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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル116 鬼さんこちら

“亀裂”の二つ名で知られる傭兵のゼールと、“鬼”のガランドが向かい合ったのは、大きな広間だった。

おそらく、ここで舞踏会でも開かれるのだろう。

だが、傭兵にしても、鬼にしてもダンスにはまったく縁がなかった。


「よお、鬼。お前は俺を楽しませてくれるのか?」


「さて、楽しいか、楽しくないかはお主次第だ」


ガランドは鉄棒を大きく振りかぶって、ゼールに向かって駆け出した。

筋肉が盛り上がり、唸るように鉄棒が振り下ろされる。

ゼールはそれを余裕を持って避ける。


「これだけかい?」


「鉄塊爆破!」


床をへこませた鉄棒に魔力が込められ、爆発する。

床の素材である石材やら木材やらなんやらが飛び散る。

避けたはずのゼールも、その破片が当たる。


「うお、痛たた。そんな武器を持ってたのかよ」


「まだまだ」


ガランドはその有り余る力で、鉄棒をゼールに向けて振る。

ゼールはさらに回避。


「当たったら痛そうだな」


「実は何かに当てなくとも“鉄塊爆破”はできる」


鉄棒の魔力が爆発、その威力はゼールを直撃した。


「レイジパライソ!」


赤熱した湾曲刀が、その爆発を切り裂いた。


「爆発も切れるのか、厄介な」


「なあ、あんたその程度か?」


ゼールはつまらなそうに、湾曲刀レイジパライソを素振りした。


「この程度、とは?」


「デカい武器を振り回して、避けられたら武器に込められた爆破を使う。それだけかってことさ」


「それだけだったら?」


「ただの色ちがいのオーガ程度の扱いしかできないってことよ」


ゼールは目にも止まらぬ速さでガランドに接近する。

鉄棒の間合いの内側だ。


「ぬうッ!?」


「オーガの簡単退治方法その1 鉄棒の振りの遅さを利用して近付く」


小馬鹿にしたようにゼールは笑う。


「貴様!?」


「その2 鈍重な感覚を利用して後ろに回り膝裏を切る」


ガランドの膝裏がレイジパライソに焼き切られる。

足に力が入らなくなり、ガランドは倒れる。


「その3 倒れたところを止めをさす。はい、楽勝」


これが冒険者必須の知識の一つであるオーガ退治方法だ。

オーガの馬鹿力を恐れず、冷静に対処することで危険なオーガを簡単に狩ることができる。

オーガの変異種である“鬼”にも有効……?


「鬼は、オーガではない」


ガランドの体が跳ねた。

その巨体にしては、あまりにも軽妙な動きにゼールはついていけなかった。


「なっ!?」


ガランドは軽く着地する。


「オーガ、グレーターオーガ、オーガロード、グレーターオーガロード、オーガキング、オーガエンペラー、エルダーオーガ、鬼。ただのオーガが鬼になるにはこれほどの進化を重ねねばならない」


「それは知らなかったな。で、それがなんだっていうんだ?」


「一回の進化で、人間でいうレベル10ほどのステータスアップがある。オーガの初期ステータスは人間でいうレベル25ほど。言っている意味はわかるか?」


進化した数、初期レベル、そこから推測したガランドの推定レベルにゼールの顔は青ざめた。


「推定レベル……95……?」


「無論、研鑽は積んでおるゆえ、それ以上にはなろう」


「じゃあ、さっきのは……」


「楽しんでいただけたかな?」


「俺をからかったのか!?」


「“疾風迅雷”」


まるで風のように、雷のようにガランドはゼールは接近した。


「速ッ」


「鉄塊爆破」


ガランドは爆破を攻撃に使わず、攻撃の加速に使った。

避けようとしたゼールは軌道が変わった鉄棒に殴打される。


「ぐはぇッ!?」


バキバキとゼールの肋骨が折れる。

内臓にまで届いた衝撃が、ゼールの口から吐血になって現れる。


吹き飛ばされたゼールは壁に叩きつけられる。

ずるずると床にずり落ちる。


そのまま動かなくなる。


「その姿はお主の本体ではあるまい? “亀裂”のゼール」


床に伸びているゼールは上半身だけ起こした。


「いやあ、わかっちゃったかい?」


その顔は笑みを浮かべていたが、いつもの獰猛な笑顔ではない。


「名は?」


「名前はゼールさ。“亀裂”のゼール」


「ゼールは組織名ということか?」


「組織名……っていうほどのものじゃない。おちらの個人名はゲイロンさね」


「人間か?」


「種族的には人間のはずだがね。さて、そろそろ続きをしよう“レイジパライソ”」


ゼールの肉体がどろどろと溶けた。

その肉の海から小太りの男が現れる。

それだけじゃなく、次々に傭兵が現れる。

数十、あるいは三桁に達するほどの、まさに傭兵団と呼べるほどの人員が揃う。

レイジパライソ、それは憤怒の天国という意味だ。


「一人の肉の中に、これほど詰め込んでいたか」


「いやあ」


ゲイロンと名乗った小太りの男がゼールの声で答える。


「それほどでも」


傭兵の前列にいた背の低い男がゼールの声で続ける。


「あるかなあ」


後ろにいた傭兵の一人が続けた。


「傭兵団全てがゼールという男を形成しているか」


「その通り」


傭兵団全員が答えた。


「なれば、全員を叩きのめせばすむ話」


ガランドは“疾風迅雷”でゲイロンに近付く。

そして、鉄棒を“鉄塊爆破”で加速して振り下ろす。

小太りの男は肉の破片となった。

反撃する間もなく。


「ああ、ゲイロンが」


にやにやと笑いながら、傭兵たちはそんな風に嗤う。


「気味が悪いな」


「なんだよ。俺たちは全員でゼール。ゲイロンはまとめ役だがそれだけだ。また、新たなゲイロンの役目を誰かがすればいいだけ」


「“鉄塊爆破”」


ガランドは一気に傭兵たちを爆破した。

あたりに肉片や血がばらまかれる。


もう、ここで舞踏会はできないな、とガランドは思った。

ゼールの傭兵団は全員が肉に変わった。


その肉の塊や欠片がずるずると集まり、また肉の海を形作る。

そこから、さらに傭兵団が現れる。


「切りがないな」


限りなく現れ続ける傭兵団。

それこそがゼール達が傭兵として名を挙げた理由だ。

殺しても殺しても傭兵が現れ続ければ、その戦いで負けることはないだろう。


にやにやと嗤う傭兵が皮肉げに口をひろげた。


「楽しめたかい、鬼さんよ」


それはさっきのガランドのセリフだ。


「これが、“謀将”殿が言う組み合わせ、可能性を試す機会やもな」


「ああん? 何言ってんだ?」


「私にできること。この鬼の力でできることを」


ガランドは“疾風迅雷”からの“鉄塊爆破”。


「だから、何度やっても無駄だって……」


「“鬼”とは“隠”。影の存在、もしくは死者を意味するとも言う。なぜ、オーガから進化してそんなものになるのかはわからぬ。我はただ、その力を使うのみ。我が手にかけた全ての死者を、我が力となさん」


ガランドの鉄棒の爆発魔法が込められている部分が死者の力によって侵食されていく。


「鉄塊霊破」


振り下ろされた鉄棒から濃密な死が溢れた。

即死耐性無効の即死攻撃が、ゼールの傭兵達の命を奪っていく。

肉体の死ではなく、魂ごと殺しくていく。


「いやだ。俺が、俺たちが死んでいく」


ゼールたちは逃げ惑った。

死んでも死んでも死ななかった彼らは、自身が殺されることになって、恐怖した。

消滅する恐怖から逃げようとするが、ガランドの巻き起こした死は容赦なく命を奪う。



そこから物音がしなくなり、肉の海も無くなったのはそれからすぐのことだ。




ふと、気付くとガランドの前に髑髏の仮面をつけた青年が立っていた。

パチパチと手を叩いている。


「いやあ、見事な死だった。これほど容赦ない死は久しぶりだ」


「貴殿は?」


あの死が吹き荒れる空間にいたのだから、少なくとも人間ではあるまい。


「“死将”アルメジオン、もしくは死神」


その名は魔王軍に所属する者なら誰でも知っている。

先代の十二魔将の一人だ。

アルメジオンは口を開く。


「君に我が魔将位“死将”を継いでほしい」


「それは……」


「実を言うと拒否権はない」


「と、申されますと?」


「死の力を貯めて、一気に吐き出す。さっきの技は死神の権能に抵触していてね。ちょっと問題になりそうなんだ。けど死神アルメジオンが“死将”位を与えたとなると、部下もしくは後継者的な扱いになるため、問題にならなくなる」


「私をかばってくださると?」


「いや、君が仕えているラス君が大事なだけ」


「なるほど、そちらの方がわかりやすい。承知いたした。不肖このガランド、“死将”となりまする」


「オッケー、頼んだよ」


アルメジオンの声が、ものすごく軽い感じに聞こえるのはガランドの気のせいではなかった。



次回!女王二人と拳聖が戦闘開始! 二人のコンビネーションに拳聖が追い詰められる!?一部誇張があります?


明日更新予定です。

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