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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル118 竜の炎と吹雪の拳聖

あー、これは師匠殿に怒られるパターンだ。

片腕をとって、攻撃しまくって、それなのに反撃されて、叩きつけられた。

二対一で、怒りで油断を誘って、有利な条件を揃えてもこれだもんね。

でも、師匠殿は決して声を荒げるとか、そういう怒り方じゃないんだよなあ。

一言、情けない、ってさあ。

言いそうだよねえ。


アリサは倒れながらも、パッシブスキル“ドラゴンブラッド”が発動するのを感じていた。

体力自動回復、即死攻撃体力残存をあわせ持つ強スキルである。

そして、オフにしていた“ドラゴンスケイル”のスキルを発動する。

物理ダメージ軽減、火炎無効がアリサのステータスに加わる。

“ドラゴンアイ”で視界強化、反応速度向上。

“ドラゴンクロウ”で攻撃力魔力上昇。

そして、握った剣の封印を解除、魔剣“ドラゴンファング”として覚醒させる。


それから、ゆっくりとアリサは立ち上がった。


「まだ、起き上がる力があったか……!?……なんだ、お前は!!?」


「あたしさあ、別に魔法の適正もないしさ、精霊と交渉もできないし、信心深い方でもない、薬の調合とか頭痛くなるし、隠れて尾行とか無理だし、何にもできないわけよ」


異様な雰囲気のまま、アリサは剣をとった。


「でもさあ、この剣だけは……譲れないわけ。いっつも貧乏してた父さんが私にたった一つ遺してくれた、この剣技は誰にも負けたくない」


「その気は、人間のものではないな!?」


オロチの声に、アリサはギロリとそちらを見た。


「我が師“竜将”エルドラインの名のもとにあなたを倒す」


人間の反応速度を超えた一歩で、アリサはオロチの間合いに入る


「いくら速かろうと、そこは私の間合いだ」


「あなたの攻撃は、このドラゴンの目で全て見えている」


オロチの攻撃を全て剣で叩き落とす。

彼の天剣絶刀トドゴルペによる見えざる拳も含めてだ。


「ちぃッ!」


オロチは飛び上がり、アリサの間合いから距離を取る。


「逃げても無駄だ! ベルデちゃん!」


「準備は完了ですわ、お姉さま」


「な、なぜ貴様も無事なのだ!?」


さきほど、オロチの攻撃で昏倒したはずのベルデナットも何事もなかったように起き上がっている。


ベルデナットはにやりと笑って、紙切れを一枚ひらひらとふる。


「式紙です」


オロチの攻撃を受けたのは式紙で作り出したベルデナットの似姿。

本人はいち早く、攻撃を察知して回避していた。


「これで終わりだ! ドラゴンブレス!」


アリサの前に複雑な魔法陣が形成される。

そこから真っ赤に燃える炎のブレスが噴き出す。

ドラゴンは口腔内で魔力を操作し、炎を精製しブレスとして噴き出す。

アリサのそれは、人間にも扱えるよう簡略化したものだ。

その分、温度や範囲が大きく減少しているが、人間が使う分には過剰でもある。


「く、高威力広範囲の火炎攻撃か。だが、この程度たやすく回避できる」


「ベルデちゃん!」


「はい」


ベルデナットが展開した式紙がオロチの周囲を覆う。


「なんだ、これは? 拘束魔法でもないし、これ自体に攻撃力はないようだが」


「お姉さまが考案した、わたくしとの連携攻撃ですわ。一言で言うと紙はよく燃えるということですわ」


「なん、だと?」


アリサのドラゴンブレスが式紙に直撃する。

その式紙は一気に燃え上がる。

その炎はその周囲の式紙に燃え移り、瞬く間にオロチの周囲は炎と化した。


「炎の檻の居心地はどうかな?」


手足に火傷を負いながら、オロチは燃える式紙を倒して脱出を模索する。

しかし、次から次へと倒すたびに現れる式紙の群れ。

現れるたびに式紙は炎に包まれていく。


「くそがッ! 出せ、私を殺すことは世の損失だぞ!?」


「式紙とはいえ、ベルデちゃんを殴ったことは万死に値する」


「お姉さま……」


本当に病んでいるのはアリサのほうかもしれない。


「竜騎士アリサ・キディスと」


「式紙使いベルデナット・グランデの」


「合体奥義“竜禍炎式”」


燃えた式紙が一斉にオロチを包み込んだ。

ドラゴンブレスの炎、式紙の炎を受けて、オロチは燃え上がった。



炎が鎮火した後、オロチは生きていた。

神の力“天装”を最大限に展開し、瀕死の状態ではあるが、だ。


そこへ、走り込んでくる人影が二人。


「大丈夫ですか! アリサ殿、ベルデナット殿」


「我らが師”拳聖”が現れたと聞きました」


ヨートと、応急措置をしたロクトだ。

“拳聖”出現の報告を受けて、傷だらけの二人ではあったが駆けつけたのだ。


「って……この状況は?」


竜の様な雰囲気のアリサと、紙片を持ったベルデナット。

焼け焦げたオロチ。


「拳聖オロチは私たちで焼いたぞ」


「え、あの、アリサ殿」


「お姉さまったら容赦ないんですもの」


「お二方、あれは我らが師“拳聖”ではございません」


ロクトがはっきりと言った。


「え?」


「あれは、私と同じ“拳聖”の弟子、拳聖新陰流伝承者ゴートです」


「はぁ?」


「わ、私は拳聖だ。拳聖オロチ・カンゼロウだ」


黒焦げになったオロチ?がうめきながらそう言った。


「何を言っているのです。ゴート」


「そう、間違いなく、こやつはゴート。我が弟子だ」


全員が気がつかないうちに彼はそこにいた。

黒焦げのオロチ、いやゴートの背後、長い黒髪が目を引く中年の男が立っている。

その無精髭が浮いた顔にはうっすらと笑みが浮かび、知らぬ者が見れば人好きするおっさんのように見える。

しかし、弟子達はその記憶から畏れを思いだし、魔王軍の者は同じように黙っていれば好好爺に見える武術の達人“獣将”カレガントを思い起こした。


「我れが、“拳聖”だ」


拳聖を名乗る男は、黒焦げのゴートの頭に手をやった。

そして、ぬるりと何かを取り出す。

ほのかに輝くゆらめく球体だ。

それを拳聖は握りつぶした。

拳聖の手の中で、その球体は吸い込まれていく。


「なるほど、強さを追い求めるあまり我が因子を引きだし過ぎた。故に自分を拳聖と誤認したか……」


ふっと本物の拳聖の体が揺らめいた。

次の瞬間、偽物の拳聖ことゴートの頭が無くなった。

強烈な蹴りで消し飛んだのだ。


「己での外気功の発見、全身どこからでも四崩拳を放つほどの功夫、神の力の鎧“天装”、己の魂を具現化する天剣絶刀。天装は強力だが、他者のものを使ってるから評価しないとすると、そうだな42点といったところか」


「ゴート……」


「我が師よ、これは一体?」


「先に逝ったクートは、他流派の技を組み合わせ、連続攻撃を連続攻撃の起点とする無限の拳技を見出だした。最後こそ“双極”に頼ったが、まあ新陰流自体が陰流やら様々な技の寄せ集めだとすれば悪くない。73点」


次に拳聖はロクトを見た。


「ロクトは、肉体を頑健とし新たな奥義を産み出した。それだけでも評価に値する。お前の“零”は我が流派の新しい技の一つとしよう。ただ、ヨートに敗北したにもかかわらず生き恥をさらしているため、そこは減点する。81点」


 最後に拳聖はヨートのほうを向いた。


「全ての技の習熟、またクート、ロクトを倒した実力はまさに本物。さらに外気功と内気功の調和である気の流れを自ら生み出した。これは絶技に値する。故に、ヨートを我が拳聖新陰流正伝承者として認め、我と戦う権利を与える」


 ズン、と拳聖は気を解放した。

 目の前の中年男性の雰囲気が変わる。

 今までは、峻厳な高山を思わせるも、春の陽気を感じさせるものだった。

 しかし、今は吹雪。

 激しく吹く風は触れるもの全てを凍らせる氷の狼。

 

 その気を前にヨートは構えた。

 

「師を倒す、私はその覚悟で今まで生き抜いてきた。しかし、真に仕えるべき方を見出した今、死ぬわけにはいかない。私は拳聖を倒す。魔王の拳として」


 ヨートの覚悟を見たせいか。

 拳聖は吹雪のような気を収めた。


「我と戦う資格はヨートにはある。だが、その満身創痍では我には勝てぬ。時間をやろう。その身を癒し、我が前に立つまでの時間を」


 そう言うと、拳聖は床を殴った。

 床材がまるで砂糖菓子を割るかのように砕け、そこに空いた穴から拳聖は飛び降りた。


 誰も追えぬまま、戦闘は終結したのだった。

次回!乗り込んだ亀裂の使徒は一人を残して死んだ。残った最後の一人“失敗者”は何を企むのか?


明日更新予定です。

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