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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル60 朱天の追憶・乱

 魔王封印される。


 その報告が入った時、全魔王軍将兵は思考停止した。

 あの、魔王様が封印されるなどありえない。

 

 その後にぞくぞくと入ってきた情報で詳細が判明した。

 人類連合軍が魔将たちの拠点に散発的な攻撃をしかけていたこと。

 そして精鋭部隊をキディス平原に進軍させていたことなどだ。


 つまり魔将たちを分散させて、魔王城を落とす作戦だったようだ。


 しかし、人類連合軍の精鋭部隊は魔王直轄軍との戦いで全滅する。

 そして、それすらも陽動。

 二十人ほどの英雄と呼ばれる上級職持ちを魔王城へ送り込み、魔王と決戦させたのだ。

 英雄はほぼ死亡。

 残った大賢者が魔王を封印した。


 魔王軍は一部の魔将が暴発した以外は、ジャガーノーンとベリティスに従い、戦争は続けられた。


 ベリティスのもとで勉学に励んでいたジェナンテラは、そのままベリティス麾下の士官として魔王軍に入軍した。

 ベリティス軍はあまり前線に出ることはないが、補給や兵糧運搬などの任務にたずさわることが多く、いつも忙しかった。

 そんな中で、大事件である魔王様封印。

 その報告を聞いた瞬間に、ベリティスは行動する。

 ジェナンテラらの将兵を集め、ジャガーノーンと合流。

 魔王軍健在を見せるために、その行程の間ジェナンテラたちはド派手な軍服と装備を支給された。


 魔王あっての魔王軍だったが、万が一が起こってしまったが、その対応はまずまず上手くいった。


 その後は、ベリティス軍も前線に出ることが多くなった。

 魔王封印後のゴタゴタで、魔将の半数がいなくなり、戦力的にも半減以下になってしまったからだ。


人類とは一進一退の攻防が続き、やや魔族が優勢の状態で百年以上が経過した。

 

 そして、もう一つの大事件が起きる。


 数年前から勇者と名乗る存在が魔族に戦いを挑んでいるという情報は届いていた。

 確証はないものの、対魔族に特化した装備やスキル構成をしている者なのだろう。

 その勇者が、ベルへイム国の支援を受け、ジャガーノーン討伐に乗り出した。

 ジャガーノーン砦までの魔族の拠点は次々に落とされ、後にトラアキアと呼ばれる地は人間の占有地となった。


つまり、ジャガーノーン砦が魔族の最前線となったのだ。

ベリティスは至急、配下の軍団をジャガーノーン砦へ援軍として派遣。

それを指揮したのはジェナンテラだった。


しばらくぶりに見る父の姿、それは思っていたよりも良かった。

魔王様が封印され、実質的な魔王軍のリーダーとして最前線で戦い続ける魔将の中の“魔将”。

その責任に押し潰されてはいまいか、とベリティスは心配していた。


「ベリティス軍団25000着陣いたしました」


「了解した。貴軍は砦右翼に布陣し、防衛並びに挟撃をしてもらうことになる」


「了解しました」


父と娘の会話にしては固いものがあるが、それはそれである。

ジャガーノーンは魔王軍の大将であるし、ジェナンテラはベリティスの名代としてここにいる。

慣れ慣れしく会話などすれば士気に関わる。


まあ、公式の場くらいだが。


「時に、これから夕食をとるのだが同席してもらえまいか」


「ありがたくお受けします」


ジャガーノーンは、その返事を聞いてニッと笑った。



「すっかり軍人が板についたな」


「なにせ、師匠が師匠ですから」


「厳しいよなあ、ベリティス」


「まったくです」


戦時下で、しかも王が不在でも、今にも攻められようとしていても、ジャガーノーン砦の食事は豪勢だった。

肉的な意味で。

ジャガーノーンは手掴みで骨付き肉にかぶりつき、ジェナンテラはナイフとフォークで牛肉のステーキを切り分けて食べる。

淑女的なマナーも教わったが、食事に関しては発揮されないことが多い。

大きく口を開けて、大きく切った肉を食べる。

噛むたびに心地よい歯ごたえと溢れんばかりの肉汁で、口が幸せになる。


「全然似てないと思っていたが、肉の食い方はわしに似たな」


「父上の食べ方は下品です、とベリティス様が言ってました」


「あんにゃろう」


二人でモッキュモッキュと肉を食らう。


「戦況はどうなんです?」


「悪いな。魔王様が封印された時よりも悪い」


「魔王様が封印されて、魔将が半分いなくなったよりも悪いと?」


「勇者。その一人だけで魔族は止められてしまう」


「どれほどのものなのです?」


「対魔族のみだが、高機動、広範囲高火力、高防御だな」


「なんですか、その“僕の考えた最強の勇者”は」


「知らんよ。どうせ、神々が何か考えたんだろ?」


神々は基本中立、いやどちらかというと魔族寄りの姿勢をとっていたが、ここ最近人間の方へ支援をすることが多くなっている。

その最たるものが勇者だ。

“魔将”ジャガーノーンですら相手にするには、正直なところ強すぎる。


「では、どうするんです?」


「魔族特化なら、魔族でないやつらに頼もうと思ってな」


「ああ、なるほど」


ダークエルフの最強戦士である“闇将”ファリオスと、ナイトハウンドの“夜将”クランハウンド、そして幽霊に近い生き物と言われるインビジブルの“影将”ヒュプノス、ゴーレムの“鋼将”ラインディアモント。

生き残っている魔将たちは、魔族で無い者のほうが多い。

対勇者戦において有効な戦力になってくれるだろう。


そして、数日がたちナイトハウンド軍団、インビジブル軍団、ゴーレム軍団が着陣した。


「お初にお目にかかるかな? ジャガーノーンの娘よ」


流暢な言葉で話しかけてきたのは“夜将”クランハウンドだ。

ナイトハウンドという夜行性の黒い巨犬がいる。

クランハウンドはその突然変異種だ。

ナイトハウンドそのままの高い攻撃力と運動性はそのままに、高い知能を有している。


「これはご丁寧な挨拶、ありがとうございます、“夜将”クランハウンド様」


「わたしが来たからには勇者といえどおそるるに足りず、だ」


これを見た目は黒くて大きいが犬がしゃべっているのだ。

そのギャップがいいという者もいて、若い女性を中心にクランハウンド愛好会なるものが結成されている。


 一番愛想が良かったのはこのクランハウンドだった。


 その後に来た”影将”ヒュプノスは常にブツブツ言っていた。


「あいつが何を言っているかわかるのは魔王様だけだ」


 とジャガーノーンは言っていた。


 そしてもう一人”鋼将”ラインディアモントは言語ではなく効果音で会話してきた。

 初対面の挨拶は”ガキーン!”だった。


「おう、可愛い娘さんですね、だそうだ」


 と、ジャガーノーンは翻訳した。

 わかるのか、と聞くと、なんとなくわかる、と脳筋らしい言葉が返ってきた。

 あまり信用はしていない。


 緊急事態の知らせが来たのは、そのすぐ後だった。


「”闇将”ファリオス、勇者を撃退するもダークエルフ軍半壊」


 ジャガーノーン砦に向かっていたダークエルフ軍と勇者軍が偶発的に遭遇、戦闘になった。

 勇者とベルヘイム軍によって、数に劣るダークエルフ軍は半壊させられたが、指揮官である”闇将”ファリオスは単騎で人間を圧倒、勇者をも撃退する。

 だが、戦力にならなくなったダークエルフ軍は撤退した。


「ファリオスに感謝だな。これで、貴重な時間を得ることができた」


 そして、ジャガーノーンは勇者を倒すために野戦に打って出ることを決意。

 魔王軍を率いて、決戦の地へ向かう。


 ネルザ平原。

 そこが魔王軍と人間の、決戦の地である。

今回出てきた戦力がこの時点での魔王軍のほぼ全軍になります。

だいたい八万人ほどでしょうか。


次回!回想編終了!決戦から魔王軍壊滅、そして新生魔王軍まで。


明日更新予定です。


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