レベル38 連携!魔王を追い詰めろ!
「というわけで、今回は私はキースに味方するわよ」
戦場に突入してきたのはメルチだった。
「ほう? メルチも余の敵となるか」
「いやいや、ラスヴェート様? あなた私を口説いたくせになんで、この国でも女の配下増やしてんの!」
「む」
「しかも二人」
ベルデナットとアグリスのことである。
まあ、配下という言葉では表現できない関係だ。
ベルデナットは従属的同盟者兼生徒だし、アグリスは憧憬が強すぎて従属すらできない。
ちなみに男の配下であるひげ男はスルーである。
「ははは、メルチもバカだな。だが、頼りにしている」
キースは笑い、メルチも笑い返す。
「あんたには負けるわよ。さあ、ランアンドソード魂を見せてやるわよ!」
キースが矢を放つ。
集中のスキルに、遠距離攻撃の命中率と威力を補正する”遠当て”を併用しているため、おそろしく命中率が高い。
先ほど、ひげ男ことスターホークの剣を撃ち落としたのはまぐれではないということだ。
「面白い」
魔王は魔力を放出する。
幾多の可能性から”矢を回避する”可能性が導き出される。
「当てさせてはもらえないか」
次の矢をもう放ちながら、キースは歯噛みする。
「私たちの知らない技ね」
「あれは”ウツロ返し”という技です」
アグリスはメルチとキースに声をかけつつ、前に出る。
詳しい理屈は省いて、魔力を消費することで回避や攻撃ができる技ということだけ説明する。
「うわー、まーた危険な技を覚えたものね」
なぜか、口の端に笑みを浮かべてメルチが言った。
「魔王様のレベルはまだ低いはず、それほど多用はできないだろう。息もつかせぬ波状攻撃をしかける」
「了解」
「わかりました」
アグリスは前に出る。
遠距離攻撃のキースを活かすためには、騎士である自分が前に出る必要がある。
「ラスヴェート殿、覚悟!」
剣を振るう。
魔王は笑みを絶やさず、古ぼけた剣と盾を構える。
アグリスの剣は盾に受け流され、狙った場所とは明後日の方へ滑っていく。
「余の覚悟はもうできておる。お前はどうなのだ、アグリス!」
がら空きになったアグリスに、魔王は容赦なく古ぼけた剣を突き刺した。
「メルチ殿!」
「合点承知!」
メルチは無詠唱で障壁を展開した。
魔王の剣は障壁を砕けずに弾かれる。
「なるほどメルチもいたのだったな……!?」
魔王の頭を狙って放たれた矢を、魔王は盾で防ぐ。
もちろん、キースだ。
「アグリス!」
「既に!」
キースの声にアグリスは動く。
盾を上に掲げた魔王の脇腹にグサリと剣を突き刺す。
「ぬう」
魔王の姿がブレる。
”ウツロ返し”で逃れる。
「キース様」
「了解! 魔王様がやろうとする可能性全てに攻撃を当ててやる」
現在キースはレベル30、そこで新たに得たパッシブスキルがある。
それは”射撃速度上昇”。
読んで字のごとく、一撃ごとの射撃の速さがあがる。
矢の取り出し、装填、エイム、発射などの射撃動作が補正を受けていく。
一つ一つの動きの補正は少ないが、それらが寄り集まって矢を放つという動作が高速化する。
命中率、威力、射撃速度が全て上昇し、今まさにキースは機動砲台と化していた。
”ウツロ返し”でアグリスの攻撃を逃れたはずの魔王は降り注ぐ、矢の雨に驚く。
「ははは! いいぞ、キース。魔導スキル”マナミスト”」
魔王は降り注ぐ矢に対し、微量の魔力を広範囲に展開する魔導スキルを放つ。
魔王の魔力に囚われた矢は動きを止めてしまう。
「神聖スキル”魔力障壁”」
メルチの放った対魔力の障壁が魔王の魔力の霧を消し飛ばす。
霧が消えたことで矢は本来の威力を取り戻し、魔王に殺到する。
魔王は”ウツロ返し”を連発し、切り抜ける。
そこへ、アグリスが突っ込む。
後は連携を繰り返す。
アグリスを倒そうとすると、メルチが障壁を張り、キースが狙撃する。
アグリスを無視し、キースを倒そうとすると、メルチがキースに障壁を張り、アグリスが刺してくる。
ならばメルチを狙うと。
メルチは障壁を自分に張り、突っ込んでくる。
魔王が放った強めの魔導スキルは障壁を割り、メルチに直撃するが、彼女は笑顔のままだ。
「お!? 直撃したはずじゃ」
「魔王様、お忘れですか? 私はあなたの使徒ですよ」
「それが、どうしたと?」
「あなたの使徒になった時に私はこのパッシブスキルを得ました、この”魔導半減”を!」
魔導スキルによる攻撃のダメージを半減させる。
魔王の持つ魔導無効の半減バージョンだ。
障壁で減衰させられた魔王の魔導スキルは、メルチの魔導半減でさらに弱体化、さらに時間差で発動していた回復スキルで残りのダメージを消し去られたのだ。
「それを信じて突っ込んできた、と?」
「だって魔王様からいただいたスキルですよ。信じるに決まってます」
と同時にアグリスの剣とキースの矢が迫る。
”ウツロ返し”でかわす。
「まったく、連携が上手すぎて余の行動が狭まっているではないか」
「違いますよ。魔王様の行動を狭めているんじゃないんです」
キースの言葉に魔王は眉をひそめる。
「何?」
キースから矢が放たれる。
アグリスの牽制とメルチの障壁が魔王を動けなくする。
魔王は”ウツロ返し”で避けようとする。
が。
魔力の放出が起こらず、矢が直撃する。
「やはり」
矢は急所を外れ、魔王の肩に刺さっている。
「余の、魔力切れを狙っておったか」
キースはすでに次の矢をつがえている。
アグリスは剣を魔王に突き付け、メルチは神聖スキルを放つ姿勢だ。
「皮肉にもあなたに付き従い、あなたの行動パターンを読むことでこの結末に持ち込むことができました。魔王様、ベルデナット女王に降服をうながしてください。ここで、足止めされているわけにもいかないでしょう」
キースは油断していなかった。
それは、アグリスもメルチもそうだ。
だが、ここから先は読めなかった。
「誉めてやろう。さすがは余の家臣だ。これはまだ見せるつもりではなかったのだがな」
魔王は後ろに下がり、肩の矢を引き抜いた。
なぜか血は流れない。
「魔王様?」
「のう、キース。魔族とはなにか、知っておるか?」
「魔族とは人類の敵、魔導スキルを自在に扱う戦闘種族……ではないのですか?」
「そう、その認識は間違ってはいない。だが余が聞いたのは根本的なところだ。魔族の本質、それは魔族が魔力に魂が宿った存在ということだ」
「魔力に魂が!?」
「原初、世界が創造された時に黎明の魔神によって、魔力に魂魄が宿され、意志をもった魔力は魔族となった。まあ、細かいところは略すが、魔族とは魔力そのものであるということを覚えておけ」
「魔王様、一体何を」
「魔族にとって生命力もまた魔力と同義なのだ。そして、余のHPを魔力に変換する」
魔王は体力を魔力へと変換する。
魔王の最大HPは360。
戦いで減ってはいる。
そのほとんどを魔力へと変える。
「でもそれじゃあ、また”ウツロ返し”は使えますけど、じり貧なのには変わりないはず」
「そう思うであろう? じゃが、余はこのスキルを知った、いくぞ”闘気解放”」
それはヨートが使った闘気解放スキル。
解き放った闘気が全身のステータスを上昇させる、拳術家や格闘技系の職を持っている者の多くが持っているアクティブスキルだ。
この闘気の正体は、戦意の制御下に置かれた魔力だと魔王は解き明かしていた。
魔力を全身にみなぎらせることで、魔力50消費あたり見かけ上レベルが1上昇する。
魔王はそれを行った。
HPを変換して得た魔力を惜しみなく投入する。
魔力値230を魔王の戦意、闘志のもとで解放。
4レベルの上昇。
「うわ、成長してる」
魔王は身体的にも百詩篇に封印されているので、それがレベルアップで解放されるたびに成長しているように見えるのだ。
まあ、まだ十代前半のように見えるのには変わりがないが。
「時間がないのでな。裏技も使って早めに終わらせようぞ」
魔王は突撃を開始した。
混沌とした戦場で、キースたちは(なぜか)魔王と戦い続ける!そしてついに魔王が(裏技)で真の姿を見せる!
明日更新予定です。