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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
132/142

レベル131 最初で最後の“魔将”

暗い虚空の闇の中で、ジェナンテラは漂っていた。

朱雀との繋がりも絶たれ、魔力もうまく使えない。


「キース……」


亀裂の神スルトの起こした大爆発によって、ジェナンテラは吹き飛ばされ、この暗い空間に落ちた。

落ちたのか、浮かんでいるのかもわからない。

戻りかたも、だ。

名を呼んだ愛しい人からの応えはない。


もしかしたら、全滅したのだろうか。

たまたま自分だけが、隙間に入り込んで助かった、とか。


もし、そんなのが真実だったら自害するしかない。

夫も、友人も、仲間もいない、そんな絶望の世界で生きていてもしかたない。


暗い空間に、心も黒く染まっていきそうになる。


闇。

夜。

絶望。


『お前の覚悟とはその程度のものか?』


虚空から声が届いた。


「……誰?」


『我が名はジャガーノーン。“魔将”だ』


虚空から現れたその人物を見て、ジェナンテラはその言葉に嘘がないことを確信した。

幻影ではない。

ちゃんと肉を備えた実体だ。


“魔将”ジャガーノーン。

2メートルはある体躯。

その肉体に魔鉄でできた鎧をまとい、大身槍を片手で扱う偉丈夫。

長大化した片方の角はその眷族にも受け継がれている。

恐ろしげな顔だが、とても頼りになる強い男だ。


ジェナンテラの父だ。


それがなぜここにいるのか?


しかし、そんなことはどうでもよくなった。

懐かしさと、そして叱られる時に感じていた申し訳なさを久しぶりに思い出したから。


「父上……」


『半端な覚悟なら己で命を絶て。絶対に勝つことを諦めない、のでないのなら』


そうだ。

なぜ、これほど弱気になっていたのか。

私は信じている。

キースを、魔王様を、仲間たちを。


「申し訳ありません。父上。私はまだ命を絶つわけにはいきません」


信じる仲間が、信じてくれる仲間がいるから、とジェナンテラは言い切った。


『ならばよい』


真っ暗な空間に突如、一点の光が灯った。

ジャガーノーンはその光に照らされて消えていく。

消える直前、ジャガーノーンは笑っているような気がした。



光は徐々に大きくなり、人の姿へと変化しいく。


「大丈夫か! ジェナ!」


光は、キースだった。


「キース!!」


「悪い遅くなった」


「そんなことはないけど……なんか手足が……」


右手は紫、左手は赤、右足は緑、左足は黒。

全身に金色の光がまたたいている。


「ああ、ちょっとな……それはともかく、行こう。時間を加速しているから、朱雀を呼び出せるはずだ」


「へ? あ、うん」


ジェナンテラが呼び掛けると、朱雀が心配そうな感情を返信してきた。


「どうだ?」


「うん。大丈夫。時間が停止していたせいで召喚チャンネルが切れてたとかなんとか」


「やっぱりな。加速させればなんとかなるとは思っていたけど」


「時の加速って、それヤヌラスの力じゃなかった?」


「色々あって」


「ふうん。あとで話してね」


「ああ、あとでな。まずはここから脱出して、魔王様と合流しよう」


「みんなは無事なの?」


「魔王様は勇者が助けにいった」


「勇者が・・・・・・なら、安心かな」


亀裂の神の攻撃が効かず、また神族特効の武器クラレントを持っている勇者は対スルトにおける最強の駒だ。

その勇者が前衛をつとめ、ヤヌラスをはじめ亀裂の使徒の力を得たキースが後衛から攻撃する。

その連携で、亀裂の神スルトは大きなダメージを受け、一時的にさらなる深層に撤退した。

勇者とキースはこうして稼いだ時間で、魔王と魔将の救出と合流をはかったのだった。



魔王は集まった者たちを見て、嬉しそうだった。


「全員、無事だったか」


合流が完了し、欠員はいない。

それが魔王をホッとさせた。


「あれに攻略法はあるんですか?」


「俺があと五人いればたおせるかもな」


勇者が冗談めかして言う。


「ラス様。私達の知っている情報を共有しましょう。どうやら力押しで勝てる相手じゃないようです」


「そんなのあったならはじめから教えてくれよ、メルチ」


「だって・・・・・・ラス様との思い出なんだもの」


思い出を守るために情報を出さなかったと?

キースはなんだかやるせなくなったが、そもそもそれを確認しなかった自分が悪いと、いうことに自分に言い聞かせた。


「……はぁ」


その曖昧な葛藤の結果が、ため息になったのだった。


「まあよいではないか、メルチ。お前との思い出はこれからどんどん増えていくのだから」


「まあ、そうですね」


メルチは全員に、夢で戦った亀裂の巨人の特徴を教えた。


右半身と頭部は詠唱による爆破攻撃を得意とする。

発動まで攻撃範囲は不可視だ。

またおそらく空間転移の追加効果がある。


左半身は漆黒の氷でできている。

時間凍結と光の収束による光の槍が得意技だ。

精霊スキルは時間凍結で完全に封じられてしまうので、ジェナンテラを戦力としたいならこちらを早めに潰しておいた方がいい。


「それで、キースは何か閃いた?」


メルチの言葉にキースは頷いた。


「三面同時攻撃」


「ほお?」


「読んで字のごとく、三方向から同時に攻撃を仕掛けます。これにより、相手の攻撃法方を限定させ、こちらは連携できます」


「奴だけがイライラとするわけか」


「はい」


「実に余の好みだ。とすると、三つのパーティーに割りふらねばなるまい」


「“謀将”殿、何か考えはあるのか?」


戦神、いや“神将”ガンドリオが聞いてくる。

キースは頷く。


「スルトにダメージを与えられる者を中心に3パーティー、すでに腹案があります」


キースが提案したパーティー割りは次の通りだ。


まずは魔王パーティー。

魔王。

メルチ。

ベルデナット。

ガランド。

魔王軍最強の魔王を中心に、相手を殺せば殺すほど強くなるガランド。

式紙で器用に攻撃、補助、妨害を切り替えて使えるベルデナット。

最硬の障壁を展開できるメルチのパーティーだ。


次は勇者パーティー。

勇者ハヤト。

アグリス。

ノーン。

ヨート。

今回の戦闘の要である勇者と、超攻撃特化のいろいろ尖ったパーティーだ。

睡眠スキルを持つアグリスが唯一の後衛で、魔力を物質化して殴れるノーンと、そのまま物理攻撃職である拳術家のヨート。

とにかく殴って殴って殴りまくる。


最後がキースパーティーだ。

キース。

ジェナンテラ。

アリサ。

フィンマーク。

ガンドリオ。

神と四人分の力を受け継いだキースが後方からガンガン攻撃し、ジェナンテラが炎帝朱雀で前衛後衛関係なく燃やしまくり、アリサをドラゴンスキルで人間離れさせて攻撃兼壁になり、フィンマークは攻撃もできるが補助動作もする。

そして、現役の戦神ガンドリオが力いっぱい攻撃し続ける。


「ていうか魔将もやっぱり、ガンガン攻撃する人ばっかりなんですね」


ベルデナットがおかしそうに言った。


「確かに」


どのパーティーも基本的に攻撃ありきで、その他に強化、妨害、回復をこなす感じだ。


「最後に、バルニサスが言っていたことをお伝えします」


とメルチは全員に言った。

司法と光の神バルニサスがわざわざ言っていたこととは。


「たとえ、どれほど異世界から来たとしても、この世界に居る限りはこの世界のルールに従わなければならない」


「それはつまり……?」


ベルデナットが聞く。


「ええ。殴って殴って殴り続ければ、いつかは倒せる」


ああ、とかおお、とか言った脳筋と、そんなアホなと言った(ちょっとは)考えている二種類に分かれた。

誰がどこに属しているかは内緒だ。


「というわけだ。殴って殴って殴り続けて、勝つぞ」


「おうッ!」


「おー」


遭遇戦は魔王らの負けだった。

だが、スルトは全員を生かし反撃するチャンスを与えた。

与えてしまった。


「余らに時間を与えたことを後悔させてやろう」


魔王はそう言うと楽しげに歩き出した。



「よし、じゃ俺についてきてくれ」


勇者も自分のパーティーを集合させる。



「キースパーティー集合!」


ジェナンテラ、アリサ、フィンマーク、ガンドリオ。

この四人だ。


「行くぞ」


パーティーメンバーは頷いた。





次回!パーティーごとに亀裂の神へと挑む魔王軍!世界を救う魔王と、世界を滅ぼす神との決戦が始まる!


明日更新予定です。

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