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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル124 神の国は乱れ魔王は笑う

「勇者には余があたろう」


神の倉庫から調達(無断で拝借したともいう)した防具を身に付けながら魔王が言った。


「その間、俺たちは……まあ、言わなくてもわかりますが」


「どうも、神の間で意見の食い違いがあるようだ。ザにしろ、ガンドリオにしろ、潜在的には敵であろう。注意は怠らぬように、な?」


「了解です」


 魔法銀の城壁の上に魔王は立つ。

 間断なく放たれる勇者の”神剣クラレント”による攻撃は、衝撃波となって城壁を襲う。

 その余波で、魔王のマントがバタバタとはためいた。


「勇者め。実につまらなそうにやっておるわ」


「勇者にとって、もうこれは消化試合なんでしょうね」


「全てを滅ぼして、自身も亀裂の起こす創世という名の破壊に身を委ねるというのだろう。無益だな」


「ラス様。楽しまれるのはいいですけど、油断しないでくださいね」


 魔王の一番側で心配しているのはメルチだ。

 キースの横には、ヨートがいる。

 ジェナンテラやフィンマークなどの魔将も揃っている。


「無論だ。勇者の相手は前哨戦に過ぎぬ」


 勇者を倒したあとは、亀裂の大神が相手だ。

 その時には、魔将全員が死力を振り絞る必要があるだろう。

 

 本当なら、魔王はそれに備えて温存しておきたい、とキースは思っている。

 しかし、魔王は頑として譲らなかった。

 

 魔族を滅ぼす為に召喚された勇者。

 それを止めるのは、魔族の王である魔王しかいないではないか、と魔王は言った。

 

 それに、と魔王は続けた。

 人類を絶滅するという生まれながらの使命を捨てた余ならば、勇者の考えをどうにかできるやもしれぬ。

 そういう魔王に、キースは反論しようとしてやめた。

 そもそも、キースも絶対的な魔王の臣下であり、諫言はできるが止めることはできない。

 

「死んでも帰ってきてください」


 言えるのはそれだけだ。


「無茶なことを言う」

 

 と、魔王は笑い、城壁から飛び立った。



 魔王の出陣を見送り、キースは振り向いた。

 キースを含め、魔将9名。

 メルチ。

 そして、魔王側の大神である司法と光の神バルニサス、永劫の竜神エルドライン、死神アルメジオンの三柱。

 これが、今この場における魔王軍の全戦力。

 勇者の攻撃によって集結した全ての神との対抗戦力である。


「勇者の攻撃の圧力が無くなれば神々は何をするだろうか」


 キースはそれを考えていた。

 勇者によって圧力を掛けられ続けていた神々。

 その力が無くなったら、反発していた力はどこへ向かうか?

 整合を保とうとして、異物の排除に向かうのではないか?

 

 異物。

 そう、俺達魔王軍だ。

 勇者を神の世界へ呼び込んだ存在。

 たとえ、勇者を排除しようとも、神々の認識では評価は変動しない。

 必ず、排除に移る。


「魔王君の創造者である創造神と混沌神がどちらもいないこと、それに今現在の主神が破壊神ザであること、その二つの理由からキース君の予想は正しい」


 アルメジオンがすまなそうに言った。

 普段の軽薄そうな様子はない。


「まったく、助けに来た者を討とうとするなんて」


アリサが憤慨して言った。


「仕方ないじゃろう。妾たちは勝手にやってきたのだから」


ジェナンテラがそう口にする。


「神様といっても人間となんにも変わらないのですね」


ベルデナットがつまらなそうに言った。


「人間を創造したのも、また神だ。自分達によく似た存在として、な」


竜神エルドラインが説明する。


「それで、“謀将”殿には何か策はあるのかい?」


死神アルメジオンがキースに向けて言った。


「まあ、それなりに」


「例えば?」


「亀裂の神の配下がヤヌレスだけだったとは考えにくいんですよねえ」


キースは薄ら笑いを浮かべて言った。


「それは、そうだろうね」


「いくら十二大神と言っても、協力する者がなければ自由に動けない。だから亀裂の配下は必ずいる」


人間にケーリアという亀裂の使徒がいたように。

どれだけ信頼していても、それはどうしようもなく。


「それでどうする?」


「神界三分の計。魔王軍、魔王を排除したい神々、亀裂の手先。この三者で膠着をつくり、戦局をコントロールします」


「うわあ。君が味方で良かったよ。ベリティスよりもひどい」


「それは褒め言葉ですよ」


先代の“死将”に先代の“謀将”よりも、と言われてキースはわずかに笑った。


キースのやったことはこうだ。


「亀裂の大神が連合会議軍を倒し、ついに神の世界へと到達する。しもべは正体を現し、神々を攻撃せよ」


と、大神の城の中に触れ回ったのだ。


真っ先に反応したのは中級神である火山の神ゲルドレアを含む中下級神の二十柱ほどである。

魔王軍排除に武装していた戦闘系の神々と亀裂の配下のゲルドレアたちは衝突。

城内は戦火に包まれた。

 

「しかし、神であっても解脱には至らぬのですね。哀しいことです」


 法を司るバルニサスはうつむいて言った。


「バルニサス様。俺の手段はこういうものです。魔王様のためならなんでもやります。そういう覚悟はすでにできています」


 キースはバルニサスに言った。


「わかっています。ラスヴェート君は良い仲間を得ましたね」


 キースの起こした神界三分の争乱は、大神の城内を舞台に激しく燃え上がっている。


 

 そして。

 城外、浮島の一つで魔王と勇者は向かい合っていた。

 

「魔王ラスヴェートだ」


 風が強い。

 魔王のマントがバタバタと風になびく。


「勇者ハヤトだ」


 勇者の黒髪が揺れる。


「存外に若い。もっと年寄りかと思うておったぞ」


 魔王の言葉に勇者は無表情だ。


「ゲームなら魔界にある魔王の城とかで戦うものなんだがな」


試合ゲームとな?」


「いや、遊戯ゲームさ」


 言語による食い違いがある気がするが、魔王は些事としてそれ以上の質問は止めた。


「では、やるか」


「ああ」


 勇者は神剣クラレントを取り出す。

 魔王も愛剣ドーンブリンガーを抜く。


 お互いを見て、両者は駆けた。


 二人の剣は衝突した。

 弾ける火花。

 それを意に介さず、魔王は第二撃を放ち、勇者はそれに応戦する。


 魔王の剣技は封印から目覚めたあとに、人間の達人の剣を見て会得したものだ。

 様々な流派のものを組み合わせて、魔王独自に進化させたもの。


 勇者の剣技は、当時のベルヘイムにいた剣の達人から教わったものだ。

 平和な日本からやってきた勇者は砂が水を吸うように剣技を修得していった。

 

 二つの剣は幾度も、幾度もぶつかりあう。

 どちらも、相手に剣を届かせることができていない。

 

 魔王の口には笑みが浮かび、勇者の目には歓喜が宿る。


「楽しいか、ハヤト」


「楽しい……わけあるかッ」


「そうか。余は楽しいぞ。己の全力を振るうというのは楽しいことだ。全身を駆使し、全知を振り絞り、集中して戦う。これほどの喜びがあろうか」


「俺はそんな、戦いの世界で生きちゃいないんだ。俺はただ奪うだけだ」


「奪われたものを、か?」


「ああ、そうだ。俺の奪われたもの全てを奪って、この世界を滅ぼしてやる」


 勇者の慟哭に、魔王は応えるべく剣を振るった。


次回!魔王と勇者の戦いは続く。そして、キースたちの目の前で繰り広げられる神々の戦い!破壊神ザのとる決断とは!


明日更新予定です。

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