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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル49 ダンジョンの王様

「いやあ、助かりました」


人の良さそうな恰幅のいい中年の男性が頭をかきながら、頭を下げた。

何日も着ていたのであろう服は、よれよれだったが仕立てのいいものだ。

トラアキア藩王国の藩都、その中心である王宮の地下にある牢獄の外である。

その男性は、さきほどまでこの牢の中にいた。

彼の名前は、トネリコ・トラアキア。

このトラアキアの藩王である。


藩王国という制度は、ベルスローン帝国の苦肉の策であった。

もともと、魔王を封印した英雄の興した統一国家ベルヘイムというものがあり、その国の大貴族であったり、その前に存在していた王国の王たちはベルヘイムの中でも大きな領土の領主として存在していた。

かくいう、ベルスローンの建国帝もその大領主の一人だった。


ベルスローンによるベルヘイムの簒奪の結果、ベルスローンは強大な武力と権力を手にすることになったが、もともと同じ立場の領主たちをおさえつける手段が必要になった。

それが、ある程度の自治権を認めた藩王国の制度である。

藩王という立場は、帝国内でかなり大きなもので時の皇帝たちは、その対応にかなり苦慮したのだという。

ただ、先々帝あたりから、皇帝の権力と帝国の官僚機構の整備により、藩王国の権威を皇帝がしのぐようになってきていた。

その一つの表れがハマリウム藩王国の一件である。

帝国が藩王を裁いたというのは、皇帝の権力が絶対化しつつある証左といえた。


ただし、藩王国の中には例外もあって、その一つがこのトラアキア藩王である。

もともと、大瑠璃海貿易で名と財をなした商人が建国帝に気に入られ、魔族残党との折衝役と引き換えに一国を手にいれたのがこのトラアキア藩王国のはじまりである。

なので、この国は他の藩王国と違って、皇帝への忠誠心が比較的強い。

そして、弱い。


国軍というものはあるが、もとは商人である。

練兵のノウハウとか、徴兵のやり方とか、いろいろ不足していたらしい。

いざとなったら、スローンベイにある海軍騎士隊を頼る気でいたが、使者を出すより先にナガーンによって制圧され、トネリコは牢屋送りになってしまったのだそうだ。


「時に皆様がたは、一体どこからの……」


どこからの援軍でしょうか?

というトネリコの視線にキースは、どう答えたらよいものか迷った。

別にどこからの依頼もなく、勝手に入国して、勝手に魔将を倒し、勝手に藩王を救出しただけなのである。


「我らは“聖女”メレスターレ・グラールホールド様の私兵でございます。グランデからの帰還時にトラアキアの危機を聞き付けた“聖女”様が我らを派遣いたしました」


魔王の口からすらすらと流れる大嘘に、キースは目をむいた。

姉の名前を勝手に使われたメルチは卒倒しそうになっている。


「おお、確かにメレスターレ様がグランデの内戦に向かわれるさいに我が国にお立ち寄りいただきましたな。まさか、気にかけていただけるとはありがたいことです」


「ちょっと魔王様!? 勝手に姉様のことを」


メルチが小さな声で魔王を問いただす。


「よいではないか。余とメレスターレは家に立ち寄ってお茶飲みをする仲ぞ。いわば友人じゃ。友の頼みを無下にはせんであろう


「ええええ!? いいのかなー」


「しかし、聖女様の私兵と申されましたが、何か証しはございますでしょうか。いえ、決して疑っているわけではないのですが」


トネリコ藩王の言いたいこともわかる。

聖女の私兵を騙るどこぞの野良冒険者に利用されるわけにはいかないのだ。

魔族を追い出して、泥棒に入られてはたまらないだろう。


「藩王様のご懸念、確かにその通りでございます。証拠というのにはいささか弱いとは思いますが、聖女様の妹君メルティリア・グラールホールドを連れてきております」


「へ?」


「さあ、メルティリア様、フードをお取りいただき藩王様にご挨拶を」


なぜか、爽やかな笑顔で魔王は笑う。

トラアキア市街での魔族との戦いやナガーンとの(一方的な)戦いで、魔王を含めてパーティー全員のレベルがあがっていた。

みな、レベル30台になっているはずだ。

おそらく、魔王も。

魔王は成長すらもレベルに組み込まれているため、レベルが上がれば肉体年齢も比例して上がっていく。

今の見た目は、16歳前後。

少年というには成長していて、青年というにはまだ若い。

まあ、15で成人扱いの国もあるから、一応大人の範疇だろうか。


そのティーンエイジャーの、爽やかな笑顔である。

メルチはドキドキしながら、挨拶した。

内心、利用されてる感がすごいが。


「メルティリア・グラールホールドと申します」


「実を申せば、帝都での舞踏会か何かでお目にかかったことがございます。まあ、話はしておらぬでしょうが」


トネリコ藩王は懐かしむような顔をする。


まったく関係ない話だが、トネリコ藩王とメルチの身分差というのは、かなり曖昧である。

藩王の中でも低い方のトネリコと、大貴族の次女で、聖女の妹のメルチ。

形式的に言えば、藩王の方が上なのだろうが、聖女メレスターレのネームバリューのせいでぐちゃぐちゃになっているのだ。

それに輪をかけて、魔王が無茶苦茶やるから、もっとごちゃごちゃするのだ。


「いえ。お見かけしたのを覚えておりますわ。その、躍りの、様子などを」


お世辞にも上手いダンスとは言えなかった。

そのせいで、このトラアキアの藩王のことを覚えていたのだ。


「いやあ、商売を優先して、華やかなことはしておりませんでしたからなあ。お恥ずかしい」


「それでは、藩王様。我らはベルスローン帝国軍本隊に先駆けて、敵の本拠ジャガーノーン城へ向け出発いたします」


緩んでいたトネリコ藩王の顔が引き締まった。


「行きなさるか」


「はい」


「では、ジャガーノーン城へ行く途中にネルザという小さな砦があります。そこの責任者にトネリコが頼む、とお伝えください。必ずやお役にたてると思います」


「わかりました。藩王様におかれましては、すみやかな市街の掌握と残存魔族の排除を願いたく」


「うむ。トラアキアの誇りにかけて」


トルネコ藩王を地下牢より救出し、王宮に残っていた将兵らに藩王の無事を知らせた。

トラアキア国軍がすぐに集結し、市街に残っていた魔族を倒すべく出撃していく。

魔王はそれを見届けると、ジャガーノーン城へ続く街道を歩きだした。


「なかなかに怖い男だ」


そう魔王が呟いたのは、出発して一時間ほどだろうか。

夜明けに上陸し、昼過ぎまでトラアキア市街で戦い、午後に出発するというややきついスケジュールだ。

もう日は傾きかけている。


「どなたのことですか?」


メルチは怪訝そうに聞く。

そんな人物と出会っただろうか。


「藩王のことよ」


メルチにとって意外な人物の名だった。


「そう……ですか? 私はそんなに」


「我らがメレスターレの私兵でないことに気付いていたぞ」


「え?」


「あそこでメルチと舞踏会で面識があったと言ったから、まだ協力的ではあるだろうがな」


「ちょっと、魔王様の言っている意味がわからないんですが?」


「トラアキア藩王はな、街への犠牲を最小限にするために投降したのだろう。そのうえで海軍騎士隊かベルスローン軍の到着を待つつもりだった」


予想外だったのは、魔族が街を統治する気がなく略奪が繰り返されたこと。

危うく、判断ミスで助かっても処刑されるところだった。


もう一つの予想外は一月程度で魔将が倒され、藩都が解放されたこと。

判断ミスが、ミスになる前に事態が収束したのだ。

ネルザ砦の協力者を紹介してくれたのは、その礼なのだろう。


「街への被害を最小限にするために……」


「奴はプライドを商売のために、捨てることができる男だ。今回の対応しかり、舞踏会での踊りしかりだ」


「伊達に一国の王じゃないってことね」


「そういうことだ」


魔王によるトネリコ藩王への評価が語られながら、一行は街道を進んでいく。

次回!ジャガーノーン城へ向かう一行の前に、一つの砦が表れる。魔族の城はいまどうなっているのか!続く


明日更新予定です。

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