表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
3/142

レベル2 冒険者、遭遇

魔王様の出番?


ないですよ。

冒険者という職業、というか生き方がある。

遺跡や廃墟、迷宮などを探索し、財宝を探し、魔物を倒す。

あるいは、魔物退治専門の冒険者もいる。

それによって報酬を得たり、手にした財宝で大儲けしたり、生き方は様々だ。

貴族の三男や家業を継げなかった農民など、社会からあぶれた者たちが、一攫千金を、立身出世を、あるいはその日の食事を得るために冒険しているのだ。


冒険者間には身分の差はない、とされる。

だから、大貴族の出身の戦士が、奴隷出身の魔法使いや、貧民出身のローグらとパーティーを組んでいるということも珍しい話ではない。


そして、現在。

キディス王国の辺境である封印の森周辺でゴブリン退治をしている冒険者パーティー“ランアンドソード”もその一つだ。


下級貴族の四男で“剣士”クラスのテルヴィン。

平民で“弓使い”のキース。

神官出身の“クレリック”メルチ。

“拳術家”見習いのヨート。


の四人で“ランアンドソード”を組んでいる。


その相手であるゴブリンは、五百年前の魔王戦争の時に魔王軍の雑兵として生み出された鬼属の魔物だ。

早熟で、繁殖力が強く、放っておくとすぐに増える。

生み出された時点でレベル13相当の実力を持っているため、付近に巣ができた村はすぐに冒険者に討伐を依頼することになっている。


といっても、彼らの成長は微々たるものでレベル13で互角、15以上の冒険者にとっては楽勝の相手でしかない。

なんたって冒険者全体の平均レベルは35だとされている。

今まさに戦っている“ランアンドソード”だって、テルヴィンがレベル26、キースが18、メルチ、ヨートが15だ。

パーティーの人数の二倍の数のゴブリンと戦っても無傷で勝てる。


「封印の森周辺と聞いたから、魔物が強いかと思ったけどそんなでもなかったな」


集中からの一射でせまってきたゴブリンを倒すと、額の汗をぬぐいながらキースが言った。

平民らしく日に焼けた肌、ひょろりと高い背が特徴だ。

高身長から繰り出される矢は確実にゴブリンを撃ち抜いている。


「たしかによわっちいです。依頼はレベル18相当でしたよね? もっと苦戦するかと思いました」


新米“クレリック”のメルチが気の抜けた様子でしゃべる。

背が低いことを気にしているが、頭を覆った白いローブのフードの中の顔が、結構好みだということをキースは知っていた。

というか、テルヴィンもメルチのことを狙っているらしい。

ヨートはどうだかわからないが。


「二人とも油断するな。ここは魔王戦争時の魔王の居城があったとされる場所だ。どんな相手が出てくるか、わからんぞ?」


パーティーのリーダーであるテルヴィンの言葉に、キースとメルチは背を伸ばす。

いくらメルチを挟んだ恋敵でも、リーダーはリーダーだ。

すっと姿勢をただしたヨートは何を思っているかわからない。


キースたちの姿勢が良くなったところで、テルヴィンはニヤリと笑って言った。


「まあ、今ではゴブリンしか住み着かない低級の狩場に過ぎんがな」


気を引き締めるとともに、無駄な力を抜かせる、というリーダーがやるべき仕事だ。

さすが貴族なだけはあるなあ、とキースは感心する。


「でも、リーダー。どうして、そんな低級の狩場にフル装備で来たの?」


メルチが不思議そうに聞いてくる。

出発前の準備段階で、テルヴィンはキースらにフル装備するように言ってきた。

普段の狩りでは使わないような装備や矢、アクセサリなどを用意している。

例えば、キースは“遠距離攻撃上昇”のエンチャントされたネックレスを持ってきている。

何らかの効果がエンチャントされたマジックアイテムは貴重で、価値が高く、売ればそれなりの額になる。

まあ、遠距離攻撃上昇はキースにとって使える効果なので、売らずにとってある。

メルチやヨートも一つや二つ、そんなマジックアイテムを持っているだろう。


メルチが不思議に思ったのは、ゴブリン退治などそこまで本腰を入れるような依頼ではないことだ。


「いや、こんな簡単な依頼だからこそ、パーティー連携を確かめておこうと思ってね。マジックアイテムや装備で普段の実力以上が出るのはわかっている。それにパーティーが慣れておく必要があるんだ」


流れるようなテルヴィンの説明である。

頷けない話ではない。

ギリギリの状況で、パーティー連携がとれないとなると致命的だ。

そのための訓練、練習は必要なことだろう。

しかし、それにしては”ランアンドソード”が拠点にしている王都キディスから、この封印の森は遠すぎる。

いちいち細かいところが、キースは妙に気になった。



キースが寒気を感じたのは、そんな会話をしてからすぐのことだ。

森の奥から、大群がやってくるような気配を感じる。


ローグ職の“弓使い”のパッシブスキル“気配探知・弱”の効果だ。


パッシブスキルとは、レベルが10上がるたびに習得するスキルの一種だ。

習得した時点で効果を発揮する。

そのほとんどが、キースの持つ”気配探知・弱”のように有益なものだが、まれに習得者に不利益をもたらすものもあるらしい。

逆に、魔法スキルや技能スキルといった詠唱や意思をトリガーとして発動するものをアクティブスキルと言う。

といっても、みんな魔法や技能としか呼ばないので死語になりつつある。


キースに続いて、すぐにメルチの“クレリック”のパッシブスキル“邪悪探知・弱”が同じものに反応する。


「テルヴィン!」「リーダー!」


「二人とも、か。相手は!?」


キースとメルチの報告に、テルヴィンは武器を抜く。

いつも使っている鉄の剣ではなく、かなり値がはるだろう鋼の剣だ。

いつ手に入れたんだろうか?

そんなことを考えている場合じゃない、とキースは頭を切り替え弓に矢をつがえる。

相手はおそらく、ゴブリン。

しかし、その数は。


「ゴブリン、五十体前後」


「群れ分け、か」


やや青ざめた顔でテルヴィンは呟く。


ゴブリンは繁殖力が高いため、一つの群れが一定以上の数になると、若いリーダーに五十名前後が付き添い新たな群れを作る。

これを群れ分けという。


冒険者がゴブリン退治に精を出しているせいで、群れ分けはここしばらく確認できなかった。

たまたま、“ランアンドソード”が出会ってしまったのだろう。


たまたまにしては絶望的な戦力差だ。

二倍の数に勝てると言っても、それがこちらの十倍以上となると勝機は限りなく低い。


「テルヴィン、先頭確認」


視力に優れるキースが、ざわめく森から今にも出てこようとしているゴブリンを発見する。

緑や濃い茶色の肌、背は低く子供のようだ。

赤い目は強い感情を乗せて揺らめく。

ぼろきれのような腰布だけをまとい、手には棍棒。

それが森から次々と現れる。


「予定が外れたな、まったく。キース、先頭のゴブリンを射て!その後、俺とヨートが前に出る。メルチはバフとヒールを頼むぞ」


「了解」


「……了解」


「わかったわ、リーダー」


その号令の直後、ゴブリンの先頭集団が“ランアンドソード”の前に出現。

キースの射撃により、戦闘が開始された。


次回!ゴブリンに襲われた冒険者たちがさらに襲われる!

果たして魔王様に出番はあるのか!?


明日更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ