レベル123 神の世界へ~衝突~
更新遅れました。
すいませんでした。
神の世界。
板状である世界を創造した神々は、その影響を残しつつ、この神の世界に居住している。
この神の世界は、板状世界を創造した時の余剰物で造られた浮島が連なって形成されている。
それぞれの浮島は一つの国ほどもある広さで、そこに住まう神の力によって広さが決まっているという。
だが、勇者との戦いでほとんどの神は己の住処である浮島から逐われ、一ヶ所に集まっている。
捨てられた浮島は荒廃している。
例えば、肥沃な平原が美しく広がっていた風の神タルタボーネの浮島は、荒れ果てた石だらけの荒地に変わっている。
神々唯一の拠点である大神の島は、いくつもの尖塔を持つ銀色の巨城である。
その銀は魔力を跳ね返す魔法銀であり、勇者はこの城を攻略するのに苦戦している。
勇者ハヤトはもう考えることもなく、何度めになるかわからない攻撃を銀の城へ加えていた。
元の世界でよくやっていたロープレのラストダンジョンに挑んでいるような気分だ。
こちらはもうレベルカンストで、攻撃を連打しているだけでモンスターを倒せる。
だが、向こうもエンカウント率が高く、ちょっと歩くだけでまたモンスターが出てくる。
やっていればいつかはラスボスのもとへたどりつけるが、時間稼ぎをされているのがわかる。
そうなると、もうボタン連打で無心の状態になる。
攻撃し続けて、中に籠っている神々を殺す。
それで終わりだ。
元の世界からハヤトを拉致してきた神々とこの世界への復讐は、これで果たされる。
元の世界、日本、東京、吉祥寺には家族がいた。
父が、母が、妹が、遠方には祖父母がいた。
学校には友人がいた。
憧れていた先輩が、慕ってくれていた後輩がいた。
叱ってくるが、本当は心配してくれていた教師がいた。
厳しくも優しい部活の顧問がいた。
読みかけのマンガがあった。
積んでいたゲームがあった。
食べたかったファストフードがあった。
見たかった映画があった。
聞きたかった音楽があった。
それらは全て奪われた。
そして、返ることはなかった。
さらにはハヤトは死の安息すら奪われたのだ。
それならば、こちらも奪うしかない。
世界を、生命を、安息を!
間断なく打ちこまれ続ける勇者の攻撃に、魔法銀の城壁は今のところ持ちこたえている。
だが、それは本当に、今のところ、でしかない。
魔法銀の神ミーサレル、城壁の神アンゾーラ、防御の神パルンプトといった小神なれど守る事に秀でた神々が持ちこたえられなくなったとき、大神の居城は突破される。
神々が戦々恐々としている中、板状世界(神々は地上と呼んでいる)から転移門が開いた。
この城の中に干渉できるということは、こちら側の仲間である。
だが、現れたモノを見た時、多くの神々が息を呑んだ。
驚愕、あるいは恐怖。
魔王ラスヴェートが現れたことに対しての、だ。
魔王の創造は神々の御業である。
広がりつつあった亀裂の拡大を防ぐため、その拡大の原因たる魂の重量を増しつつあった人間を絶滅させるために、神々が造り上げた最強の魔族。
それが魔王だ。
下手をうてば神でも倒される程度には、魔王は強い。
そのように造られたからだ。
そして、時を司る双子の片割れヤヌラスが倒されたとき、それは確信へと変わった。
魔王は神を倒しうる。
小神だろうと、大神だろうと。
自分達を殺せる存在が現れたのだ。
驚き、恐れるのも当然だろう。
魔王、とその配下の前に力強く立つ存在があった。
獅子を模した兜をかぶり、まばゆい黄金の鎧をまとった戦士。
戦神ガンドリオである。
ほとんどの大神が忘れ去られた地上世界でも、この大神の存在はまだ知られており、名の一部にこの神の名をつけることで子供の武運長久を願うといった風習が獣人を中心にまだ残っている。
「なぜ、被造物たる貴様が栄光の神々の浮島に足を踏み入れた」
それは魔王の存在を拒否しているかのような口ぶりだった。
魔将の一部は詰め寄ろうとして、キースに止められている。
「アルメジオンに呼ばれたからじゃ。栄光の神々の存続が危うい、とな」
ガンドリオは、髑髏の仮面をつけた死神に目だけ向けた。
「この蝙蝠め。必ず責任はとってもらう」
「どうやら、ガンドリオ殿は状況がわかっておらぬようだな。大神同士でくだらぬ諍いをしている場合ではないと思うがのう」
「この神々の浮島に勇者がやってくるのを止められなかった貴様らの責任だろう!」
「くっくっく。何を言うておるのだガンドリオ。勇者を目覚めさせたのは時を司る大神ヤヌレス。いや、そもそもこの世界に勇者を呼び込んだのは貴様らではないか!」
魔王は怒っている。
魔将らはもちろん、神々の中でも察するものはいた。
なにせ勇者は、魔王を、魔族を殺すために召喚されたのだから。
神のために創造された魔族を、神が呼び出した存在が殺す。
こんな理不尽なことがあるのか。
“魔将”ジャガーノーンをはじめ、多くの魔族が勇者の手にかかっている。
ガンドリオは顔をしかめている。
「ヤヌレスは、造反者だ。奴の罪は我らの責ではない。勇者に関しては……我々の責任では」
「ないと言うのか? ならばなぜお前たちは勇者に狙われているのだ」
「ぐ……。貴様らが、貴様らが悪いのだ。余計なことをしなければ」
ガンドリオは黄金の槍を魔王に向けた。
「余と戦うのと言うのか?」
「無礼は糺さねばならない」
魔王は失望したように首をふる。
「ミーサレル、アンゾーラ、パルンプト、他にも多くの神々が勇者の攻撃からここを守っておるのだろう? そして余らはその援軍としてここに来た。しかし、戦神たる貴様は余に槍を向けている。その行動に正義はあるのか?」
ガンドリオの槍がぶるぶると震え始める。
「わ、我は」
神は基本的に正義を立ち位置としている。
そこを外れれば、存在が成り立たないほどに。
魔王によって、正義を問われたガンドリオは動揺しているのだ。
「はい。そこまで! ガンドリオは正義の側に立っている。ただラスヴェートを糾弾するために間違っただけだ」
水晶のような衣服をまとい、真紅の宝石でできた首飾りが特徴的な男神がガンドリオとラスヴェートを止めた。
武闘派の戦神ガンドリオと魔王ラスヴェートの衝突を止められるほどの神は少ない。
魔王はその神の名を呼んだ。
「わざわざ援軍に来てやったぞ。破壊神ザよ」
蠍の尾のように結んだ長く赤みがかった髪を揺らしてザと呼ばれた神は笑う。
「別に頼んではいないが。まあ、戦力は多ければ多いほどよい。君たちの来訪を歓迎しよう。魔王ラスヴェート」
いろいろ引っ掛かるところは多いが、とりあえず魔王たちは神の世界に歓迎されているらしい。
戦神ガンドリオは魔王のことを一瞬睨み付けると、己の場所に戻っていった。
「歓迎感謝する」
「さて。では現状を説明しよう」
破壊神ザは真面目な声を出した。
できるなら、はじめからそうしてほしい。
という思いは、次のザの言葉で吹き飛んだ。
その言葉とは。
「創造神と混沌神がお隠れになってから百年あまり、時の神もこの世界を去った。だが我々がついに反撃する機会がやってきた。魔王の手を借り、勇者を討つ!」
言っていることは当たり前なのに、喋り方や身振り手振りでなんとでとてつもなく重大なことを言っているようにも思った。
そんなことより大事なことがある。
神々の、大神の中でも別格な存在である創造神と混沌神がいないという状況だ。
これで勇者に、亀裂の神に勝てるのだろうか、とキースはひどく心配になった。
次回! 魔王と勇者の戦い始まる。
明日更新予定です。