レベル126 神の争乱の決着
「ラスヴェートの腰巾着どもめ、何が目的だ」
嘲るように破壊神ザは言った。
手に突き刺さった矢は、すでに抜き取られ握りつぶされている。
「言っただろう? 義によって神族軍に味方すると」
「義? 何を言っているのだ。貴様らは神の世界に混乱を巻き起こした。不遜なる考えで秩序を乱したのだ」
ザは怒りを露にした。
「何をいまさら。亀裂の陣営であることを隠して、神の世界に混乱をもたらしたのはあなたです。破壊神殿」
キースは神々を敬う気はさらさらなかった。
もちろん、最後まで人間を見捨てなかった司法と光の神バルニサスや、先代の魔将である死神アルメジオン、永劫の竜神エルドラインは別だ。
しかし、その他の戦神やら、慈愛神やら、豊穣神などはいくら大神といっても尊敬するところは何一つない。
力が強いだけで、その思考回路は人間と同じだ。
いや、力を持っている分たちが悪い。
だから簡単に人間を絶滅とかいい始めるし、そのために魔族を造るし、魔族が強くなるとそれを倒すために勇者を呼び出す。
あくまで利己的だ。
そんな奴らが秩序だ混沌だなどと言っても説得力は皆無である。
なんなら魔王様の方が尊敬できるとさえ、キースは思っている。
「これは神同士の問題だ。被造物はおとなしく、勇者の相手をしていればいいのだ」
あくまで上からの立場で話しているザをキースは無視した。
そして、臨戦態勢のままだった獅子頭の男神に話しかける。
「戦神ガンドリオ。いまや亀裂の陣営は神の世界にまで拡がり、世界は終末に近付いている。それを防ぐために貴方の力が必要だ」
ガンドリオは迷うような表情だ。
「ちょっと強いだけの人間が! 神に勝てると思うな!」
破壊神ザは配下の神々に今度こそ合図を出した。
ただし、今度の目標はキースら魔将たちも含まれている。
「そう、俺たちは一人一人はちょっと強いだけの人間その他でしかない。だが」
キースの言葉。
「妾たちが力を合わせれば」
それをジェナンテラが引き取り。
「神をも凌駕する」
ガランドが締める。
他の魔将らも覚悟はとうに決めている。
神と戦う覚悟を。
「ナイトメア」
まず動いたのはアグリスだ。
強制睡眠スキル“ナイトメア”を発動する。
抵抗のない下級神はバタバタと眠っていく。
「眠らせるだけで勝てると」
中下級神のリーダーである火山の神ゲルドレアが怒り心頭といった様子でアグリスに殴りかかってきた。
その腕は燃える溶岩をまとって赤熱している。
まともな防御のないアグリスがくらえば、即死。
それどころか、亡骸も焼失してしまうだろう。
「それだけで勝てるとは思ってません。精霊よ眠れ“パンタソス”」
精霊の種類を指定して、眠らせるスキル“パンタソス”。
今回アグリスはもちろん、火の精霊を指定した。
ゲルドレアの腕の溶岩はたちまち冷え固まった。
ゲルドレア自身もまた、火に属する神である。
その体を形作る精霊たちが一斉に眠ったことで、ゲルドレアは己を維持できなくなった。
ゲルドレアの体がゴロゴロと岩の固まりとなって崩れていく。
「おのれッ! ゲルドレアをよくも!」
火山の神の仇を討たん、と氷柱の神フナートが腕を太い氷柱に変えて襲いかかる。
「氷の神なら、妾が相手じゃ“炎帝朱雀”」
真紅に燃える朱雀を呼び出し、同じ色の鎧をまとったジェナンテラが氷柱の神と対峙する。
岩盤の神が前に出れば、ナイトハウンドのフィンマークが四足魔法ハンベイを駆使して迎撃する。
破壊神ザがどんな手下を繰り出そうが、魔将が的確な反撃方法をもって迎え撃ってくる。
かなりのレベル差があるはずなのに、相性や属性を突き詰めることで互角の勝負になってしまう。
「なぜだ……なぜ、神が敗れる!?」
呻くような破壊神の声。
信じられない、とザは呟く。
誰一人倒れていない魔王軍と、死屍累々の亀裂神軍。
「さあ、なぜでしょうね」
キースは破壊神を見て笑う。
相手ができるだけ屈辱を覚えるように。
「く! 全員でかかれッ!」
しびれをきらしたザは配下の神全員の突撃を命じた。
「うわあ、これは危険だ」
ニヤニヤと笑いながらキースは次の手を打つ。
「本当にキースは性格が悪い、“朱翼天翔”」
ジェナンテラが炎帝朱雀の召喚技を放つ。
広範囲高威力火炎属性攻撃だ。
「わたしは似た者夫婦だと思うんですが、“鉄塊霊破”」
“鬼”のガランドが愛用している鉄棒を振った。
鉄棒が今まで奪ってきた命が、更なる死を呼び込もうと爆散していく。
「拙者も同感でござる、我が四足に風を踏みしめ、口腔よりは荒れ狂う嵐“ゲヴィッター”」
フィンマークが風系最大威力攻撃を放つ。
巻き込まれた神々が次々に吹き飛ばされていく。
「四崩拳、四崩拳、続いて四崩拳、それから四崩拳、のうえに四崩拳」
完全に勢いの無くなった神々へ的確にダメージを与えていくのはヨートである。
鋭い拳打に神々は対処できない。
そのうえ、自分で生み出した流れに乗せることで防御無視なのだから、一撃でみな悶絶した表情を浮かべて倒れていく。
「アリサ殿、ベルデナット殿。派手な攻撃は彼らに任せて、我々は地道に倒しましょう」
ノーンの言葉に、アリサとベルデナットが賛成する。
押しているように見えるがやはり神は神。
油断して突出して倒されるのはご免こうむる。
というわけで三人は、ジェナンテラたちが討ちもらした敵を地道に倒す作業に集中した。
なんにせよ、破壊神ザの誇る亀裂についた神々はあっという間にやられていく。
「あ……ああ、あああああ!!?」
それは思わずした行動だったろう。
ザは魔将を倒すべく自身が動いた。
我慢できなかったのだ。
今の、今まで隠しとおしてきた亀裂の陣営。
百を超える神々を配下におさめ、新世界の創造者となるべく暗躍していた彼の、全てがわけのわからない魔王の手下にやられようとしている。
それを許せるはずがなかった。
破壊神は激怒していた。
そう、全方位に向けていた警戒を、注意を忘れるくらいには。
もちろん、キースは見逃さない。
「今だ」
と、合図を出す。
ザは強力な神だ。
身体、魔力、それに強制破壊スキルなど正面から挑んでも太刀打ちできないだろう。
しかし、今は千載一遇の機会。
あまりにもやられ過ぎた配下の尻ぬぐいをするため、自ら戦いに参加しようとしている。
今、この瞬間。
破壊神は無防備だった。
雷光の速度で、幾重にも電撃を束ねたような威力でその技は放たれた。
「獅子雷音牙」
戦神ガンドリオは青白い火花をまとった神剣を破壊神の背に突き刺していた。
戦いが魔将対神にシフトした時点で、ガンドリオは三柱の大神の説得を受けていた。
バルニサス、アルメジオン、エルドライン。
亀裂の大神を止めるため、今この時力を貸してほしい。
状況は悪い。
誰が味方で、誰が敵かも判別しがたい。
しかし、その三柱の顔は真剣だった。
永遠にあると思われた神の世界は今、滅びの危機にある。
それと同じように万物は流転し、価値も常識も変わっていく。
であれば、神が魔王に、人間に協力するのもおかしくはない。
このように自分を納得させたガンドリオは、魔王軍に協力することを決めた。
そして今、ザの見せた隙に攻撃を仕掛けたのだ。
油断をつかれたザはガンドリオの攻撃をもろに受けた。
「な、え? バカな……私が、私が滅び……る……?」
腹からガンドリオの神剣の切っ先を出しながら、ザは三歩ほど歩いてバタリと倒れた。
そして、そのまま事切れた。
「亀裂配下の破壊神ザは戦神の裁きによって倒れた。これで亀裂の神々の旗印はなくなった。早急に降服せよ」
キースの勧告に、神々の動きが止まる。
無事な神々はお互いに顔を見合せる。
やがて武器を捨てる者らが現れた。
残った神々の中の、中級神である祈りの神エフェラが降服を決めたことで、残り全員もそれに従った。
大神の城は実質、魔王軍の手に落ちた。
次回!魔王と勇者の戦いも決着!
明日更新予定です。