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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
129/142

レベル128 一個の問題を片付けるとなぜか問題が増える

「破壊神ザをはじめ、慈愛神デュエクマラ、火山の神ゲルドレア……」


亀裂の陣営につき、倒れた神々のことをアルメジオンは指を折って数える。

キースは竹簡にその名前と司るものを記していく。


しかし、竹簡である。

竹でできた札を束ねたものである。

こんなのは、五百年前ですら使われていなかった。

神々は記録をするという習慣がないらしく、こんなものしか用意できなかった。

紙はない。

石板ならあるぞ、ガンドリオが得意げに話してきた。

石板よりは竹簡のほうが何十倍もましである。


採用されなかったガンドリオは部屋の隅で落ち込んでいる。


記録の神とか書物の神はいないのだろうか?

いたとしたらどういう記録形態をとっているのか?

とりあえず今は忙しくて、その追及はできそうにない。


「それと、滝の神ヨンデンラムト、蜃気楼の神マサゴラート……」


「滝の神ヨンデンラムト……蜃気楼の神マサゴラート……」


なぜ、キースは一人で記録をしているのか。

それはキース以外の魔将が脳筋だからだった。


ガランドはすまなそうに謝りながら記録係を辞退。


フィンマークは、ワンと鳴いて回避。

あんた喋れたよな、とキースは心の中で突っ込む。


アリサは、もう考えるのは疲れました~と逃走。


ベルデナットは、わたくしのような幼いものが長時間働いてもよいのでしょうか? と言ってニコニコしていた。

もちろん、ゆっくり休んでください、とキースは言うしかなかった。


ノーンは、私は文官には向いていません、と堂々と言っていた。

嘘をつけ、あんた俺が不在のベリティス城を治めていたじゃないか、と言うとあれは緊急事態だったからです、とぬかしやがった。

もうキースはがっくりきて諦めた。


ヨート? 話す前に修行に行きましたが。

なにか?


アグリス? いっぱい戦ったから疲れた。

寝る。

だそうだ。


側にいてくれるのはジェナンテラだけだった。


「大丈夫か? キース。顔色が悪いよ」


「はは、大丈夫、いまは」


幕僚の誰かを無理にでも連れてくれば良かったとキースは心から思った。


「それにしても、こんなに神様がいなくなって、世界は大丈夫なんですか?」


「しばらくは大丈夫だと思う。実際に司るものを管理しているのは僕を含めて少数だったからね」


死神アルメジオンは苦笑して言った。


「神々のほとんどは実際に司るものを管理していなかった、ということですか?」


「うん。別に火山の神がいなくなっても、火山が無くなるわけではないし、氷柱の神が消えても冬にはやっぱり氷柱が軒先に下がる。自然の現象は神の支配を受けない傾向にあるよ」


「え? じゃあ、その神様はなんのために存在していたのです?」


「なんのために、か。難しい質問だね。神がいなくても世界は回る。神の役目とはなにか。実際のところ、神の役目というのはコントロールなんだよね」


「制御ですか?」


「そう。たとえば一つの国家を凍結できるほどの吹雪が起きたら、世界は大変なことになる。そうならないように、吹雪の神は吹雪をコントロールしなくてはならない」


「じゃあ、たとえば火山の神がいなくなった今、大噴火が起きたら……」


「そう。ゲルドレアがいれば大噴火は中噴火程度になって、大きな街が消えるところを、村が一つ無くなるくらいにまで被害を抑えることができたはずだ。けれど」


「火山の神はいない」


「そう。自然の摂理のままに、大噴火は大噴火として起こり、猛吹雪は国を滅ぼすほどの猛吹雪となる。誰もコントロールできない」


「……でもそれが、本当の姿、なんですよね」


「そうだよ」


「神無き世界で俺達は生きていかなくてはいかない」


 キースが決意を新たにしたその時、大神の城が大質量の物体の衝突を受けて揺れた。


「ガンドリオ!!」


 今現在、ここで最も強い神は戦神ガンドリオだ。

 

「うむ。すでに守護三神の防衛機構は発動している」


 勇者の攻撃にも耐えた三柱の神は、敵対攻撃に対し半オートで発動する障壁を展開している。

 今回は、それによって防がれてなお城が揺れるほどの衝撃だったことになる。


 ガンドリオとアルメジオン、キース、ジェナンテラは急いで、何かが衝突した場所へと向かった。

 

 魔王様が出撃していった場所だ、とキースは思い出した。

 勇者との戦いにいった魔王様は、三日たっても戻ってこない。

 勝ったのか、負けたのか、それすらも確認できない。


 飛来してきたものは、おそらくその戦いに関係しているはずだ。



 そこには金と銀がまだらに交じり合った模様の球体が転がっていた。

 青白い雷光がパリパリとその表面を走っている。

障壁に衝突した衝撃のせいだろうか。

 球体はぐぐぐとうねる様に姿を変えて行く。

 何本も触手を生やし、それがうねうねと蠢く。

 それらは勢いよく上空へ射出される。


 空からよく知っている声がした。


「来たぞ、勇者。打ち落とせるか?」


「もちろん、我が怠惰よ、弓となれ”訪れる良き夜”(ブエナノーチェ)


 天から降り注ぐ、光の矢が金銀の触手を打ち落としていく。


「あ、あ、こいつはもしかして」


 隣に立っていたアルメジオンの声が震えている。


「どうしました、アルメジオン様」


 死神が空にいる魔王に向かって叫んだ。


「ヤヌス・アールエルを復活させるなんて、何やってんですかッ!!」


「ヤヌス・アールエルって、確か時の神……?」


 魔王から返事が届く。


「うむ、すまんな。不可抗力じゃ」


「不可抗力で原初の封印されし神を復活させないでくださいよ!」


「すまん、すまん、だが、もう心配はいらぬ。行くぞ勇者」


「応ッ」


「ウツロ返し、からの”虚空斬”」


 魔王は魔力を放出、歪んだ時空で幾重にも可能性を掛け合わせる。

 金と銀のヤヌス・アールエルに一瞬で数百もの斬撃が当たる。


「やるな、魔王。こちらもいくぞ”七天八刀絶剣斬”」


 勇者から七つの武器が飛び出し、連続してヤヌス・アールエルに攻撃を加えていく。

 最後に勇者が突進からの切り払いで、八連続攻撃が直撃する。


 何発くらったかわからないほどのダメージを受けて、ヤヌス・アールエルは蠕動した。

 それはもう意志のある動きではなく、単なる反射のように見える。

 べちゃり、とヤヌス・アールエルの触手が地に落ちた。

 それは溶けてぐちゃぐちゃとなった後、泡だって蒸発した。

 触手だけでなく、その体もゆっくりと流れ、溶け落ちていく。


 その球体の胴に人形の顔が浮かんで苦悶の表情を見せたあと、沈んでいく。

 二つ、三つと顔は現れ消える。

 ヤヌラス、ヤヌレスと呼ばれていたころには決して見せなかった表情だ。

 やがて、顔の現れる速度が緩慢になっていき、ヤヌス・アールエルは溶けきって、蒸発した。



 空から、魔王と勇者が降りてきた。


「ふう、ようやく完全に倒せたな」


「ああ、まさか時間を巻き戻して復活とかされるとは思わなかった」


「なに、余らが手を組めば時間稼ぎにしかならぬ」


「それもそうか」


 キースは不思議に思っていた事を魔王に聞いた。


「なんで、勇者と仲良くしてるんですか?」


 魔王は勇者と戦いにいったはずである。


「和解した」


あっけらかん、とした魔王の笑顔。

そして続く勇者の能天気な声。


「できれば魔王の配下となりたい」


「なんで!?」


 魔王軍に勇者が加わった。

 キースのツッコミは追い付きそうになかった。

次回!激務すぎてぶっ倒れる魔王国宰相兼魔王軍総司令官兼謀将兼連合会議軍参謀長兼その他。

ハードなブラック軍団の魔王軍の実態が明らかになったり、ならなかったりする!


明日更新予定です。

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