表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
36/142

レベル35 キースはごはんぬき

陣営は変わって、アトロール大公軍である。

キースは何日目になるかわからない徹夜明けで、まぶしい朝日を見上げていた。


トランデ付属城下に腰を落ち着けることができて本当に良かった。

そりゃあ、戦略的には王都をゆるく包囲していたほうがいいだろうが、貴族たちに長期間の野営ができるとは思えなかった。

首謀者のアトロール大公ですら、野営地に組み立て式の部屋を持ち込んで貴族生活を再現していたくらいだ。

無理に決まってる。

それに、包囲網といえば格好いいが、実際はそれぞれの部隊がゆるーく王都の回りにいるだけだ。

なんの連携もできていないし、そもそも攻める気があるのか。


ベルデナット側がヘマをして、能無しの貴族二人をここに送り込んでから好転した。

すぐに全軍を集めて、ベルデナット側貴族を撃破。

これを内戦でのアトロールの勝利と喧伝し、国内の支持を上げる。

そのうえ、豊富な糧食と屋根のある建物があるトランデ付属城下を支配下に収めることができた。

ここを拠点にし、内戦を勝っていかなければならない。



「あんたまた寝てないのね。いい加減倒れるわよ」


いつになく優しいメルチ。


「いや、今の俺は魔王様との勝負をしている。必ず、あの人をギャフンと言わせてみせる!」


「なんか勝負の方向がおかしいけど、まあいいわ。がんばって」


「ああ、がんばるさ」


メルチと別れて、臨時の指揮所となっている建物に入る。

グランデ王国の地図が拡げられている。

各都市の場所、名前、そこにつながる街道、軍事拠点ができる限り記されている。

拠点を手に入れた今、やるべきことは派手な勝利だ。

勝っていることで、アトロールは強いと喧伝し、流動的な貴族を勧誘する。

さらに、トランデ城塞の正規軍とも粘り強く交渉し、味方につける。

相手に味方しない消極的な関係でもいい。

参戦しないという確約だけで、余計な要素が消える。

あとは、この国の根本ともいえる占星術、そして占い師のギルドを味方につければ、信心深い貴族や領主を味方に引き込める。

犬のように尻尾をふり、畜生のごとき浅ましいはかりごともする。

まずは勝つこと。

正統性の薄いアトロールが政権を取るには、力で王に相応しいと示すしかない。


「よし、ここの北にあるモノポリー城を攻める。ここは親ベルデナットの中立派貴族が治めている。これを落とし周辺の領主ににらみをきかせるのだ。適任は……そうだ、彼らがいる」


キースは使者にモノノフトルーパーの団長を呼ぶように命じた。


それにしても腹が減ったな。

いつもなら、そろそろ朝ごはんができてくるころなんだが。

もともとトランデ付属城下に住んでいた民間人を雇用し、占領下でも収入が途絶えないようにしている。

ここの調理当番をしてくれている女性のご飯が上手いのだ。


そこへ、ドタドタと使者が帰ってくる。

なぜか、かなり慌てている。


「軍師殿、大変です!」


トランデ付属城下に入った際に、俺はアトロール大公から軍師に任命されていた。

戦時の非常設の役職だが、ある程度自由が効いている。

その権限で、アトロール大公の擁する傭兵や冒険者を自由に使える。

それにしても、使者が慌てすぎている。


「どうした、何かあったか?」


「も、モノノフトルーパーが全員失踪しました」


「バカな! 任務途中で放棄する冒険者がいるはずないだろう!?」


任務を途中で放棄する。

冒険者にとってこれは大きな不名誉だ。

情報か、戦力か、あるいは他の何かが足りなくて、任務を失敗することはある。

だが、受けた任務を放棄して逃げるというのは、まったく別物だ。


「書き置きがありまして、中には契約不履行により、強制解約とさせていただく、と書いてありました」


「契約不履行? 」


「どうやら、給金が支払われていなかった、ようですな」


「は?」


慌てて、モノノフトルーパーとの雇用契約と賃金支払いを確認する。


モノノフトルーパーからの条件。

前金あり、週給、功績に応じて別途報酬、成功報酬。


アトロールからの返答。

それでよし。


実際の運用。

前金のみ。

すでに一月経過。


「こりゃ逃げるわ」


アトロールに確認すると、部下が応対していると思っていた。

部下に確認すると、その部下が応対していると思っていた。

その部下に確認すると、その部下が……。

最終的に一兵卒にたどりつき、その兵士はなんで自分が冒険者の給料のことを考えないといけないんですか? と聞いてきた。

それもそうだ。


なんなの!?

なんなのこいつら!?


どういうことなの!?


さらに調べを進めると、モノノフトルーパーが撤収する間際、トランデ付属城下の民間人を連行していったことが判明。


だから、ご飯を作ってくれていた奥さんが来てくれなかったのか。


そして、その足取りを追うと一行はトランデ城塞に入城したことがわかった。


あ、これあかんやつだ。

詰んでる。


もう、トランデ城塞の正規軍はベルデナットについていると見て間違いない。

モノノフトルーパーはベルデナットに寝返った。


よく知っている人物(魔族?)の影がちらほらと見える。


ということは、王国内部の掌握は終わってるっぽいな。

貴族たちの足並みを揃えたか、あるいは貴族を全員亡き者にしたか。


キースはそこまで考えて、動いた。

アトロールに相談することなく、独断専行で事を決する。


そして、王都へ向かう。

魔王とヨートがトランデ城塞に留まっていることは確認している。

グランデ王国にはキースの顔を知っている者はいない。

そのため、ただの冒険者として王都に入ることができた。


その足で協力者のもとへ向かう。

王宮付近の騎士団詰所。

閑散としている。


「本当はもっと人がいたんですけどね」


寂しそうに、協力者……女騎士アグリスがそう言った。


「急に来てすみませんでした」


「いえ、これほど早く応答してくださるとは思いませんでしたので」


アグリスから接触があったのは、昨日のことだ。


寝返りたい。


と、書かれた書状。

昨日の時点ではどうこうする気はなかったが、今はもう重要度があがってきている。

一気に追い込まれたアトロール陣営を立て直すために、彼女がキーポイントになるはずだ。


そして、この緊急の会談となったのだ。


罠の可能性も考えたが、魔王様がこんな程度の低い罠を仕掛けるわけもない。

それよりは、戦略で潰してくるのを好む気がする。

と、判断してアグリスと面会する。


そして、いくつかの情報を得る。

占星術師バレンシが倒されたこと。

ベルデナットが貴族を掌握したこと。


これは使えるかもしれない。

アグリスはそのまま同行してもらい、占い師ギルドへ向かう。


「ずいぶんとお急ぎになりますね」


「ええ。あの方の考えについていくためには一歩も二歩も先を行く必要があるんです」


それでも、一歩出遅れるんですけどね、とキースは笑った。


「あの方、というのはラスヴェート様ですか?」


「そうです。やっぱり、こっちでもやらかしてましたか」


「やらかしてました。私はどうも付いていけなくて」


「名前、呼んでいるのに、ですか?」


「名前?」


「あの方の名前を呼ぶと好きになってしまう、らしいです」


「ああ、なるほど」


アグリスは遠くを見るような目をした。


「どうしました、アグリスさん?」


「私はベルデナット様が羨ましかったんだと思います」


「羨ましかった?」


「あの方に導かれて変わってしまったベルデナット様、何も変わっていない私。夜の星がきれいに見えるけど、手が届かない、そんな感じです」


魔王の名前呼び魅了にもいろいろなパターンがあるらしい。


「なら、アグリスさんもあの方をギャフンと言わせましょう」


「星を、ですか?」


「夜空の星からでも見えるくらい大暴れしてやりましょう」


「それは……面白そうですね!」


そして、キースは占い師ギルドと接触。

占星術を切り捨てようというベルデナットの方針に反発した占い師ギルドがアトロールに協力を表明。


女騎士アグリスとベルデナット騎士団は、アトロールに寝返った。


魔王に対するコンプレックスから始まる反抗作戦の開始だった。

興奮のあまり、キース君はこの日ごはんを食べるのを忘れていました。


次回!もうヤケなのか、キースがとんでもない提案を持ち出す!なんだか女騎士といい雰囲気だし、魔王様にがんばってほしいなあ!


明日更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ