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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル50 新たなる仲間(オネェ)

トラアキアの街道には魔族があふれていた。

しかし、新生魔王軍として規律を徹底されている様子はなかった。

藩都攻撃の際に、ついていかなかったり、はぐれた魔族が自由に行動している感じだ。


魔王たちは、市街地での行軍のように(魔王を盾にして)魔族を倒しながら進んでいった。

市街地より弱い魔族ばかりで苦労することなく、進軍できる。

とりあえずの目的地はネルザ砦だ。

トラアキアの藩都は海沿いにあるため、地形的な中心地ではない。

ネルザ砦がそれに当たる。

といっても、街道は藩都に集中しているし、人の住む街もそのあたりに多くある。

好き好んで、魔族の集うジャガーノーン砦の近くに住む者はいないのだ。


つまり、トラアキアの領地の半分以上は人の住めない土地だった。

言い替えれば、魔族の領土だったということになる。


「これは、勘違いをするのも当然か」


「何か言いました魔王様?」


「いや」


トラアキアの半分が、魔族の領地だという勘違い。

だから、簡単に侵略することができる、と新生魔王軍の上層部は判断したのだろう。


街道に飛び出てくる魔族を倒しながら、魔王たちは進んでいく。

その姿は、バレンシやナガーンを劣化させたような見た目だった。

魔族の繁殖の仕方は二つある。

一つは人間と同じように、男性型魔族と女性型魔族がつがいになって、子供を造るやり方だ。

この場合は、二つの魔族の魔力遺伝情報がランダムに発現される。

結果として、生まれた魔族は両親の遺伝情報を受け継いでいる。

強いのか、弱いのか、普通なのかは生まれて成長してみないとわからない。


もう一つは、分裂ともいうべき方法だ。

経験値を犠牲に、ある程度の成長した状態で自分のコピーともいうべき個体を生み出す。

この方法のメリットは、既に成長した状態のためある程度の強さが期待できることと、強さの予測がつきやすいことだ。


前者はジャガーノーンの娘であるジェナンテラ。

後者はバレンシやナガーンなどのジャガーノーン系列の魔族が挙げられる。


この言い方でわかる通り、前者は家族、後者は眷族として扱われる。


そして、今街道にあふれているのは分裂した魔族たちだ。


「だが、今あふれているやつらはいささか多いな」


「多いな、というのはどういうことです?」


キースは魔王の言葉に何か引っかかるものを感じたようだ。


「分裂型魔族は経験値を犠牲にして産み出される。つまり、増やせば増やすほど、本体は弱くなる。そして、次に産み出される魔族はその弱い状態を参照してくる」


増やせば増やすほど弱くなる。


「市街地のより弱く感じたのは、そのせいでしょうか?」


「おそらくな」


「ということはですよ? 兵卒を産み出すための魔族がいるってことですよね」


「だろうな」


「それって幸せなんでしょうか?」


「幸せの価値は人それぞれだ」


「……ですよね」


「だが、余はそれを幸せとは思わん。全力でぶち壊そう」


「ですよね!」


そして、ネルザ砦が見えてきたのは三日目のことである。

ジャガーノーン城へ向かうだけのみに使われる街道に、ドデンとそびえる砦だ。

よく見ると、かなり手の込んだ作りになっている。

トラアキアの防衛予算の大半をつぎこんで建設されたという噂があるが、ただの噂ではなかったようだ。


「しかし、攻められた様子はないな」


ジャガーノーン城からトラアキア藩都に侵攻するには必ずこのネルザ砦を落とさなければならない。

そのために造られた砦だからだ。

魔族との最初の戦闘を仮定して建造された砦。

しかし、この砦は攻められず、トラアキア藩都は落とされた。


「それって、兵卒分裂魔族とナガーンが二人でこっそり抜けたってことですか?」


「おそらく、そうだろうな」


つまり、兵卒分裂魔族とナガーンは二人でこっそりネルザ砦を避けて人間の領土に侵入。

ある程度距離を稼いで、分裂を開始。

兵卒をナガーンがまとめて、油断している藩都を襲撃し、陥落させた。


「ということはですよ? その分裂をしている魔族はほとんど自動的に分裂しているんじゃないんですか?」


弱い魔族があふれるほどいるこの状態。

元の個体はかなり弱くなっているはずだ。

それでも分裂を止めない。


「そうであろうな。おそらくレベル1になるまで増え続けるのだろう」


「なんか、嫌な策ですね」


「追い詰められた者は好悪で策を決めぬものだ。できることを何でもやる」


たとえ、死のうとも魔族の兵を産み出すために分裂し続ける。

その名も知らぬ魔族のことを、キースは思った。


ネルザ砦では、藩王トネリコの紹介状があったためにすぐに話が通った。

砦の主将ともすぐに会うことができた。

ケーリアという男性……男性? の武将だった。


「トネリコ様を助けていただいて感謝しておりますわ」


字面だけ見ると妙齢の女性のような雰囲気を醸し出すが、喋っているのは男性である。


「ラスヴェートだ」


「ふうん、呼ばないわよ、名前」


「名前呼ばない?」


「名前呼びませんね」


「呼ばないんですか、そうですか」


「だって、その名前、怖いわー」


「ほう、ケーリア殿は言霊がわかるか?」


「わかるわよー。これでも“魔導戦士”なんだから」


「お?」


「あれ?」


「その職って」


「知ってるわよ。キディスに突如現れた新たなる魔導戦士、そのあとも二つの国で混乱を制し、今この国を救いつつある」


何者だ? とキースはいぶかしむ。

これほど魔王のことを調べている、魔導戦士?

ローグギルドでもそんな存在の情報はでてこなかった。


「うふふ、私のことが気になるのかしら?」


いつの間にか、キースの後ろにまわり、首筋に息を吹き掛けてくるケーリア。

キースは背中から鳥肌がたっていくのを感じる。

ヤバい、これはヤバい!


背中に殺気を感じる。

アグリスがケーリアを睨み付けている。

今にも、剣を抜きそうな状態。


「大丈夫よ、取って食べたりしないわ」


今度はアグリスの方を向き、笑顔で抜刀を止める。


「戯れるのはやめよ」


「あらあ? 大事な家臣に手を出されて怒ってるのかしら?」


「そんなことはない」


「ラスヴェート様は名前を呼ばないとすねるんです」


メルチが説明する。


「あら、かわいいところもあるのね」


うふふ、とケーリアは蠱惑的に笑う。

男性だが。


「それで、そなたは何をしてくれる?」


「わたしの力を当てにしてくれるわけね」


「何を?」


「このケーリア・テリエンラッド。トラアキア解放のため、全身全霊をつくします」


仲間になるらしい。


「この砦はいいのか?」


砦の主将だったはずである。


「いいのよ。魔族を止めるという意図からすれば、もうこの砦は用をなしていないし、逆にジャガーノーン城をどうにかできれば魔族を止めるという役割を果たすことができる。それに、トネリコおじさまには好き勝手やっていい、って言われてるし」


さっきの動きや、情報収集の手際を見れば優秀なことはわかる。

どうやら、その才覚でトラアキアの軍事を一手に引き受けているようだ。


「それに、なんだかイライラするのよねえ? わたしをスルーしていった魔族たちに。戦略的には正しいのかもしれないけれど、ねえ?」


それが本音らしい。


「よかろう。お前もジャガーノーン城攻略に加わるがよい」


「はい、喜んで」


というわけで、オネェ系武将が仲間に加わることになった。

ジャガーノーン城と砦の違いですが、ジャガーノーンによって建設されたのが砦。最近改修されたのを城と分けております。


レベルアップ

魔王様 37 → 40

アグリス 32 → 33

メルチ 33 → 34

ヨート 33 → 34


次回!オネェ武将が加わった魔王一行はジャガーノーン城へ突入する!


ストック切れのため更新は未定です。

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