レベル34 手紙
以下、ベルデナットからモンマトール将軍への手紙。
モンマトールのおじ様へ。
わたくしの不徳のせいで、おじ様や兵士の方々にはいらぬ苦労や心配をかけてしまいました。
特に、偽占星術師のバレンシなどを重用し、まつりごとに乱れを起こしてしまったことはいくら謝っても謝りきれぬことだと思っております。
そのみそぎというわけでもないのですが、バレンシは捕縛し、徹底的な調査のうえ、厳重に処罰いたしました。
さて、このほど、王国に反旗を翻したアトロールについては、南部の防衛を放棄し、トランデ付属城下を武力占領、伯爵二名を殺害したなどの罪で討伐することにいたしました。
ラスヴェート特佐は、この討伐軍の総指揮官です。
わたくしの保有する戦力をお預けし、戦ってもらう所存です。
ただし、正規軍の皆様にご迷惑をかけることは一切ございません。
モンマトールのおじ様はじめ、正規軍の皆様がトランデ城塞よりにらみをきかせていただいているおかげで、キディスもベルスローンも動けないことは、わたくしもよく存じております。
早急にこの討伐を終わらせ、王国に平和と秩序を取り戻すことを約束いたします。
軍の皆様には、この後に頼みたいお仕事がたくさんありますので、ご緩みなきよう。
ベルデナット・グランデ(国王印)
(注:意訳。もっと遠まわしな表現をしている。人間の書簡というのは面白いものだ(魔王印))
手紙を読むなり、モンマトールは目頭を押さえた。
「あのお嬢様が、これほど立派な女王におなりになるとは……」
ゆるふわ時代のベルデナットのことしか知らないモンマトールは、届いた手紙の内容、表現などを見て彼女が成長したと実感したのだろう。
「皮肉にも、アトロールの内乱が成長を促したのだろうな」
無理矢理導いた魔王様がしたり顔で何か言っている。
もちろん、モンマトールは内情を知らないので、うんうんと頷いている。
「我らが城塞に篭っている理由を陛下は察していてくださった。それがなにより嬉しい」
本来、キディスとの国境を防衛する戦力までアトロールが徴発したため、国境はがら空きである。
一応、封鎖はしているが名将ボルゾン・ノースガントレーなら一蹴するだろう。
その気になれば、グランデの領土は瞬く間に侵食される。
また逆に、ベルスローン帝国はその大兵力を持って一気に侵略が可能だ。
しかし、トランデに正規軍がいればどちらの事態にも、何かしらの対応ができる。
キディスが攻めてくれば、街道を南下しいくつかの領土を削られるだろうが追い返せる。
ベルスローンが攻めてくるならば、北上し防波堤となる。
ただし、ベルスローンは必ず勝てる場合にしか出陣しない。
北の防御はそれほど重要ではない。
本来ならば、内戦の片方に協力し、一気に終わらせ、その側の実権を握るのが最速の解答なのだが、モンマトールという人物はそこまでできない。
王家への、国家への忠誠あるいは愛着が強いからだ。
普通、それは美点であるが国がぐちゃぐちゃの時には、良かれとした行動が裏返しになることもある。
結局のところ、トランデ篭城は次善の策である。
「すでに陛下は貴族軍を掌握しております。このまま行けばアトロールを倒すのはすぐ、かと」
実際は貴族たちがバレンシにやられたからなのだが、貴族軍の軍権をベルデナットが握っているのは確かだ。
「おお、そこまでやっていなさるか。しかし、アトロールもむざむざやられはしないでしょう。奴の率いるのは長年ノースガントレーと渡り合ってきた南部防衛軍。さらに名うての傭兵冒険者パーティーのモノノフトルーパー、その上新たに凄腕の軍師が加わったとか。ご油断めされるな」
「お心遣い、痛み入る。余のような若輩にお任せいただいた陛下のご恩、勝利にてお返しいたしましょう」
すっかり気を許したモンマトールにしばらく兵法について付き合わされたが、翌昼前には解放された。
そして今は、王都への帰還途中である。
「で、何がアトロールが勝てないようにする策なんだ?」
ひげ男が魔王に聞く。
「もし、ベルデナットが戦に敗れてもアトロールの言うことを正規軍は聞かぬだろう」
「ん?」
なんでだ? という表情のひげ男。
「兵士の家族を解放したこと、精神的に成長し軍事的な観点を見せつけたこと、これが効いてくる」
「なるほど、かたや家族を人質にとり、国境防衛をないがしろにしたアトロール。かたや、家族を取り戻し、国のガンであった偽占星術師を処刑したベルデナット。この先を考えてどちらに信を置くか、か」
「その通りだ。ましてモンマトールという男は、ベルデナットを幼いころから知っているようだしな。感情的には味方になってくれただろう」
「はあ、面倒なことまで考えているんだねぇ」
呆れたように天をあおぐひげ男。
魔王はそれを見ながら笑う。
「面白いではないか。人というものは。合理、効率を重視しながらも、その実、感情や精神的、霊的なものに行動を左右される。それを知識として学べるのだから、余の行動も無駄ではない」
「魔族にはそんなのはないんですかい?」
「ふふふ。魔族はな、創造者への絶対的忠誠が定められておる。感情も合理もあるが、なにより優先されるのが忠義よ。とはいえ、創造者から二代も三代も経ると忠誠も薄れるようじゃがのう」
「ということは魔王様への絶対的忠誠か。くわばらくわばら」
「何を恐れておる。お前も、我が忠実な魔王軍の一員なのじゃぞ」
「うへえ。やっぱりか。おかしいなあ、オレがスカウトしたはずなのになあ」
首をかしげるひげ男。
スカウトした奴が、逆にスカウトしてきたら、それは驚くし、妙な気分になるのは仕方ない。
「アトロールには悪いが、完膚なきまでに叩きのめさせてもらう。それがこの国のためじゃからな」
「そいつは、あれか。反乱分子をひとまとめにして一気に叩くってやつか?」
「わかっておるではないか」
「口で言うのは簡単だが、そんなにうまく行くかねぇ?」
「行かせるのよ」
「魔王様には何か秘策がおありで?」
「そうじゃのう。簡単に言えば、アトロールの軍師……奴は、お前と同じよ」
「オレと同じ? あの弓使いの若僧が? ん? それは、つまり……」
悩みながら、答えをつかもうとしているひげ男を、魔王はニヤニヤと見ている。
「わかったか? 余の策が」
「奴もあんたの家臣!? どうりでめちゃくちゃなことをすると」
「まあ余が命じたわけではない、成り行きよ。他に命令を下したわけでもない。だが、ここまで追い詰められたら、反乱分子を寄せ集めるしかあるまい?」
「いや、ホント、恐ろしい方だよ。そんなのに見込まれたあの若僧に同情するよ」
そして、一行は王都に帰還した。
そこで、魔王は二つの悪い知らせを聞くことになる。
一つは、占い師ギルドがベルデナットに抗議したこと。
偽物だったとはいえ、正式な占星術師を名乗るバレンシを処刑したことに対する抗議だ。
まさか、魔族だったので倒したとは言えず、対外的には処刑と発表したのが仇となった。
「ま、これはキースの策であろうな。なかなか良い搦め手だ」
そして、もう一つは。
ベルデナットの親衛隊にして、側近の女騎士アグリスがアトロールに寝返ったという知らせだった。
次回!キースがんばる!
それ以外に何かあるのか、いや、ない。
明日更新予定です。




