表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
130/142

レベル129 謀将が倒れると魔王軍が終わる説

「できれば、私も魔王軍に入れてほしいのだが」


 と戦神ガンドリオが話してきたときに、キースの情報処理能力は限界を迎えた。


 連合会議軍のシャドウ討伐作戦の立案。

 魔王国の宰相として国家運営。

 魔王軍の総司令官として軍団管理。

 消滅した神々の情報保存と資料編纂。

 新規入軍した勇者の扱い。


+戦神の魔王軍加入


 地上にいたときは、それでも幕僚達のサポートがあったからなんとかやってこれたが、神の世界では一人。

 さすがに無理があった。


 ガンドリオからの要請を許可し、キースは座っていた椅子から立ち上がった。

 そして頭を抑え、ふらふらと歩き、ふうっと息を吐いて、ぶっ倒れた。


「き、キース!?」


 ジェナンテラが駆け寄り、抱き起こすが既に意識は無かった。


 すぐに医療の神アルクラポスが呼ばれ、検診をする。


「過労です」


その診断を聞いて、アルメジオンは魔王を見た。


「魔王様。一つお聞きしたいのですが」


「なんじゃ、あらたまって」


「先代の“謀将”ベリティスと同じように、キース君に仕事を丸投げしてませんでしたか?」


「む」


「む、じゃないですよ。魔王の知を持つベリティスがギリギリでやっていたことを、人間のキースがやってぶっ倒れないわけないでしょうに」


「そ、それは……余の配慮が足りなかった」


「そうです。という訳で、魔王様にはキースの仕事を引き継いで消失した神の情報をまとめてもらいます」


「余、余は書類仕事が苦手なのじゃ」


「大丈夫です。魔将全員にお願いしますから」


有無を言わせぬアルメジオンだった。



一時間後、強制徴収された魔将が集合した。


「ガランド君は竹簡の量産をお願いします。百柱以上いるんですから、いくらあっても足りません」


「了解した」


“鬼”のガランドは乾燥させた竹束を取り出し、作業を始めた。


「アグリスさん、アリサさん、ベルデナットさんは私が読み上げた神の名前、権能、情報を記載してください」


「……わかった」


「正直、文字を書くのは苦手なんだよね」


「お姉さま、よくそれで衛兵隊長務まりましたね」


「うむ。書類仕事は部下に丸投げだった」


「さっき、それ魔王様の口から聞いた言葉と同じなんですが」


アグリス、アリサ、ベルデナットはなんやかんや言っても文字が読める知識層である。

さくさく、とまでは行かないが仕事が回りはじめる。


「ヨート君とノーン君は、書き上がったものを検分し間違いないか確認してください」


「わかりました」


「かしこまりました」


地味に大変な仕事だが、寡黙なヨートと事務仕事をやった経験のあるノーンは黙々とやりはじめる。


「フィンマーク君は、全員に体力と気力を回復する魔法スキルを間断なくかけ続けてください」


「承った」


疲れたなどと言っている暇があったら働け、疲れたなら回復してやるということである。


「ていうか、キース君。これ一人でしてたの?」


アリサが驚いて口にする。


「そうですよ。魔将ともあろう方々が誰一人手伝うことなく、逃げ出したせいで」


「う……反省してます」


「の、のうアルメジオン。余は何をすればよいのだ?」


「何もせず見ていてください」


「何もせぬのか?」


魔王はすぐにでも勇者と模擬戦をしたいようで、うずうずしている。


「あなたの役目は全軍の統率者です。部下が何をやっているか確認し、監督し、頑張っていれば誉め、さぼっていれば叱らなければなりません。上役がいない組織はいずれ腐りますよ」


「う……うう。反省する」


「ふうん。面白いことをしているんだな」


魔王についてきて、はじめから見ていた勇者が参加してきた。


「勇者、か」


「これでも義務教育は卒業している。この世界の言語も覚えたしな。何かやれることは?」


義務教育をある程度の知識の保有と変換したアルメジオンは、笑顔を見せた。

魔王軍は魔族の習慣から脳筋が多いので、文官は苦労が絶えなかったという。


「勇者が頼りになる」


アグリスが眠そうに言った。


「これでも、魔王軍の一員になったわけだし、手伝いくらいはしないとな」


「では、私と一緒に資料の読み上げをしてくれるか?」


「おっけー」


というわけで、魔王監督のもと、神々の資料編纂作業が開始された。



キースが目覚めたのはその日の深夜だった。


「……う、うう。仕事!?」


「あ、起きた。大丈夫、キース?」


心配そうなジェナンテラと目があった。


「あ、あれ? 俺、寝てた?」


「うん。過労で倒れたんだよ」


「……ちょっと根を詰めすぎたか。ああ、そういえばやっていた仕事を続けないと」


「神々の資料編纂なら、さっき終わったって」


「終わった? え、誰が?」


「魔王様はじめ、魔将のみんなで」


「魔王様まで……後で謝っておかないと」


キースは起き上がろうとした。


が、ジェナンテラは朱雀を召喚。

無理矢理押さえつける。


「じぇ、ジェナ?」


「キースは働きすぎ、しばらく休養しててって」


「いやいや、そんなわけにもいかないって。これから地上に戻って、決戦もあるのに」


「だから休んでて」


「ジェナ!?」


「私は本気だよ。キースが完全回復するまで、無謀な行動を止める!」


その剣幕に、キースは体の力を抜いてベッドに横になった。


「わかった。ジェナが泣きそうだから、寝てる」


「なら、よし……ていうか、泣いてないし」


「よしよし、キースさんが慰めてあげよう」


「……発言がおっさんくさい」


「お、おっさんとはなんだ! 俺はまだ二十代だ」


「ふふん。妾は五百をゆうに超えておる」


「だからどうした!」


「お姉さんに甘えておけ、と言っておるのじゃ」


「のじゃ言葉が復活している!?」


キースとジェナンテラはイチャイチャしている。

久しぶりに休養をとったキースが完全回復するまで三日ほどかかった。


地上と神の世界を往復してきたアルメジオンが、シャドウ討伐作戦の成功を報せてきた。

ほとんど損害のないまま、連合会議軍は大半のシャドウを討伐した。

なかでも、ケルディ・イーストブーツ、ロクト、メレスターレの活躍が著しかったようだ。

そして、精霊使い兼戦士のダークエルフのファリオスも最前線で大活躍をしていたらしい。


「え? ファリオス様生きていたんですか!?」


普段眠そうなアグリスが目を見開いて言った。


「そ、そういえば伝えておらんかったな」


「魔王様、すぐに地上に向かいましょう!」


「性格変わっとらんか?」


「いえ、魔王様、あれがアグリスの本来の性格です」


いつも眠そうなのは、名前をくれたヒュプノスの影響のようだ。

力が完全に馴染んでいない、とかなんとか。


そんなこともあって、魔王軍は慌ただしく出発の準備を終えた。


「これからが本番だ。世界の終末を食い止めるため、みな全力を出してほしい」


魔王の言葉にみな頷く。

アルメジオンが青白い転移門を開く。


向こうにはうっすらと荒れ果てた景色が見える。

王の渓谷、バリレデ・ロス・レヤスの風景だろう。


ここに来た時の人員は一人も減ることなく、むしろ勇者と戦神が加わっている。

ちなみに勇者ハヤトは“勇将”、戦神ガンドリオは“神将”の魔将位を授けられた。

下手に既存の魔将位をつけるともめる、とジェナンテラやノーンが意見を言ったので新たに名付けられた。


魔王、メルチ、十一人の魔将はアルメジオンやエルドライン、その他の神々に別れを告げて、転移門をくぐっていく。


目的地は亀裂。

敵は、世界に終末をもたらすもの、黒き炎のスルト。


魔王ラスヴェートは、歩きだした。


次回!ついに敵の配下をすべて退け、魔王軍は亀裂の神スルトのもとへ突入する。最終決戦開幕!


明日更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ