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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル25 チートがバグ技を手に入れたら

「しかし、ラスヴェート殿が“ウツロ返し”を使えるとは驚きました」


上機嫌の女騎士アグリスだった。

隣にいるベルデナットもニコニコしている。


魔王は、彼女らに魔王と名乗らなかった。

いきなり、魔王である、と言っても冗談だと思われることを学習したからである。

そして、本名ラスヴェートを名乗る。

名を呼んだアグリスも、ベルデナットも敵ではないと判明する。


「魔王様……名前」


ヨートが小声でしゃべる。


「うむ。余も己の名がここまで効果を発揮するとは思わなんだ」


名を呼ばせるだけで敵か味方か判別でき、味方だった場合は忠誠心を高めてしまう。

あっという間に仲良しになってしまう、魔王の名前。

魔王様は名前までチートなのだ。


「どうかなされましたか? ラスヴェート殿」


アグリスが聞いてくる。


「いや、何でもない。それより、ウツロ返し、あれはなかなか難儀な技だな」


「わかりますか?」


アグリスは同じ趣味の相手を見つけたかのように、身をのりだす。


「魔力を放出し、その量に応じて複数の効果が発現する。余がやったように、魔力を大量に込めれば相手を瞬殺もできる、が」


「ええ。魔力の消費が多すぎるのです」


「まさしく、絶体絶命の窮地のみに使える秘技というわけだ」


魔王はその規格外の魔力で無理矢理効果をブーストしたため、ひげ男を切り刻めた。

相手を切るという効果を百も出せば屈強な鎧武者とて倒れよう。


対して、アグリスは攻撃回避、攻撃四回と計五回分の魔力消費で、全魔力を使いきってしまった。


魔法職でなければ、緊急回避にしかならない。

かといって、魔法職では“力”ステータスによる物理攻撃力が低く、使い物にならない。


魔王が言った難儀とは、そういう意味である。


しかし、魔王のような魔力も高く、攻撃力もあるものが使えば一転して強力な攻撃になる。

スキルというのはそういうところがある。

正しい使い手が扱えば強力になる。


誰が設定したのかは魔王も知らない。


「我がダノン流剣術の秘技もラスヴェート殿にはお見通しですな」


よく焼けた鹿っぽい何かの肉をアグリスは噛みちぎる。

女だてらに騎士になるだけあって、なかなか豪気だ。

貴族らには不人気だが、冒険者や傭兵などには好かれるだろうな。


「そんなことはない。たまたま余が魔導スキルに精通していたが故に、見切ることができただけだ」


現に“ウツロ返し”を受けたひげ男は、致命傷こそなかったものの、攻撃は回避され、四度の攻撃を受けている。

魔力の流れに詳しい魔王だったからこそ、すぐに真似できたのだ。


「なるほど、ラスヴェート殿は剣の腕だけではなく、魔法にも詳しい、と。さては名のある御人の弟子か、子弟か」


「アグリス。ラスヴェート様が困っておられますよ。あまり、人の内情に踏み込むものではありません」


魔王のことを探ろうとしたアグリスをベルデナットがおさえる。

これを天然でやっているのか、計算づくでやっているのかで、性格の良し悪しがわかる。

ベルデナットは……うん、天然だな。

アグリスも天然のようだが、無意識のうちに探りを入れてしまったのだろう。

戦いを職とする者の本能といったところか。


魔王としても、腹を探られるのは困るので助かった。

すかさず、話題を転換する。


「ところで、ベルデナット殿はどこへ向かうところだったのだ?」


「わたくし達は、導きの方に出会うために参ったのです」


ベルデナットの言葉に、魔王は眉をひそめる。


「導きの方……と?」


「はい。わたくし達とこの国の運命を導いていただける方です」


魔王が閲覧できるベルデナットのステータスには、混乱も盲信もない。

精神系バッドステータスはない。

つまり、ベルデナットは正気で言っているのだ。


「この国?」


「はい。命を救っていただいた方に隠し事をするのは気が引けますゆえ、話します。わたくしはベルデナット・グランデ。このグランデ王国の女王です」


また、特大の物件を引き当てたものだ、とヨートは密かに感心した。

魔王の持つ吸引力だか、運だかはたいそう強力らしい。


「グランデの女王であったか」


「はい。国の恥ではございますが、わたくしの叔父アトロール大公はわたくしに反旗を翻しました。わたくしはこの反乱を収めようと占星術師バレンシの占いをもとに行動を起こしました」


占いで行動を起こしただと!?

いつぞやのアリサよりひどいぞ、これは。

隣のアグリスを見るとベルデナットの決断にうんうんと頷いている。

どうやら、このグランデという国は占いに関する信頼度が高いようだ。

確かに、占星術は星の回りにて占う学問だが、国家の行動の指針にするには不確かに過ぎる。


「その、占星術師はなんと?」


「ええ。この国の南にグランデの行く末を導く者が現れる、と」


罠に決まっている。

おそらく、その占い師はアトロール側に雇われている。

占いでベルデナットを誘導し、そこにひげ男たちが襲いかかり、女王とその親衛隊を殺害。

アトロールが王位につく。

雑な計画だが、ベルデナットの思考を読めば確実か。


「つまり、占いは外れたわけか」


「いえ。大当たりでしたわ」


「は?」


ベルデナットの言っている意味がわからない。

罠なのだから、占いが当たるわけはない。


「わたくし達を導く方、そうラスヴェート様と出会いました」


「!?」


魔王が驚いているのをヨートは初めて見た。

まあ、いきなり運命の方、と言われても困るだろう。


「あとは、王都にいる伝説の拳聖様のお弟子さんであるロクト様が手伝ってくれれば、必ずやアトロール大公の野心を挫けますわ」


余の方がくじけそうだ、と魔王は思った。

決して言わないが。

それにしても、と魔王はヨートの方を見た。


ベルデナットの言葉に含まれていた名前、拳聖の弟子ロクト。

それを聞いた途端、ヨートの雰囲気が変わった。

弟子同士で殺しあいをする運命にある拳聖の一門。

その一人がここにいる、となればヨートも覚悟を決めざるをえない、か。


「つまり、余たちにそなたの味方をせよ、と?」


「いえ。わたくしたちがラスヴェート様に従いますわ。どうか、我らをお導きください」


一国の女王として、その方針はどうかと思うが、誰かに従うなど魔王の辞書にはないのでちょうどいいといえばいい。


「よかろう。では、まずは王都に向かうか」


占星術師の正体が気になる。

それに、ヨートの同門らしきロクトという男。

もし、その場で決闘が始まったら、とても面白いことになるだろうが、魔王の予感ではそうはならない気がする。

もし、占星術師がアトロールの手の者なら、いまごろベルデナット女王が死んだものとして動いているに違いない。

それを引っ掻き回すのも、面白いだろう。


魔王は手にもった鹿っぽい何かの肉を噛んだ。

じわりと旨味があふれる。

上手い肉というよりは、ヨートの下拵えが良いからなのだろう。

塩加減も、火の通り具合もちょうどいい。


よし、このグランデ王国も、この肉のように美味しく調理していただいてしまおう。

次回!もう二人の迷子はどうなったのか!?もしかして、敵方に捕まって!?


明日更新予定です。

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