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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル30 拳聖新陰流継承者(偽物)

 期待通りというか。

 予定通りというか。

 ジャムイカン伯爵とダニングン伯爵は、トランデ付属城下の戦いでアトロール軍に敗れた。

 そして、これがグランデ内戦の本格的な開戦となる。


「内戦の緒戦でわたくしたちは敗戦いたしました。確かに敗北したのはジャムイカンとダニングンの二人ですが、ベルデナット軍の敗戦と国民は見るでしょう」


 数日前と表情も変わっているベルデナットに貴族らは呑まれている。

 たった十一歳の少女に、だ。


「そ、それでは我々はどうするべきでしょうか」


 一人の貴族がおそるおそる口を開く。


「今後の作戦行動は、わたくしの意向をもとにラスヴェート特佐の指揮にて行っていただきます」


 ラスヴェートには特佐の階級が与えられた。

 正規軍には属さない、実質やりたい放題の権利である。

 魔王としては低すぎる階級だが。

 戦時特例という言葉をヨートははじめて知った。


魔王は貴族らの前に出る。


「ラスヴェートだ。今後、諸君らはすべて余の指揮下に入ってもらう。軍権を一時的に陛下が掌握し、それを余が代行する形となる」


 誰も、反抗できなかった。

 反抗すれば二人の伯爵のようになると理解していたからだ。


「それではまずわたくしたちの行動は、占星術師バレンシの捕縛です」


 ざわり。


 さすがに、場がどよめく。

 それほどまでに占星術師というのはこの国の根幹なのだ。

 

「勘違いしないでいただきたいのは、バレンシはおそらく占星術師ではない、ということだ」


 魔王は、グランデの慣習など気にしないが、それを気にするグランデ国民の気持ちは推し量れる。

 少しでも、罪悪感を減らせるような理由付けをすればいいのだ。


「占星術師ではない?」


 一人の貴族が疑問の声を挙げる。


「わたくしの調べでは、バレンシ・ファイアルという占星術師は存在していることになっています。トラドリット学派出身でケプラー師に師事しています」


 トラドリット学派はこの国の占星術師では有力な学派であり、ケプラー師はそこの中堅の占星術師である。

 ベルデナットの調査ではそこまでは事実だ。


「だが、四年前にケプラー師は失踪していたことがわかった」


 占いが外れたことに絶望してしまったのだそうだ。

 占星術師が占いを外すという恥をさらすわけにもいかず、まだこの国にいることにされていた。

 

「失踪した者に教えを請うことはできませんわ」


「不審な点はまだある。余と女王の出会うきっかけとなった”南の地で導きの方に出会う”という占いも、その場でアトロール側の刺客に襲われていた。たまたま余が通りがかったから良かったものの、見逃していれば今頃ここはアトロールの手に落ちていた」


 場の空気がバレンシを怪しむ雰囲気へと変わっていく。

 歴然とした証拠があるわけでもない。

 ただ雰囲気だけで偽者と断定されていく。

 人間というものの習性をうまく扱えば、これほど御しやすいものもない。

 

「しかし、陛下。怪しいというだけでは罪になりません」


 初めて反論の声をあげたのは女騎士アグリスだった。

 極めて常識的な意見だ。

 場の雰囲気とは真逆だが。

 

 雰囲気に流されずに意見を言えるというのも一つの才能だろう。


「確かにアグリスの言う通りです。けれど、私たちが襲われたことはまぎれもない事実。それはアグリスも知っての通りでしょう?」


「それは……バレンシ師の占いの結果はそうでしたけど、ある意味当たっていたのは確かです。ラスヴェート様に導いていただいているじゃないですか!」


「ここで話していてもらちが明かない。実際に、バレンシに聞いてみようじゃないか」


魔王の案に、ベルデナットは頷き、アグリスも渋々了承した。



バレンシの居室は、王宮の奥にある。

代々の王室占星術師が使っていた部屋で、天井に夜の空と星々の並びが金を混ぜた塗料で描かれている。

下から照らす魔法の灯りで、星が煌めいているように見える幻想的な部屋だ。


いや、ただしく言うならば、幻想的な部屋だった、だ。


星が描かれた天井はぶち抜かれ、上のフロアとつながっていた。

その景色は、ある種の道場のような雰囲気をかもしだしている。


その部屋の主であるバレンシの代わりに、そこには一人の男が待ち構えていた。

ベルデナットがその名を呼ぶ。


「拳聖新陰流継承者ロクト……」


盛り上がるほどの筋肉、袖が破けた黒い胴着。

逆立った赤髪。

東方の仁王のような厳めしい顔。


「これはこれは、女王陛下とその取り巻きの面々ではないですか。いったいここに何用で?」


へりくだるようでバカにしたような口調だった。

苛立った顔でベルデナットは口を開く。


「占星術師バレンシに、経歴詐称の嫌疑がかかった。いますぐに彼を引き渡してもらおう」


「ふうむ……」


ロクトは考え込む。

そして、構える。


「なれば、このロクトを倒していかれよ」


「なっ!? わたくしに逆らうと」


「もとより、この国に仕えたわけでもなし。やりたいようにやらせてもらおう」


そこで、ロクトは闘気を解き放った。

凄まじい威圧が部屋を覆う。

武官のアグリスですら、闘気に呑まれる。


「茶番はそこまでだ」


闘気を切り裂くようにヨートが前に出る。


「茶番とはどういうことだ小僧? この拳聖の一番弟子であるロクトのどこが茶番なのだね?」


「この私のことを知らないというのが、お前が本物のロクトではないということだ」


ヨートも闘気を解放する。

そこで魔王は目をみはる。


「おお、これは闘気を解放することで一時的にレベルがあがるわけか。なるほどのう」


キディスでの変異魔族との戦いでレベル29まで上昇したヨートは、さらに闘気の解放によって35までレベルがあがっていた。

それにともない、ステータスも上がっている。

彼のステータス傾向は力と速さに偏っている。

若干守が高いくらいだ。

知と運は捨てている。

その結果が、高速で相手を一撃で倒す“暗殺者”のような傾向の拳術家になっていた。


「なかなかの強さだ。ふふふ、確かにわたしは拳聖新陰流のロクトではない。だが、その元となった陰流をはじめ多くの流派の技を修めている。強さはわたしの方が上だ」


ロクト(偽物)はそう言い放つと踏み込んだ。

地面を抉るように下から放たれる突きはヨートの顎をとらえ上空へ吹き飛ばす。


当たれば。


放たれた拳をヨートは掴み、その力の流れを利用して投げた。

巴投げとか、合気道の技にも似ている。


それだけではなく、掴んだままの腕に器用に絡み付き、投げの勢いを利用して折る。


そして、そのまま受け身をとらせず床に叩きつける。


「ぐぼげるら!?」


「拳聖新陰流“六車”」


この一連の流れが見えたのは魔王だけだった。

一人、感心したように頷いている。


相手の攻撃をいなし、投げ、腕を極め、叩きつける。

この一連の動きを“六車”と呼ぶのだろう。


殴りかかったロクト(偽物)は、いつの間にか床に叩きつけられ、腕を折られていたことに驚いている。


が、すぐに立ち上がり口角をあげる。


「く、くくく。なかなかやる……“ヒール・単体強”」


ロクト(偽物)は自身に回復魔法をかけた。

折られた腕が見る間に治り、痛みもひく。


「格闘と回復魔法……なるほど、お前“僧兵”か」


「ご名答だ」


神官職のうち、格闘や武器の扱いにも才能を持つものは、より前衛的な職である“僧兵”になることがある。


回復と格闘を使いこなす前線で戦いつくす職業だ。

回復による継戦能力の高さから優秀な職ではあるのだが、幼いころからバルニサス教会に管理されているため、なかなかフリーではいないのだ。

そのため、強くてレアな職業ではある。


「拳聖新陰流“四廻”」


ヨートはその話をほとんど聞かずに、接近する。

相手の懐にもぐりこみ、“四廻”の技の名の通り、四つの間接を駆動する。

踏み込んで得られた力を、膝、腰、腕、手首の回転で増幅し、まっすぐ相手に叩き込む。


腹筋にヨートの拳がめり込んでいた。

そして、ロクト(偽物)の動きは止まった。

次回!ついに、本当に偽占星術師バレンシの正体が明らかに!


明日更新予定です。

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