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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
122/142

レベル121 連合会議

更新再開しました。

 その年は猛暑であった。

 河や湖も干上がるところができはじめ、海も海岸線が広くなったように感じる。

 大地に入った亀裂が大きく広がり、その下に封じられている亀裂の大神”黒き炎のスルト”の業火が漏れ出しているためだ。

 

 さらに追い打ちをかけるように正体不明の謎の魔物がはびこるようになった。

 黒い影のような人型の魔物。

 長い腕で襲ってきたり、簡単な魔法を行使してきたり、意外とタフなこの魔物はその見た目から”シャドウ”と呼ばれた。

 ベルスローン帝国軍と魔王国軍が共同でシャドウ討伐作戦を行ってはいるが、まだ相手の数は多いようだ。


「間違いなく、亀裂から現れてます」


キースは様々な地域から送られてくる情報をまとめて、連合会議の場に報告した。

帝国と魔王国の終戦と、それから始まる同盟は対亀裂、対シャドウにおいて史上類を見ないほど強固なものとなっていた。

魔王国の首都となったベリティス城には両国の担当者が集まり、連合会議と呼称されている。


連合会議の参加者はおおむね、春に行われた協定締結の場にいたものである。

魔王国からは魔王、魔王の妻、九人の魔将、魔王国の幕僚たち。

帝国からは、皇帝の護衛から転属になったロクト、“聖女”メレスターレなどの有名人から、軍団を指揮する将軍なども参加している。


「亀裂の位置は特定しているのか?」


 ”聖女”メレスターレが涼しげな目でこちらを見てくる。

 

「はい。シャドウの侵攻速度、位置、数などから特定できました」


 おお、と場がざわめく。

 今まで、わからなかった”亀裂”の場所。

 世界が崩壊する起点がついに判明したのだ。


「どこにあるのだ?」


「辺境地方。封印の森及び魔王城のはるか東。バリレデ・ロス・レヤスと古語で呼ばれる地です」


「ばりれで……?」


「現代語訳ですと”王の渓谷”とでも訳せるでしょう」


 意外と博識なケルディが翻訳する。


「そのものズバリですね。一つ、お聞きしてもよろしいですか?」


 メレスターレは口を開かない魔王を見た。

 魔王は無言で続きを促す。


「魔王陛下は、そこに亀裂があったのをご存知だったのではないのですか?」


 メレスターレは優秀だ。

 二十代で教会勢力の派閥を興し、それなりの権力を得るくらいには。

 だからこそ、魔王の本拠近くにある亀裂のことを魔王が知っていると推測できる。


「知っておった」


 短く魔王は言った。

 それはそうなのだ。

 魔王はもともと神の命令により、亀裂を大きくさせている人間を絶滅させようとしていた。

 知っているに決まっている。


「では、魔王陛下がこの事態の責任を負うということを誰かが言いかねませんね?」


「言い訳になるやもしれぬが、シャドウのことは余はまったく知らないことだ。その上で、余に責任があるというのなら、その責を果たそうではないか」


 メレスターレと魔王はしばらくにらみ合った。

 

 そしてメレスターレは笑う。


「義弟を苛めるのはこれくらいにしておきましょう」


「おとうと?」


「ええ。メルティリアは私の可愛い妹。その伴侶となれば私にとって義弟です。もちろん、立場はわきまえていますわ」


「弟か。なかなかに不思議な心持ちだ。呼ばれることがなかったゆえかな」


「では、連合会議はこの件に関しては魔王陛下の責任は問わない、という方針で参ります」


「感謝する。義姉上」


「む」


 今度は、メレスターレが照れている。

 

「さて、キースよ。亀裂が見つかった今、この会議はどのように動くべきか。意見を述べよ」


 魔王のフリにキースはテーブルに広げられたこのあたりの地図を指す。


「最終的に亀裂の神を討伐するまでを含めての作戦を述べます」


 キースはこう説明する。


 各地に現れたシャドウ、亀裂の尖兵は帝国、魔王国の軍団を持って包囲し徐々に追い詰める。

 シャドウらは強力ではあるが、知性を持たず、集団で行動したり、作戦を使うということはない。

 包囲を狭めていき、両国の軍団で鎮圧する。


 その間に、魔将を含む精鋭を亀裂に派遣。

 全力を持って神を討伐する。


 数には数を、力には力をぶつけるという作戦だ。


「ふ。見た事のある策よのう、キース」

 

 魔王にとって、これは知っている作戦だ。

 人類の全力を持って、各地の魔将を襲撃し、魔王城への集結を防ぎ、その間に精鋭たる英雄たちで魔王を直接襲撃、これを倒す。

 かつて、五百年前の戦いで人類と魔族の決戦となった戦いに、実に良く似ている。


「参考にはさせていただきました」


 しれっとキースが言う。


「良かろう。帝国のほうで意見がなければ採用したいと思うが、どうじゃな?」


「私達は、魔王国に出向しているもの、実質魔王軍の指揮下にあります。従うことに何の問題もありません」


 メレスターレ以下、ロクトも含む帝国の将軍らが頷く。


「全肯定というのは為政者を駄目にするぞ」


 と笑いながら魔王が言った。


「では、こちらの準備が整い次第、作戦を開始します」


 キースがそう言って、会議は解散となった。



 会議終了後、魔王の私室で魔王とキースは話し合いをしていた。

 各々の妻であるメルチとジェナンテラも同席して(お菓子や果物などを間食して)いる。


「残り三人はどうだ?」


「どうしても十二人そろえたいですか?」


 魔将のことである。

 修行にみっしり時間のとれたアリサやベルデナットと違って、普通はそう簡単に強くはなれない。

 キースも発破をかけたりしたが、ガランドが”死将”になったくらいで効果はあがっていない。

 というか、虎人のベナレスとグレーターゴブリンロードのイグニッシは魔将候補だったはずが、軍師参謀の志望になっていた。

 もちろん、キースのように軍師や参謀でも魔将にはなれるが、彼らの道はまだまだ長い。

 

 そこで、キースの十二人そろえたいですか、になるわけだ。


「引退したものらを復帰させるのも酷じゃのう」


 先代の”獣将”カレガントは隠居しているし、”竜将”、”死将”の二柱の神は対勇者で忙しく、とてもこちらで魔将なぞできない、とのことだ。

 ダークエルフのファリオスは健在なものの、レベル上げにまだ手間取っている。

 

「十二人揃えなければ勝てない、とか?」


「いや、単なる験担ぎのようなもので、論理的には無意味なのじゃが」


 とは言うものの魔王は十二魔将を揃えたいようだ。

 験担ぎか。

 非効率的ではある。

 今すぐにでも、シャドウそして亀裂討伐の軍を興したい。

 だが、魔王の力が十二分に発揮できなければ負ける。

 魔王様はこちらの最強戦力。

 これを万全の状態で亀裂の神にぶつけるためには、まだ手を打たなければならない、か。


「のう、キース。余は大雑把な思考は読めるのじゃが、お主かなり失礼なことを考えてはおらぬか?」


「考えていますが、全ては魔王様のためです」


「むう。メルチとは違う意味でお主も頑固じゃな」


「ラス様? 私が頑固とはどういうことです?」


 非常に冷たい声でメルチが言う。

 なぜか、顔は笑顔のままだ。


 怖い。


「そ、それは言葉のあやというものであってな……」


「もしかして一番強いのはメルチさんなんじゃないかな」


 とジェナンテラが呟く。

 キースもまったく同意見だった。

次回!勇者の向かった神の世界へ、ついに魔王達も進軍する!人類と魔族、そして亀裂の戦いは終局へ向かいつつある!


明日更新予定です。

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