娘をとられる父親のような気分なのだろう。あるいは同族嫌悪か」


「は?」


「現状、私に匹敵する頭脳の持ち主は、神を除けば、ベルスローンの皇帝、ハンマーランドの戦王、カールシュヴィッツの魔法王、神聖バルナの法皇、そして彼らの幕僚くらいのものだろう」


この世界の名だたる大国の支配者たちの名前が挙げられた。


「そして、それらには及ばぬがキディスのキースの名もいずれはそれに加わるのやもしれぬ」


「え?」


「お前を私の後継者にする。魔王の軍師としてな」


「は!?」


「とはいえ、今のところは凡百の者らより多少秀でてるというくらいだがな。しかし、時間も人もいない今、選り好みはしてられない」


「時間も、ない?」


ベリティスはハッとしたような表情を見せた。

喋るつもりのないことを言ってしまったように。


「まったく、賢しいのも考えものだな」


「なんなんです? 何の時間がないというんですか」


ベリティスは諦めたように、口を開いた。


「私の残り時間だ」


「残り時間? ……死ぬんですか?」


純粋魔族には寿命がない、とジェナンテラが言っていたような気がする。

だから、五百年たってもベリティスも、ジェナンテラも、そして魔王様も生きている、と。


「ヤヌス・アールエルによって傷ついた魔王様は死んでいた。そこで、私は自身を構成する魔力を限界まで注ぎ込んだ」


「自身を構成する魔力って、それは!」


魔族とは魔力に意思が宿った存在。

その魔力を大量に、身体を構成できなくなるほど注げば、それは。

魔族にとっての死だ。


「幸いにして、私は魔王様より生まれた眷族。それをお返ししたまでのこと。そして、魔王様は生きている。それが一番重要なことだ」


魔王ラスヴェートが直接生み出した眷族はベリティスとジャガーノーン、それぞれ魔王に匹敵する知と力を持っていた。

それ以外の魔族は、魔王創造前に神々によって生み出された兵器が祖先だ。


「他の奴らが魔力を注ぐことはできないんですか?」


「ふうむ。ジャガーノーン自身は亡くなったが、その眷族は残っている」


例えばノーンだ。


「じゃあ……」


「だが、ジャガーノーンより分かたれた眷族そのものではないために、おそらく魔王様の助けにはならない」


「そんな……そしたら、あとは」


赤い目の女魔族の姿が浮かぶ。


「ジェナンテラは中身こそジャガーノーンに似たが、どちらかというと母親の血が濃いようだ」


だから、無理。

魔王復活に力を注ぎすぎたベリティスの死は確定している。


「だから、俺ですか。あんたの代わりをさせようと?」


「私の代わりなど誰にもできない。そして、お前の代わりも、だ」


お前はお前のやり方で、魔王様をお支えしてくれればいい。

と、ベリティスは遠くを見ながら言った。

神と船に乗ったり、戦ったりした経験のせいでキース君の信仰心はゼロです。

のでアルメジオンとバルニサスが現れても敬うどころか驚きもしませんでした。


次回!後継者に指名されたキースへのベリティスの教育的指導が始まる!


明日更新予定です。

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