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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
32/142

レベル31 結局、魔王様はチート

腹をかかえて、ロクト(偽物)が膝から崩れ落ち、うつぶせに倒れた。

そのまま動かなくなる。

とはいえ、ときおりピクンと動くので生きてはいるようだ。


お、大きく息を吸った。

意識を取り戻したようだな。


「な、なん、なんだ今のは……?」


「拳聖新陰流“四廻”。膝、腰、腕、手首の関節を駆動させ、一撃必殺の正拳突きを放つ技。拳聖新陰流門下なら誰でも使える技です。もちろん、本物のロクトもね」


「まさか、本物の弟子が出てくるとはな」


「何者です? 拳聖の弟子は名乗ってもそれほど益のある名ではありませんよ」


ヨートの話が確かなら、拳聖という人物は対外的には弟子をとらず、拐ってきた子供たちを鍛えていたという。

そして、ヨートを含めて四人しか残っていない。

けっしてこの世界のメジャーな流派ではないのだ。


「頼まれたんだよ」


偽物は名前をラグレイと言うそうだ。

拳術の才能に恵まれ、子供の頃には“拳術家”の職を手に入れたのだという。

ある有名な流派に弟子入りし、メキメキと実力をつけていったが、強くなるとともに増長し、やがてケンカ沙汰を起こし破門になってしまった。

流れてきたこのグランデで仕事を探していたところ、ある男に雇われたのだという。


その雇い主が占星術師バレンシ。


バレンシ自身の護衛として、だそうだ。


「そういえば、バレンシはどこに?」


ベルデナットは辺りを見回す。

道場化した部屋の中にはいないようだ。


ラグレイに聞くと。


「この部屋は俺が雇われた時にはこうだったぜ。そういやあ、この中だと、上手く魔法が使えないとか言っていたな」


「占星術師が星が描かれた部屋で上手く魔法が使えない? 占星術スキルではなく?」


ベルデナットはバレンシへの疑惑を深めていく。

やはり、バレンシは占星術師ではないようだ。


戦いが終わったあとのゆるみ、そこを狙ったかのように魔導スキルが放たれた。


「魔導スキル“マナランス”、多重発動」


突如、虚空から放たれた数十本の魔力の槍がこの場の全員を襲った。

魔王は見もしない。

魔導スキルは無効化できるからだ。

ヨートは回避、ベルデナットはアグリスが防ぐ。

ラグレイは防ぐものの、体が上手く動かず足に被弾する。

その他の貴族たちはかわしきれずに当たってしまう。


「そこにいたか、バレンシ」


魔王の声に答えるかのように、フードを深くかぶった男が物陰から歩みでる。


「お初にお目にかかりますね、古き魔王殿」


そこで、魔王は気付く。

キディスの変異魔族とは違う魔力パターン。

それは。


「お前、魔族だな?」


「なるほど子供になっても魔王は魔王ですか。そうです、確かに、俺は、魔族だ」


一歩進むごとに、バレンシの身長は高くなっていく。

筋肉が盛り上がり、皮膚の色が黒ずみ、頭には巨大な角が生える。


「な、ま、魔族!?」


「嘘だろ? バレンシが魔族!」


ベルデナットやラグレイが驚きをあらわにする。


「おいおい、この偽物はともかく、お前には余が魔王だと言っておいたはずだが?」


ベルデナットには確実に魔王だと伝えてある。

魔王は魔族の王だから、ラスヴェートも魔族だと気付いてもいいはずだが。


「え、だって、ラスヴェート様は人間っぽいじゃないですか! あれ、なんか、凄いことに!」


女王っぽい口調だったベルデナットは素が出ている。

ゆるふわも偽造だったのかもしれない。


「ヨート、この時代の魔族の認識はどうなっておるのだ?」


「はい。五百年前に世界を滅ぼしかけた悪鬼羅刹の類いかと」


「間違ってはおらぬが」


「そのため、幼い子供を叱るときに魔族が来ると怖がらせることはよくあります」


「ふむ。やはり、魔族とは恐怖の対象なのか」


「ええ」


確かに、あんな角がでかい黒肌の大男を見ればこの恐慌も頷けるか。

ところで、あのバレンシとかいう魔族。

どうやら、ジャガーノーンの眷族のようじゃな。

ジャガーノーンは力に振り切ったタイプの魔族であるし、ああいう眷族がいるのも当然か。

逆にベリティスは知に振り切った魔族として創造した。

そういえば、生きているらしいが会いにこぬのう。


「のう、バレンシとやら、そなたもしや新生魔王軍とやらの」


「その通り、我こそは新生魔王軍新十二魔将が一人、死貫将バレンシ」


バレンシは食い気味にあっさりと白状した。

ジャガーノーンの眷族が魔将を名乗るということは、やはり新生魔王軍はジャガーノーンの娘が造ったようだ。

しかし、(新生)魔王軍の(新)十二魔将、か。

オリジナリティの欠片もない。

余の作った十二魔将の模倣ではないか。

インスパイア? リスペクト?

そんな異世界語は知らぬ。


「目的はなんじゃ?」


キースがおれば、演技で情報を自然に引き出せるのだがな。

あの演技っぷりはたいしたものだ。


「愚問よ。新生魔王軍の世界征服のために、各国を弱体化させる方策が一つ。グランデ王国を内乱で割り、国力を低下させる策よ」


キースの出番はないな、これは。

実にペラペラとしゃべりおる。

しかし、これは。

なかなかの策だ。

この国の思想の要である占星術師となり、国政に介入するような情報を流して、内乱を引き起こす。

大きな武力も必要ない、省コストの策。

効果は絶大だ。


だが、余が来たことで台無しになったようじゃ。


「さて、そこまで明かして逃がすわけにもいかぬのう」


「ふふふ。ここまで明かしたのだ。全員生かして帰すわけにいかぬ」


バレンシは再度、魔導スキル“マナランス”を多重発動する。

マナを収束することで貫通力を上げているマナランス、それを複数放つことで立体的にダメージを与えることができている。

余には効かぬが。


だが、そろそろヨートもアグリスもラグレイも防ぐのが難しいようだ。

被弾した貴族連中にいたっては虫の息だ。


「なれば余が相手になろう」


「これはこれは、魔王様自ら……ハッ、レベル1の低ステータス野郎が」


バレンシはその屈強な体を武器にすることを選択。

振りかぶるように殴りかかってくる。

レベル1の子供相手にはそれで充分だろう。

余が相手でなければ。


余はその拳を優しく受け止める。


「悪くない質のマナだ。研鑽を積んでいるようじゃが、いかんせん量が足りん」


受け止められて驚いたか、呆けた顔のバレンシの拳を掴み、引き、投げ、腕を極め、折り、叩きつける。


「魔王様!? それ私の技……」


そう、さきほどヨートが見せた拳聖新陰流“六車”。

それを使って見せた。

実際にくらった偽ロクトことラグレイが青い顔をしている。

自力で治したとはいえ、よっぽど痛かったらしい。


「く、くくく。効かぬ、効かぬぞ!」


バレンシは折れた腕を引きちぎり、投げ捨て、再生する。

高度の再生スキルは、肉が生えてからみあい、元の形に戻るのが特徴だ。

だが、それが見えることでかなりグロめのスキルになっている。

確かに効かぬアピールは出来ておる。

だが、再生した分の魔力はきっちり消費している。

無限に再生とかすることはできない。


そういえば、一つ聞き忘れたことがあったのう。


「なぜこやつを偽物にしたのだ?」


ラグレイを指差し、バレンシに問いかける。

再生した腕を握ったり、開いたりして感触を確認しているようだ。

まあ、戦場であんな呑気にやってたら即死じゃろうな。


「くく、知れたことよ。この魔族の姿をさらすわけにもいかぬし、護衛が必要だっただけのこと」


「その護衛になぜ、拳聖の弟子の名を?」


「我が知っていた凄腕の拳術家が、ベルスローン帝国の皇帝護衛ロクトだけだったからだ」


深い理由はなさそうだったが、大きな情報を得てヨートの目の色が変わる。


「うむ。必要な情報はだいたい聞けたのう。そろそろ始末するか」


「くくく。バカめ。いくら小技が使えるとはいっても、所詮はレベル1、このレベル80相当のバレンシに勝てるわけがない!」


レベル80相当とはなかなかの強さ、だが。


「言い忘れておった。余のパッシブスキルだが“魔導無効”じゃ」


「え……?」


「お主も知っての通り、魔族というのは極論すると魔力、マナが意思を、魂を持った種族じゃ。すなわち、存在そのものが魔導。つまり、お主の攻撃はまったく効かない」


「う、嘘だ」


「いくら強い矛を持ってても無駄じゃ。余は魔族相手ならば絶対最強の盾を持っているようなものだからのう」


余はニッコリ微笑んだ。

絶望したような顔をして、そしてバレンシは突っ込んできた。

次回!正体を現した占星術師こと魔将バレンシ!気づいたら倒されている可能性大!そして新たな策とは!


明日更新予定です。

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