表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
123/142

レベル122 神の世界へ~準備中~

神々が敗北しそうだ、と死神アルメジオンから連絡が入ったのは秋口のことだ。

半年あまりにわたって、神々と勇者の間で行われた神の国の戦いは勇者が十二大神を追い詰めるという異常事態に収束した。


「まさか」


と、魔王は呟いた。

最低レベル400オーバーの神々が、勇者一人に負けるとは思ってもみなかった。

ありえない、と言い換えてもいい。


しかし、キースの意見は違っていた。


「可能性は低かったですが、予想はしていました」


「なぜ、そのようなことが言える?」


「勇者はヤヌレスを一刀両断しました。いくらかの女神が油断していたとはいえ、一撃ですよ? それなら他の神々との戦いだって成立するでしょう」


「しかしなあ」


「魔王陛下。あの勇者は死ぬ前ですら、我が父ジャガーノーンを倒したのですよ?」


ジェナンテラが厳しい顔で言った。

彼女にとって、勇者は父の敵ではある。

あるが、父に認められた存在でもある。

その勇者なら、やりかねないとは思っていた。


「それは、確かに」


「復活の仕方が影響していると、それがしは愚考いたします」


“死将”となり、すっかり貫禄がついたガランドがそう口にする。


「復活の仕方とは?」


「勇者ハヤトは七つの天剣絶刀を砕いて生まれた魔力によって再誕しました。それはつまり英雄七人分の力をすでに持っているということになりませんか?」


ガランドの考察をキースが引き継ぐ。

そして、ジェナンテラが考察を進める。


「それに、失敗者と名乗っていたヤヌラスによってレベル100以上にレベル上げされていてもおかしくない」


「となると、あの勇者はレベルが100以上で、その他にも英雄七人分の力を持っていると……それなら、神をも倒せるか」


「ラス様。もしかして、彼もまた私たちと同じなのかもしれません」


「どういうことだ、メルチ?」


「彼はレベル400オーバーの神ヤヌレスを倒した。そのせいで大量レベルアップしている」


夢の中で、集合的無意識の亀裂の神を倒したメルチは人間の限界を突破している。

魔王も、また何度も限界までレベルアップしている。


「きゃつを放っておいたのは間違いか?」


魔王は頭を抱えた。

あの時、すぐにでも勇者を追っていれば倒せたかもしれない。

亀裂を優先したことで、強力な戦力になっていただろう神々を失いかけている。

さらに神々が倒されれば倒されるほど、大量レベルアップの機会を勇者が得ることになる。


だが


「いえ、私はそうは思いません」


なんでもない、というような冷静な声でキースは言った。


「それは、どういうことだ?」


「こちらの世界を優先したことで、帝国と魔王国には強固な同盟ができました。世界の危機である亀裂の尖兵シャドウを倒すめどもつきました。それにまだ神々は滅びてはいません」


魔王軍最高の知者である“謀将”のこの言葉は、固唾をのんで会議の行方を見守っていた連合会議の参加者に安堵の息をもらさせた。


魔王が動揺していては、戦いの始まる前にこちらが負けてしまう。

というキースの焦りを、魔王は感じ取った。

そして、そのような心配をさせてしまった自分に反省を促す。


そう。

魔王こそが、人類と魔族の最強の戦力である。

そんな魔王が動揺していては、勝てる戦も勝てなくなる。


「確かにキースの言うとおりじゃ。まだ神々は負けてはおらぬ。ここで我らが援軍を送れば巻き返すこともかなおう」


落ち着いた魔王に、キースは笑う。


「では、魔王様に連合会議の諸君。これより、神の世界への援軍を送る。そして、それを期に対シャドウ作戦の開始を宣言する」


「は?」


と、参加者の思考が止まる。


神々が負けそうだ、ということはわかった。

魔王軍にはまだ対抗する力があることもわかった。


なぜ、そのタイミングで作戦を開始しなければならないのか?


「どれほど強力であろうと、二つの戦いに同時に全力を出すことはできません。神の国で勇者を支援しつつ、こちらで連合会議軍を相手にはできませんし、その逆もまたしかり。この局面だからこそ、この策は最大限の力を発揮します」


「もしも、じゃ。亀裂の神が神の国を攻める勇者を捨てて、こちらを全力で襲ってきたらどうするのかのう?」


意見を口にしたのはメレスターレだ。

キースは答える。


「その場合は、神々と援軍が協力し勇者を速攻で倒します。そして、そのまま亀裂の本体まで移動し攻撃します」


「逆に、勇者と亀裂の神が手を組み神々を滅ぼそうとしたら?」


アグリスが眠そうな声でそう尋ねてきた。

この“影将”が会議で発言するのは珍しい。


「なるべく神々に時間を稼いでもらい、こちらでシャドウを殲滅。連合会議軍で亀裂を鎮めます」


「ふうん……私たち魔将はどちらにしても死線に行かされるってことね?」


「嫌か?」


アグリスは口角を上げた。

笑っている。


「いいえ。むしろ、全力を出せそうだから楽しめそう」


アグリスは初めて会った時とまったく性格が変わっているように思える。

だが、これも彼女なのだ。


「それでは、降雪の前までに全てを終わらせる。この時をもって作戦を開始する!」


この、連合会議をもって人類と魔族が手を組み、共に戦うという史上類を見ない大戦が勃発した。


ある男のもとに、命令がくだったのはその直後である。

命令を下したのは“謀将”。

その男は自慢のひげをなでながら聞いている。


「連合会議軍の指揮は魔王軍グランデ部隊スターホーク将軍にお願いする。各方面軍はその所轄の国が中心となり迎撃、作戦遂行をはかること」


「なんで俺なんだ?」


いきなりの命令のわりには冷静な反応のひげ男だった。


「残っている人員で一番使えそうだからだ」


「は?」


「魔王様と全ての魔将は別動隊として行動する。故に残りの人員で首脳部に近いのはお前か、アザラシであろう。だが、アザラシはまだ荷が重い。だからお前だ」


自分の興したパーティーですら掌握できなかった、という過去のあるアザラシは、経験を積んだとはいえ、この戦いでメインに置くにはまだ早いという結論に達した。

そして、自前の傭兵団を率いて数々の戦場を渡り歩いてきたスターホークに指揮権を委譲することになった。


スターホーク、メレスターレ、ロクト、ボアゾン、アザラシ、ケルディ、フィナール、イグニッシ、サバラ。

彼、彼女らが人類と魔族の連合として、この世界を守護し、蔓延る亀裂の尖兵であるシャドウを討つ役目を担う。


「ふうん。まあ、俺の実力を買ってくれてると思っておくか。魔王様やあんたらに言うのもなんだが、こっちはまかせて存分に暴れてきてくれや」


ニヤリと笑うスターホークに、キースは笑って頷いた。



そして、魔王と魔将たちは神の世界へ向かう。


「いやあ、魔王様に出ばってもらうことになるとは、まったく神の端くれとして恥ずかしいです」


使者としてやってきた死神アルメジオンは髑髏の仮面を掻きながらいった。


「みすみす勇者をそちらへ向かわせてしまったのは余らだからな。責はこちらにもあろう」


「そう言ってもらえると助かります」


「行くのは魔王様、メルチちゃん、そして魔将の方が9名っすね」


「うむ」


「では、こちらへ」


アルメジオンが魔力を込めると、空中に青白い光の扉が開く。

扉はゆっくりと開いていき、向こう側の景色が見える。


世界を創造した神々が住まう神の世界への入口だ。


「よいか? まずは勇者を止める。然る後、こちらの戦局を見ながら亀裂へ向かう。これが大まかな作戦ぞ」


全員が頷く。


メルチ。

キース。

ジェナンテラ。

アグリス。

ノーン。

フィンマーク。

ガランド。

ヨート。

アリサ。

ベルデナット。


様々な種族、立場の者が魔王を慕い集った魔王軍。

その使命は、世界の維持。

かつてはそれを人類絶滅という手段で成そうとした。

だが今は亀裂そのものの根絶を目的としている。


その中心である魔王とメルチ、そして魔将達は、亀裂の手先となった勇者を討つため神の世界へ突入した。

次回!神の世界で魔王たちはゴタゴタに巻き込まれる!どんな問題が起きても、まあ魔王様には関係ないかも。


明日更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ