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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル21 女王と魔王と帝王

「アリサ・キディスをこれより、第58代キディス王として認める」


キディス・バルニサス教会の大神官がかがんだアリサの頭の上に王冠を載せる。


アリサはゆっくりと立ち上がる。

その視線の先には、キディス王国の誇る四方守護職の武将の姿があった。

北方守護職ノースガントレーをはじめ、東西南の守護職とその配下や寄騎の騎士らが控えている。

王の戴冠式など、ここにいる全員が体験したことがない。

ベルナルド王の即位から五十年がたち、そのころにいた貴族も廷臣も代替わりしていた。

そして、わずかに残っていた廷臣も騒動の中で命を落としていた。


そのため、今回の即位式は各国のものを模倣し、わずかに残っていた資料をもとに無理矢理、完成させたものだ。


少々ちぐはぐだが、アリサの威厳でなんとか場が保っている。


「あれほどか」


「なるほどな、これは先王を粛清したという噂も頷ける」


「ベルナルド先王は病死じゃ?」


「王城全部を巻き込んだ病死か?」


「やっぱりなにかあったんだ」


各領主の間でひそひそと話がかわされる。

公式発表では、ベルナルド王が病死したためアリサが王位を継承することになった、とだけ伝えられていた。

まさか、国王が魔族となってそこにいたものをみんな魔族に変えてしまったなど言えるわけがない。

非公式の発表ですら、魔族に王城が襲われただけになっている。

王太子や王孫がどうなったのかは、ほとんどの者は知らない。


一応、戴冠式の前に葬儀は行われた。

あまりにも死者が多いため、合同葬になった。

アリサは、王城鎮圧後から王都の沈静化、廷臣の補充、四方守護職の召集、葬儀、戴冠式と寝る間もなく動いていた。

それでも疲れた顔一つせず、凛々しい姿のままなのでそこも貴族や廷臣の人気を得た。


「我ら、キディス王国家臣一同、アリサ陛下に仕え、その剣となり盾となることを誓います」


家臣の代表としてボルゾン・ノースガントレーが挨拶をする。

国土の北方を守護する武将であり、アザラシの父親である。

そして、キディス王国の最大戦力を持つ武家貴族だ。

そのノースガントレーが従うということは、武家貴族全てが従うということだ。


この挨拶をもって、ひとまずは、アリサの戴冠式は成功したということになる。



そのころ、魔王は一人“朝焼け”亭の部屋にいた。

手にしているのは、ベルナルド王の部屋で見つけた小瓶だ。


今日はキースもヨートもいない。

メルチは王城で休んでいるし、アリサは戴冠式だ。


かすかに残った銀色の液体。

それを陽に透かしてみる。


「これをエリクサーとでも言って飲ませたのか? ベリティス」


本物のエリクサーは無色透明の液体だが、一般には流通していない。

ベルナルドも見たことは無かったのだろう。

だから、騙された。


これは、高濃度のマナだ。

液体にまで精製したこれを飲めば、たちまち肉体と精神がマナに侵され、魔族に変貌してしまう。

そして、これは感染性を持つ。

魔族と化したものが他者に触れれば、マナを経由して侵食がおこり、触れられた相手も魔族へと変わる。


こんなものは魔将クラスの力を持つものにしか造れない。

生き残っている魔将はジャガーノーンの娘とベリティスだけ。

娘の力量はどれほどのものかは知らないが、ジャガーノーンを超えることはないだろう。

であるならば、おそらくこれはベリティスの仕業だろう、と魔王は推測していた。

正体が魔王にバレることすら織り込み済みなのだろう。

何が目的なのかはわからないが、厄介の奴が敵対している。


そして、最大の問題は魔王のレベルが1になってしまったことだった。

切り札ともいえる魔王封印解除だが、百詩編が言った通り38000ポイント以上を消費して、一分程度にしか持続しなかった。

ベルナルド程度なら余裕でおつりが来るが、ベリティス相手ならどうか。


「これは、余自身ももっと鍛えねばなるまいな」


魔王はマナの小瓶の蓋をあけ、残っていた銀色の高濃度マナを飲んだ。

人間にとっては魔族に変異する劇薬だが、魔王にとってはマナ回復薬に過ぎない。


「余自身の力と魔王軍の再結成か。道は長いな」


パキリとマナが入っていた小瓶を握り潰すと魔王はため息をついた。



キディス王国よりはるか西方。

白亜の城を中心に広がる大都市がある。

この大陸の最大にして最強の国家ベルスローン帝国の首都である。

白亜の城は、白帝城と呼ばれベルスローンの行政の中心であり、皇族の居住地でもある。

城の中庭は、美しい花が咲き乱れ、かぐわしい香りを放っている。

庭の中心にある四阿は城と同じ白い石材で建てられ、景観の一部となっている。

そこにゆったりとした服装に金の装飾具をふんだんに着けた青年がだらしなく座っていた。

わざわざ庭に持ってきたのだろう、ふかふかのソファに半分寝ているような状態で腰掛け、今朝、届いた紙を読んでいる。


「ベルナルドの爺さんが亡くなりましたか。ようやくですね。病死?」


控えている黒衣の剣呑な気配の男が答える。


「キディスに潜入している密偵からは公式発表として病死、と」


「ふうん? じゃあ病死じゃないね。あれ? あの僕より年上の王太子は? 肥満すぎてすぐ倒れそうな王孫は? ていうか新女王のアリサって誰よ?」


密偵の送ってきた情報は、彼の必要とする質量に足りていないようだ。

剣呑な男は、他のつてで調べた情報を彼に教える。


「これはおそらくクーデターです。そのアリサという娘に率いられた一軍がキディス王城に押し入ったとの知らせもあります。そして、国王はじめとした王族を滅ぼした」


「うわあ、怖いね。さすがは最辺境のキディス、無法地帯だ」


「しかし、ベルスローンにとっては朗報なのでは?」


「朗報かなあ? ベルナルドは発動しなかったけど、あそこにはキディス協定があるんだよね」


キディス協定とは、数十年前にベルスローン帝国とキディス王国との間にほぼ結ばれた経済協力のことだ。

当時、財政破綻寸前だったキディス王国にベルスローン側から援助をすることになった。

その条件として、ベルスローンの大貴族ヒノス家からキディス王家に娘をよこし、キディス王妃とする、というものだ。

キディスにほとんどデメリットがない夢のような協定だった。


だが、それをベルナルドは断った。


しかし、なぜかヒノスの次女アリティアと婚姻した。

当時の担当者は、経済的援助の話をベルナルドが真面目に聞かず、ただの政略結婚と勘違いしたのではないか説を唱えていた。


その王家が断絶したのなら、キディス協定などというベルスローンのみ不利な協定は破棄できる。

ただ、その新女王が協定の存在を知ればどう動くかわからない。


ちなみに、アリティア・ヒノスの姉は皇室に嫁ぎ、男子を生んだ。

それが先帝ベルアルク四世であり、今ここにいる若き皇帝ベルゼールの父である。


「それでは陛下。そろそろ公務の時間でございます」


「今もほぼ公務だろう?」


「こんなにくつろいだ公務などございません」


「むう。これ以上は拳聖の一番弟子のそなたに殴られかねんな。しかたない、行くか」


ゆるゆるとベルゼールは立ち上がる。

その後に、剣呑な男、いや拳聖の一番弟子であるロクトが立ち上がった。

いつの間にか、はだけかけていた衣服は整えられ、ベルゼールは颯爽と歩き出した。

ベルスローン帝国の皇帝ベルゼール。

そして、その後ろに続く帝室庭番にして護衛のロクト。


この二人は、まだ魔王のことは知らない。


さて、後にアリサが親戚だと知ったベルゼールは、キディスに連絡をとるが、その時にキディス協定を持ち出され、援助をさせられることになる。

アリサがしたたかだったのか。

ベルゼールが優しかったのか。

後の歴史家の意見は真っ二つに別れている。

魔王様が魔王封印解除の結果レベルが1になりました。


魔王様レベル38→1 dawn


次回!ついに魔王様キディスから出発、新章に向けてストックはたまるのか?作者に時間を!


明日更新予定です。

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