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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル36 軍師がむちゃくちゃをし始める

「僕に黙ってそんなことをしていたのは気分が悪いですが、ベルデナット騎士団と占い師ギルドを味方につけたことはよくやったと言えるでしょう」


アトロールは不機嫌そうな顔で言った。

王都でアグリスと占い師ギルドを味方につけたと報告した後になる。


独断専行をされると上役はいい気分ではないだろう。

しかし。


「もはや、この程度では挽回にはなりません」


キースはきっぱりと言った。


ここはアトロール陣営の軍議の場である。

アトロールをはじめ、彼に従う貴族や領主が出席している。

新たに加わったアグリスもキースの後ろに立っている。


「どういうことだい?」


「ベルデナット陣営は占星術師を処刑しました。それはつまり、星の導きを信用しないということです」


ガタッと全員が動いた。

驚きのためだ。

それほどに、星の導きはこの国の根本だ。


「それじゃあ、彼女はどうやって政治を行っていくつもりなんだ!?」


政治は自分で考えたほうがいいと、キースは思うがここでは言わなかった。


「ベルデナット陣営には、今までの常識が一切通じないと思ったほうがいいです」


「そんな……。そんな相手とどう戦えばいいのだ」


キースから見ればおかしい言動に見えるが、この国ではこれが普通なのだ。


「ここでとれる戦略は一つ。星の導きを信じる全てを束ねることです」


「星の導きを信じる全てを!?」


このワードがアトロールの琴線に触れたらしい。

わなわなと震えている。

興奮しているようだ。


「占い師ギルドを通じて、参戦していない信仰深い貴族や領主を糾合しています」


「戦力をいくら集めても、相手のことを理解できないのなら勝てないでしょう?」


占星術を、星の導きを切り捨てるというベルデナットの考えがよほどショックだったのか、アトロールは興奮しつつも後ろ向きになっている。

いったいどんな精神状態だかわからない。


「勝ち負けという次元ではありません。集めるのは星の導きを信じる意志! つまりこれはベルデナットとアトロール様の王位をめぐる内戦ではなく、星の導きを信じるか、否かの戦いです!!」


ざわざわと軍議の場が揺れる。

星の導きを信じるか、否かの戦い!!

この言葉は、全員の心にドカンと響いた。


戦いのベクトルを変えるのだ。

星の導きを信じるか、否か、だったらベルデナットよりこちらにつく者は多くなるはずだ。


ただし、メルチは大丈夫かこいつ、みたいな目でこちらを見ている。

大丈夫、俺は正常だ。


「正常でない人はみんなそう言うのよね」


妙なレッテルを張られている気がするが、気にしていられない。


その上、キースはこの国のローグギルドにも働きかけていた。

ローグという輩は、ならず者だ。

 しかし、それらがギルドとしてまとまれば裏社会に大きな影響力を持つ集団となる。

 キディスのローグギルド幹部という肩書は、グランデのローグたちにも有効だった。


 ともかく、アトロール大公の陣営は一体化した。

 瞬く間に様々な集団が集まり、アトロールの元に集った。

 貴族、領主、野盗まがいの武装団体、宗教団体、暗殺者のような者らまでいる。

 名の知れた参加者もいる。

 グランデ最強の武将と謳われたヴァンドレア卿、バルニサス教会の分派である星刻派を率いる聖女メレスターレ、死の商人アルナヘイン、占い師ギルドのギルド長にして占星術師アステリア。

 通常ならば、交わるわけもない人々が星の導きという一点をもって連立している。

 

「奇跡だ」


 その威容を目にしたアトロールは感激をあらわにした。

 

「大公殿下、いえアトロール陛下。お言葉を」


 キースはもういきつくとこまで行くしかない

 星の導きを捨てたベルデナットのグランデ王国とは相いれることはできない。

 で、あるならばアトロールは新たに国を興すしかない。

 国民の代表者である各階層、階級の人々はいる。

 集まった人々の住まう地、おそらくは王都の周辺を除くグランデ王国の全域が領土。

 そして、アトロールを中心とした貴族らはそのまま統治組織となりうる。


 そう、キースは知らないことであったが魔王がベルデナットに語った国家の要件をアトロールとキースは満たした。

 新たな国。

  

 グランデ星光国。

 

 アトロールは、アトロール一世として即位した。



 王国と星光国、二つのグランデはそれぞれ全兵力を率いて、王都近くの平原に布陣した。

 ベルデナットを女王に戴く王国軍は、貴族兵力を中心に五千。

 アトロールを国王に戴く星光国軍は、雑多な兵力を寄せ集めて一万。

 そしてトランデ城塞に王国正規軍が八千。

 

 兵力では星光国軍が上。

 指揮系統は王国軍の方が上。

 士気は互角。

 しかし、正規軍が出陣すれば王国軍が星光国軍を兵力で上回る。


 

「ふ、はははは。見よ、ベルデナット。余の期待以上だ」


 ずらりと並んだ両軍の様子を眺めながら、魔王は嬉しそうに笑う。


「確かにそうですわ、ラスヴェート様」


 キラキラした目でベルデナットが追従する。


「こんな状況で笑えるのはあんたらだけだよ」


 なあ、とひげ男は隣に立つヨートに話しかける。


「まあ、なんとかなるでしょう」


「皆様方のお体はそれがしが守り抜いて見せる」


 と、たくましい肉体をずいっと前に進ませてきたのは偽ロクトことラグレイだった。

 ヨートにやられた傷も癒え、魔王とヨートの強さに魅かれ護衛として雇用されたのだ。


「余はな。人間の可能性を喜んでおる。そう、追い詰められた人間は恩讐を超え結束する。その力は世界を支配せんとする魔王ですら封印する。余は、再びそれを見たいのやも知れぬな」


「そしてまた封印されたい、と?被虐趣味がおありで?」


 対等系魅了がかかっているひげ男が軽口を叩く。

 失礼な奴、と完全服従敬愛系魅了にかかっているベルデナットがひげ男をにらむ。


「そうではない。余は、その人間の底力と再びまみえ、そして今度こそ叩き潰して見せる。負けたままというのは癪にさわるでのう」


「さすがラスヴェート様」


「まあ、そうなるよな」


「死なない限りは負けではない、と新陰流の教えにもあります」


「それがしが必ず守って見せるでござるぅ!」


 とても濃いのばっかり集まっているなあ、と比較的まともに考えられるひげ男はため息をつく。

 思えば、こんなのを相手にしていたから新米軍師さんはクソ度胸がついていたのだなあ、と納得する。


「それで実際問題どうします。兵力的にはウチの倍ですぜ?」


「まずは一当てしてみようか。その反応で敵の陣容を推測してみよう」


「威力偵察か。誰を行かせる?」


 魔王はひげ男をじっと見た。

 ひげ男はきょろきょろとあたりを見る。


 ん?

 誰かいるのか?

 女王様に、拳術家、偽拳術家。

 騎士くずれの傭兵隊長。


 オレしかいねぇじゃねぇか。


「オレが行けばいいのか?」


「モノノフトルーパーに百つけよう。一撃入れたら戻ってこい」


「相手が包囲してきたら?」


「お前は余の大事な家臣だ。信頼しておるから任せられる。安心せよ、必ず余が守る。スターホーク」


「ッ!」


 不意打ちだった。

 魔王様は、オレの名を知っている。

 そりゃあ、知っているさ。

 オレと魔王様は相互にステータスを見ることができる。

 

 オレから見ると魔王様のステータスは異常だ。

 レベルは3。

 ステータスは同レベルの人間にくらべて二から四倍。

 HPは2.5倍、マナとスタミナは3倍といったところか。

 これはレベル6から7相当の実力だ。

 そして、恐ろしいところが一つある。

 次レベルへの経験値が1000ポイント固定だ。

 普通ならレベルがあがるごとに次回への経験値が増加していく。

 それが固定ということは恐ろしい速さでレベルが上がるということだ。

 オレはそこまで見ることができる。


 そして、魔王様もオレのことをそのくらいは知ることができる。

 名前など簡単にわかるってことだ。


 それだけなのに。

たったそれだけのはずなのに。

 なぜか、オレは嬉しくなってしまったのだ。

次回!裏切り者同士が戦闘開始!そこからはじまるグランデをめぐる最終決戦!そこまで行くかは不明。


明日更新予定です。

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