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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル13 王の画策(コンプレックス)

キディス王国王都の中心、王城。

国王の私室。

王にふさわしい豪華な部屋だ。

高級木材で造られた椅子と机。

椅子には柔らかなクッションが敷いてある。

名前は忘れたが、高級な鳥の羽毛を詰め込んでいるのだという。


机の上には酒杯と数枚の羊皮紙。

羊皮紙は報告書であった。

知らされた情報を見て、一人の老人が楽しげに声をもらしていた。


「ここまで上手くいくとは思わなかった」


王の庶孫アリサ・イル・キディスが冒険者を率いて、ノースガントレー家を襲撃。


なんと心踊る一文であろうか。

昨夜のアリサとの面会から、ここまで事態が動くとは予想外だった。

老人、いや国王ベルナルド・キディスにとって、いい意味で予想外だった。


齢七十を過ぎて、いまだ玉座にしがみ続けているこの王の懸念。


いもしない魔族の監視のために権勢と武力を保つ四方守護職。

言うことを聞かない冒険者ども。

王族の恥さらしであるメディスの娘アリサ。

何かにつけて嫌がらせをしてくるベルスローン帝国。


それらのほとんどを一挙に崩落させることができる。

もともと、ノースガントレーの権勢を削ぐために、その息子アザラシの冒険者としてのパーティー、ノーブルエッジを利用しようとは考えていた。

そのため、ノースガントレー家と対立しているイーストブーツ家をそそのかし、その一族をノーブルエッジに入団させた。

あとは、評判を落とすための悪事やら、内紛やら勝手にやってもらっていた。

そして、アザラシがついにやった。

冒険者ギルド内での抜剣、そして新人の誘拐だ。

これにより、冒険者の対貴族感情は大きく刺激され、それにアリサという旗頭をつけることで爆発した。


この結末をどう締めるか。

ベルナルドの考えはすでにそこに至っている。


まずは騒動のきっかけとなったアザラシ、及びノースガントレー家は大きく勢力を減退させることができる。

アザラシは生きていれば王都追放、もしくはどこか僻地で療養生活。

ノースガントレー家そのものも処罰を受けてもらうことになるだろう。

王の密命とはいえ、ノーブルエッジの一員だったイーストブーツ家も同じだ。

四方守護職の家のうち、二家までも不祥事に関わっているとなると武家貴族の地位は下がる。

少なくとも、今のように王の決定に不服従するかのような四方守護職らを牽制はできるだろう。


「わしの創案した新法“国王軍創設”を無視しおって!」


馬鹿にしたような顔で、草案を投げ捨てたノースガントレー伯。

そして、子供をあやすようになだめるウェストグリーブ伯。

国王を無視するサウスポールドロン伯。

他の三人の伯爵を睨み付けて難癖つけようとするイーストブーツ伯。

どいつもこいつも、ベルナルドのことを侮っているように見えた。


肝心の法案の中身についてもそうだ。

国王軍をつくり、遊撃部隊として国内を縦横無尽に活躍すれば小うるさい帝国もちょっかいを出してこなくなるだろうに。

と、ベルナルドは思っていた。

そして、その国王軍は冒険者を引き抜いて作る。

実力のある一軍が簡単につくれるのに、なぜ皆反対するのだ!?


給金だの、補給だの、装備だの、そんな細々としたことはどうでもいいではないか!?

わしの、わしのための軍を造りたいんじゃ!

何が四方守護職だ。

わしの国で暮らしておるくせに、わしの言うことなど一つも聞きはしない。

わしはなんだ?

王だ。

この国の、キディス王国の王だ!

わしの言うことに従わぬ奴らなど、この国で生きていく資格はない!


まあ、それもこの騒動の後始末次第。

冒険者が貴族の屋敷を襲撃したという罪を問えば、なんとでもなろう。

あとは、その責任をすべてアリサに押し付け、王族から離れさせる。

情けで王族扱いにし、衛兵隊を任せてやったのだ。

もう施しは充分だろう。

そもそも、アリサの母親であるメディスのことも嫌いだったのだ。

ベルスローンの貴族出身の妃と婚約したときから、もうベルナルドは不幸だった。

帝国の権威を振りかざし、正論しか言わない王妃に、ベルナルドは辟易したし、その娘であるメディスは輪をかけて正論、進歩、効率化などと言い出し、彼を疲弊させた。

王妃が病死し、メディスが王都を出たときは心のそこから安堵したものだ。

それが今度は、メディスの娘だと!?

いい加減にしてくれ、とベルナルドはその時思ったのだ。


だが、この苦悶ももうすぐ終わる。

冒険者を指揮し貴族の屋敷を襲撃した罪は軽くない。

アリサは追放。

冒険者はベルナルドの私兵化。

貴族は地位を落とす。

帝国にも嫌がらせをやめさせる。


「完璧じゃ、完璧な計画じゃ!」


小躍りしそうになって、ベルナルドは自分を押さえつける。

そして、目の前の人物に親しげに話しかける。


「すべてはそなたらのおかげじゃ」


「いえ、我らは我らの目的のため、陛下に協力しているだけのこと」


礼儀正しく、落ち着いた雰囲気の男。

頭髪は真っ白、というよりは銀色だ。

しかし、その顔は想像される年齢よりも若々しい。

その男がうやうやしく頭を下げる。


「それでよいのだ。わしは今まで利用されてきた。貴族に、冒険者に、帝国に、妻に、娘に、孫に! 今度はわしが利用する番じゃ」


男は薄く笑う。

ベルナルド王はその笑いには気付かない。


「それと、我が主よりこれを」


男は懐から、小瓶を取り出す。

中には銀色の液体が入っている。


「これは、まさか!?」


「はい。若返りと不老不死の妙薬エリクサーでございます」


「おう、これが! これか!」


ベルナルドは大事そうに小瓶を手に取り、眺めた。

放っておいたら頬擦りでもはじめそうである。


「では、私はここで」


「うむ。うむ。どうかよろしく伝えてくれよ。キディス王国は常にそなたらの味方じゃと、そなたら新生魔王軍のな」


「しかと」


「では、息災での、ベリティス殿」


上機嫌でベルナルドはベリティスを見送った。


迂闊な男だ、とベリティスはため息をついた。

このような監視があるかもしれない場所で、こちらの所属と名前を口走るなど。

まあ、そんなこともあろうかと見張りは皆殺しにしておいたが。


ベルナルド王はそんなベリティスの様子に気付く様子はない。

さすがは、ベルスローン帝国が王国建て直しのために送り込んだ妃を過労死させ、その娘が出ていく原因になった男だ。

己のみが正しく、それ以外が間違っていると思っているのだろう。

魔王が復活し、新生魔王軍が蠢動し、ベルスローン帝国が動きだし、その他もろもろが身動ぎし始めているこの状況。

四方守護職がキディスの命綱だとはわからないらしい。

冒険者もこの国を去る瀬戸際。

アリサのような得難い人材も無駄にしようとしている。


「三つ子の魂百まで、か。……無能はどこまでいっても無能」


まあ、私には関係のないこと。

それよりも、とベリティスは呟く。


「さあ、この局面。どう捌きますかな、我らが魔王様」


鳴り止まぬ老王の哄笑を背に、ベリティスはキディスの王都から姿を消した。


その時、王城の近く、貴族街の方から喚声が聞こえた。

アリサと冒険者対ノーブルエッジの戦いが新たな局面を迎えた瞬間だった。

魔王の側近である十二魔将の一人ベリティスの目的とは?そして、新生魔王軍とは!?

それらの謎は特に触れないで次回!冒険者とノーブルエッジが激突する!


明日更新予定です。

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