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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル45 死神と幽霊船の中で

新生魔王軍によって殺された哀れな人々の怨念が海上を船の形で漂っているという噂が流れたのは、この数日後のことである。


海路が封鎖されているため、他に航行している船はなく幽霊船トラアキアの夜明け号は軽快に進んでいた。

日光を浴びると浄化されるんじゃないの、という懸念は朝になると船体にまとわりつく怪しげな霧によって日光が遮られることで払拭された。

もちろん、スケルトン船員は疲れることもなく、昼夜ぶっ通しでこぎ続け、通常の半分以下の日数で航行している。


その行程の中の、ある夜更けのことである。

人間は寝静まり、疲れを知らぬスケルトンたちが同じタイミングで船を漕いでいる。


かつては船長室だったろう部屋に、魔王とアルメジオンが向かい合って座っている。


「今まで俺っち……いえ、私をお呼びにならなかったのは……恐れていたからですか?」


口調を改めて、魔王の配下である魔将としての立場でアルメジオンは主君である魔王に訊ねた。


「そう、じゃな。メルチたちにあらましは聞いていたが、やはり恐れていたのかもしれん。魔王軍が壊滅していた、その事実をしかと聞くのを」


魔王の記憶の流れでは、魔王城に攻めてきた大賢者に封印されてからの時間経過を感じていない。

封印されて、すぐに目が覚めたら魔王城は廃墟になっていたというのが魔王にとっての事実だ。

そして、キディス、グランデ、スローンベイと旅する中で世界は人間によって統治されており、魔族は一部を残して消えてしまっていたということを実感した。


理解はした。

しかし、ぬぐえぬ違和感。

どうしてこうなった、という声なき絶叫。

もちろん、魔王の名を呼び忠実な配下になることを選んだ者たちは信頼している。

名を呼びこそしないものの、付き従ってくれているキースやヨートのこともだ。

しかし、そこに魔族……血と魂を分け与えた子供同然の種族の存在はない。

認めるのが怖かった。

魔族は存在してはならないと。


「では、お話しましょう。この五百年のことを」


「うむ」


「実を言うと、確実に死んだ魔将というのは少ないです」


「む? そうなのか?」


アルメジオンはゆっくりと十二人の魔将の、魔王封印後の去就について語り始めた。


まずは私、“死将”アルメジオンは、この通り無事です。

しかし、魔王様が封印された後に、神族会議で神々の地上への大きな干渉が禁止されてしまったために、面倒になって寝ていました。

ちなみに、バルニサスだけはある程度の干渉を認められています。

神への信仰自体が無くなったら、神族全体が弱体化しますからね。


次は“謀将”ベリティス。

表に出ている最後の魔将で、ベルスローン帝国に臣従し、爵位を受け取っています。

この行動は賛否両論ですが、魔王軍の保全という観点から見れば成功でしょう。

ただ、一方で新生魔王軍にも出入りしているらしいので注意が必要かと。

まあ、謀将ですからね。


その次は“夜将”クランハウンド。

夜の猟犬のナイトハウンドの変異進化種でしたね。

獣の姿で、言葉による意思疎通ができたことに驚いた記憶があります。

彼自体は、死亡しています。

後で話しますが勇者に敗れてです。

ただ、ナイトハウンドという種族はきっちりとした物質的肉体を持たず、精神も共有しているのでもしかしたらナイトハウンドの集合的意識の中に潜んでいるかも、ですね。


その次は“飛将”デルフィナ。

翼持つハルピュイアの族長である彼女は、魔王様封印の後、魔王軍を脱退し、種族ごと僻地に移住しました。

そして、普通に年をとり、亡くなりました。

死んだ時に彼女に会いましたが、魔王様愛してます、との伝言を受けとりました。

ハルピュイア種もまだ存続してます。

彼女の五代くらいあとの子孫がいますね。


そして、もう一柱の神である“竜将”エルドラインですが、魔王様封印の後に竜族をまとめて、魔王軍から脱退。

自身は天界にて本来の、永劫の竜神として地上を見守っています。


あとはダークエルフの“闇将”ファリオスは、まだ生きています。

魔王軍の将として、戦い続けていましたがダークエルフ種が絶滅寸前まで行ったので、ジャガーノーンが止めました。

種族を滅ぼしかけた破壊神的扱いをダークエルフの里で受けているようです。

ちょっと精神状態が心配かもです。


それから“鬼将”ゲノンズですが、魔王様封印後に鬼族を率いて人類連合軍の本営に攻撃をしかけ、戦死しています。

どうも魔王様に殉じたようです。

純粋な鬼族はたぶんそのときに絶滅しました。

今残っているのはゴブリンなどの劣性種やオーガなどの知性が衰えた種族だけですね。


あとは“影将”ヒュプノス。

彼、もしくは彼女はインビジブル種でしたよね?

透明人間というか、半幽体。

実はいつの間にかいなくなってしまいまして、たぶん生きているとは思うんですが。


それから、忘れちゃならないのがゴブリンの突然変異究極進化であるカイザーゴブリンの“黒将”イドラですね。

人間並の精神構造を持ち、オーガに匹敵する肉体を持つゴブリンの究極進化体の彼は“鬼将”ゲノンズとともに人類連合軍と戦い、亡くなりました。


そして“魔将”ジャガーノーン。

魔王様の血を色濃く受け継いだ魔将の中の魔将でした。

残った魔王軍をうまくまとめて、魔王様封印後の混乱を抑えましたが、勇者によって倒されました。

彼の五番目の娘であるジェナンテラは、ジャガーノーン亡き後の魔族をまとめ、新生魔王として勢力を増やし、そして今回の挙兵にいたりました。


その次は“獣将”カレガンド。

虎獣人である彼は、獣人を率いていました。

そして、魔王様封印後の“鬼将”ゲノンズと“黒将”イドラの、人類連合軍への攻撃を止めようとしていました。

しかし、結局二人は戦いに行き亡くなってしまったことで、戦いの無情を感じ隠居しました。

まだ存命ですが、獣人は別の種族の者が率いています。


そして最後に“鋼将”ラインディアモント。

彼は魔王城に最後まで残り、鎧へと変化し、それを魔王様が身に付けていらっしゃいます。

正直、彼の生きざまは魔将として憧れますね。

その存在が滅してなお、魔王様にお仕えできるのですから。


アルメジオンの話が一段落すると、魔王は瞑目した。


「戦いにしろ、寿命にしろ、余に仕え、生き抜き、そして死んでいった全ての魔将と魔王軍の将兵に哀悼の意を表する」


政治家らの言う軽薄な言葉ではなかった。

心から、心のそこから、魔王は死んでいった者たちを哀しみ、悼んだ。


「死後を司る者として、今の魔王様のお気持ち、必ずや死者に伝えましょう」


「うむ」


そして、魔王とアルメジオンは話を再開する。


「では、魔王様。気になったところはございますか?」


「二つ」


「それは、ある程度の勢力を残していた魔王軍が現在のような壊滅寸前にまで追い詰められる原因となった二つの件、でしょうか?」


「そうだ。神族会議と勇者召喚だ。この二つについて知り得ることを話してくれ」


「わかりました。この五百年の間に起こったことをまとめるうえで、神族会議と勇者召喚は外せないポイントですから」


「頼む」


「魔王様は二つの件と申されましたが、実はこの二つは同じ流れの中から出てきています」


「ほう?」


「五百年前、魔王様が起こした魔王軍の最終目的“人類絶滅”。それが始まりです」

次回!五百年前の戦いの真実と、いろいろ出てきたキーワードについて、教えて死神先生!


明日更新予定です。

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