レベル48 トラアキア市街戦
「なぜ、余が最前列なのだ!?」
トラアキア藩都は、日差しが強い沿海の国の都らしく、どの家も白い。
壁から屋根まで真っ白だ。
白い色は光を反射し、内部に熱を溜めない。
その白い建物が連なる大通りを、魔王を先頭に五人は行軍していた。
そう、行軍である。
現在、トラアキア藩都は新生魔王軍の魔将ナガーンによって占領されている。
ナガーンの連れてきた魔族の兵は、藩都の至るところにいた。
統治ではない、いるだけだ。
数百年、ジャガーノーン砦、そしてそれを改修したジャガーノーン城に引きこもっていた連中だ。
占領した敵地を統治する方法など知っているはずがない。
「ちなみに魔王様、五百年前はどうしてたんです?」
「そのあたりはベリティスに任せていたな」
「“謀将”ベリティス……いまのベリティス公ですね」
「うむ。なぜか、常にうなっていたな」
おそらく、全領地の経営をベリティス公に任せていたのだろう。
だから、それ以外の魔将は統治の方法を覚える機会が無かったのだ。
「“魔将”ジャガーノーンという方はどうでしたか?」
「奴はな、あまり与えた領地に行かなかった」
「?」
「余のそばで戦うのを好んでいた。ただな、唯一別行動をしていた時に、余が封印されてしまってな」
そして、それが今生の別れになってしまった。
まあ、それはそれとしてジャガーノーンの娘である新生魔王軍の魔王とその部下たちに占領地を慰撫する方法はなかった。
つまり、占領されたトラアキアは略奪の限りを尽くされていた。
新生魔王軍とトラアキア都民の食糧事情が気になるところだ。
そして、魔王たちは藩都に突入し、魔王を先頭に大通りを行軍しているのだ。
前から新生魔王軍の兵たちが次々に襲ってくるが。
「魔王様、ヨートに聞きましたよ」
メルチがニヤリと笑った。
「何をだ?」
「魔王様、“魔導無効”持ってるんですよね?」
「も、持っておるぞ」
「魔族って、魔力が魂を持ったもの、で魔導スキルは魔力を操る技。つまり、魔族の攻撃は魔王様には効かない!」
「正確には魔族の物理攻撃と魔導スキルが効かないだけだ」
魔族の中には精霊と契約している精霊使いもわずかにいる。
契約した精霊の攻撃は普通に効く。
神聖スキルも効く。
ただし、魔族は信仰する神がいない。
つまり、神聖スキルを使えないということだ。
本当ならば魔族にも、黎明の魔神という神がいた。
だが、その神は原初の時代の終わりとともに消えたといわれる。
魔王が健在ならば、魔王が神の代わりだったが、その魔王も封印されて魔族は神聖スキルを会得する機会がなかった。
そのため、神聖スキル持ちは魔族にはいない、はずだ。
「つまり、精霊スキルにさえ気を付ければ、魔王様は最強の盾になる、というわけです!」
「お主ら魔王軍ではなかったかのう?」
怪訝な顔の魔王だったが、メルチのたてた作戦は大成功だった。
新生魔王軍の攻撃は一切通らず、遠距離からキースが射撃し、接近してきた相手にはヨートとアグリスが対処する。
敵の攻撃は、メルチが障壁を展開して防ぐ。
魔王の影響なのか、メルチとアグリスの動きのキレがすごい。
メルチの障壁を張るタイミングが神がかっている。
もともと、障壁と回復の使い分けがうまく、新人にしてはかなりの使い手だったが、このごろさらに凄い。
攻撃のタイミングを見計らったかのように張られる障壁。
突然、攻撃が弾かれた敵は体勢を崩しヨートやアグリスの良い標的になった。
そして、アグリスだ。
グランデ内戦では、スターホークや魔族相手に活躍の機会が無かったが、このトラアキアでは大活躍している。
絶対防御の魔王。
的確障壁のメルチ。
遠距離射撃のキース。
タイミングずらしの拳術家ヨート。
この中に混じっても、遜色ない戦いぶりだ。
もともと彼女の持つ騎士という職は防御を主体とした戦士職だ。
極めると“守”ステータスに特化した“守護騎士”などにクラスチェンジできる。
けれど、今彼女はその高い“守”ステータスで無理矢理攻撃を仕掛けている。
相手の反撃を高い防御力で無視し、攻撃につなげていく。
実は魔王の影響で“明星の騎士”にクラスチェンジしている。
魔力が上昇し、そのコントロールも向上している。
ほぼ無意識に“ウツロ返し”の簡易版のような技を繰り出している。
わずかに魔力を発散させることで、そこの揺らぎを利用し、体勢をベストなものに引き寄せる。
カウンター技であった“ウツロ返し”を無茶な動きをキャンセルする技へと変化させたのだ。
魔王のように派手な連撃はできないが、アグリスの得意な精密な動作を活かしている。
たった五人の敵対者に、新生魔王軍は手も足も出なかった。
これについに、トラアキア占領軍のトップである魔将ナガーンがしびれをきらし出撃した。
もともと、ナガーンもジャガーノーン(と書いて脳筋と読む)の一族の出だ。
小賢しい策だとか、謀は苦手である。
虚言を弄してグランデに内戦を引き起こしたバレンシでさえも知将として扱われるくらいなのだから、このナガーンの知力も予想できる。
「我こそは新生魔王軍、朱天の姫王ジェナンテラ様に仕える十二の新魔将が一人ナガーン! 尋常に相手せよ!」
たったこれだけの名乗りなのに、魔王にとっては有用な情報がいくつも入っている。
まずは新生魔王軍の首領は、朱天の姫王ジェナンテラというらしい。
姫王と名前の頭文字から、ジャガーノーンの娘であることが確認できる。
朱天というくらいだから、朱くて、天を舞う“不死鳥”なり“鳳凰”なり“朱雀”などと契約した精霊使いの可能性がある。
次に“十二の新魔将”という言葉から、新生魔王軍の組織は、旧魔王軍のものに準じていることがわかる。
十二の魔将が率いる軍団制をとっているはずだが、バレンシのように単独行動をしている者もいるので、そこまで戦力が揃っていないのかもしれない。
ああ、ジャガーノーンを薄めたような阿呆だ、と魔王は目の前のナガーンを見た。
薄茶色の肌、額には角が一本、目は赤い。
これはジャガーノーン系列の戦闘系魔族の特徴そのものだ。
鎧は五百年前の意匠のもの、当時のものを整備したか、それに似せて新たに作ったものかはわからない。
どっちかといえば、前者だろう。
三叉槍を構えている。
三つに別れた切っ先に魔力が跳び跳ねているから、魔力が込められたマジックアイテムだろう。
魔王はナガーンの前に出た。
「貴様がこの占領軍のトップか?」
ナガーンはなんだこのガキは、というような侮りの表情を見せた。
「ふふふ。我こそは新生魔王軍十二の新魔将の一人ナガ……」
「なっておらぬな」
名乗りを途中で止められてナガーンは呆気にとられる。
「なっておらぬだと!?」
「兵卒の統率、襲撃への対応、相手の戦力の見極め、兵坦、占領地への慰撫、今後の展望、全てにおいて合格点に達しておらぬ」
「言わせておけば、ごちゃごちゃと!」
ナガーンは怒りのままに三叉槍を、目の前の子供に向けて突きだした。
「挑発にのってしまう、か。お主が魔将を名乗るなど百年早いわ!」
魔王は突きだされた三叉槍の穂先をつかむ。
放たれる魔力の青白い雷光も握りつぶす。
「ぬ、ガキが!……!……?……!?……動かぬ!」
うろたえるナガーンを槍ごと、魔王は持ち上げる。
槍から手を離せばよいのに、ナガーンはそのまま持ち上げられたままだ。
「余の名を教えてやろう。我こそは“黎明の魔王”ラスヴェート!」
「まさか! 伝説の魔王!?」
魔王は槍ごとナガーンを投げた。
そして、ナガーンは空の彼方に飛んでいき、そのままこの世から消えた。
新生魔王軍及びナガーンと戦闘の結果、レベルアップしました。
魔王様 3 →37
キース 30→ 34
メルチ 30→ 33
ヨート 29→ 33
アグリス 27→ 32
次回! トラアキア藩都は解放された。しかし、まだまだ新生魔王軍はいるぞ!大暴れだ魔王様!
明日更新予定です。




