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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル29 ベルデナット女王からゆるふわ要素が消えたら

「さすがですわ、ラスヴェート様」


「確かにトランデ城塞の正規軍が参戦してくれれば、これに勝るものはありません」


 ベルデナットとアグリスのポンコツ主従(ヨートの主観による)の楽天的な感想を聞きながら、魔王は笑みを絶やさずに、しかしイラついたような口調でこう言った。


「正規軍が参加してくるわけもなかろう」


「え?」


「なぜですか?」


「もともと、トランデ城塞の軍は内乱に参加しておらん。勝った方には従うつもりであろうがな」


「それは、王国に対する不敬ですわ」


 ベルデナットがいまにも文句を言いそうな顔になる。

 アグリスも同じだ。


「いや、不敬というならば王国を真っ二つに割っているお前たち二人の方が不敬だぞ」


「?」


 ベルデナットはフリーズした。



「いいか、国家と王は別の物だ。混同してはならぬ。王とは国の代表ではあるが、国そのものではない」


「どういうことでしょう?」


「国とは一定の領土に、一定の住民を持つ、統治組織のことだ。そして、その中では王という立場も統治組織の一つの面に過ぎぬ」


「い、いえ、しかし、わたくしは王あっての国と教わりましたわ」


「さっきも言ったとおり、三つの要件を満たしさえすればそれは国となる。実際は他国との外交力の保持、武力の保持、他国からの承認といった要素も必要だが、そこに王の必要性は薄い。為政者、統治者は必要だが、それは王で無くともかまわんのだ」


「わたくしは、国のためを思ってアトロール叔父を討つと決めましたのに……」


「しかし、それは極論すれば己のためであろう、ベルデナット。その王位をアトロールに譲ればすぐにすんだはずの話だ」


「わ、わたくしは、王に……王……わたくしは……なぜ、王にならなければいけないのでしょう?」


「なぜ、己が王になるか。それを決めるのは己自身だ」


「わたくしは」


「余の話をしよう。余は魔王。人族の恒久的な敵対種である魔族の王である。なぜ余は王であるか? それは余が王であると望んだからだ。考えよベルデナット。誰の言葉でもなく、星の導きでもなく、己が頭脳で考えよ。なぜ、そなたは王たるや」


 真に統治者となるためには、王者としての覚悟が必要だ。

 しかし、ベルデナットにそれはない。

 占星術師の占いに右往左往し、内乱にまでいたってしまった彼女が正しく王として君臨するためには、王としての自覚が必要だった。


 そしてベルデナットは初めて、考える。

 王とは?

 なぜ、己が王の座にいるか。

 その座をどうして離れたくないのか。


 齢十一。

 蝶よ花よと育てられ、父王の死によって王位を手に入れた少女は頭が沸騰しそうなほど考える。


 王とは何か。

 この国においては王とは占星術師の代言者だ。

 星の導きによって政を執り行う。

 それが数百年間、連綿と続くこの国の王のやり方だ。

 

 だが、ラスヴェート様はそれでは駄目だとおっしゃっている。

 突き詰めるところまで突き詰めれば、王すら不要とまでおっしゃった。

 では、王の役割とは?

 ベルデナットの考える限り道は二つ。

 一つは象徴。

 俗世の権力を総て統治機構に委ねて、国の顔として活動する。

 もう一つは支配者。

 ありとあらゆる実権を握り、その国そのものと呼べるほどに権力を手に入れた姿。

 それこそが、真の王の姿だ。

 おそらくはラスヴェート様もそこへ至らんとしているのだろう。

 ならば自分は?

 このベルデナット・グランデはどうすればいい?


 次は、なぜ己が玉座にいるのか。

 その答えは簡単だ。

 父が遺言で自分を王位継承者としたからだ。

 ああ、だからか、とベルデナットは思った。

 父の死後、毎日がどこか現実感がなかった。

 まるで不出来な芝居でも見ているようだった。

 そう、自分で決めたことではなかったからだ。

 王になろうと決意せずに、王位について。

 流されるままで。

 それでは、わたくしはどうすればいい?


 最後だ。

 なぜ、わたくしベルデナットは玉座に固執するのか。

 嫌なのだ。

 王位を追われるのが。

 父王に託されたから?

 アグリスにように自分を慕うものがいるから?

 星に導かれたから?

 どれもそうだといえるし、どれも自分の答えとして認めるには違和感があった。

 なら、わたくしはなぜ女王のままなのか?


「答えは簡単だ」


 魔王、と名乗ったラスヴェート様ははるか高みからわたくしに声をかけた。

 物理的には、わたくしの方が背は高いのですけれど。

 存在、というか魂というか、よくわかりませんけど、ラスヴェート様がはるかに上だというのはわかりましたわ。


「答え……」


「お前が貪欲だからだ」


「どん…よく?」


「欲しいものをむさぼり果てがないこと」


 ベルデナットの中で何かがカチリとはまったような気がした。

 そうか。

 そうでしたわ。

 幼いころから、わたくしは欲しがった。

 父や母からの愛情。

 家庭教師の誉め言葉。

 美味しいもの。

 楽しいもの。

 凄いもの。

 与えられたものはあげたくない。

 だから、玉座だってあげたくない。

 アトロールなんて眼中にない。

 

 星の導き?

 わたくしに利するものなら使いますわ。


 この国もわたくしのもの。

 だから、領地は守る。

 国民は守る。

 そして統治組織はわたくしそのもの。

 絶対なる権力者。


 答えが出せる。

 王とは、国家の顔にして頭脳。

 国を自分のものとは勘違いしてはならない、だが自分のもののように操る気概が必要。


 なぜ、わたくしが王になったのか。

 これまでは父の死によって。

 そして、これからはわたくしが王であり続けるため。


 そしてなぜわたくしが王に固執するのか。

 なぜ、王であり続けるのか。

 それはわたくしが貪欲だから。

 果てなき欲望を満たすために。


「覚悟が決まりましたわ」


「そうか。ではベルデナット・グランデ。余のやりたいことがわかるか?」


 ベルデナットはすばやく思考をめぐらせる。

 今まで星の導きに頼っていた部分を思考に使うのだ。

 ラスヴェート様は、トランデ付属城下にジャムイカンとダニングンの両伯爵を送り込んだ。

 表向きの理由は、トランデ城塞の将兵の勧誘だ。

 だが、それは違う。

 あの二人はラスヴェート様に嫌味を言った。

 つまりラスヴェート様はあの二人が嫌い。

 であるなら、押し付けたものは……囮!


「両伯爵軍を派遣することでトランデ城塞兵の参戦を抑止、そして勧誘を企んでると見せかけ、アトロール軍の注意を引き、撃破させることで我が軍の緩みを正し、規律を取り戻す。ですね?」


「正解だ」


 魔王は悪い笑みで微笑む。


 伯爵が二人きりで送られれば城塞にこもる正規軍は侮られたと思うだろう。

 だが、ここで出撃して伯爵を倒してしまうとベルデナットを敵に回してしまう。

 中立を保ちたい正規軍は手が出せない。

 

 次に王都を包囲するアトロール軍だが、その規模は決して大きくは無い。

 ここで、トランデ城塞兵が参戦すればパワーバランスが変わり小規模の部隊など撃破されてしまう。

 それを阻止するためにも、アトロール軍はトランデ付属城下へ出撃しなければならない。


 そうなった場合、二人の伯爵の部隊では抗しきれず、必ず敗れる。

 それをラスヴェートの言を疑ったためと言い換え、緩んでいるベルデナット側の規律をただすことができる。


「ところで、ラスヴェート様は正規軍の参戦を恐れておられるようですがなぜですか?」


「正規軍がついた方が勝ってしまうからだ」


「勝つことが全てでは?」


「勝ち方にもよる。正規軍が参戦した場合、その功績は正規軍に与えられてしまう。そして平時に戻ったとき、軍隊が戦に勝てない弱い王の言うこと聞くだろうか」


 聞くわけが無い。

 武力の手綱を握れない国王には誰も従わない。

 

「わたくしが勝つ必要があるということですね?」


「その通りだ。さあ、まずは二人の伯爵のお手並みを拝見しようではないか」


 悪い笑みの魔王とベルデナットに、ヨートとアグリスは引いていたのは言うまでも無い。

次回!覚醒したベルデナットがアトロールに反撃をしかける!そして、新生魔王軍の幹部と同じ名前の占星術師の正体とは!


明日更新予定です。

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