表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
112/142

レベル111 名も知らぬ敵

「炎帝朱雀“朱天翼翔”」


その声とともに、先行していたハーフセイレーンの従士のうち四百が燃え尽きた。

焼け焦げて、落ちていく敵を見ながらケルディは言った。


「精霊使いってのはみなこうなんですか? とんでもないですね」


「いや、妾が特別なのじゃ。魔力の多い魔族であること、レア精霊の朱雀、長い協力時間、そして精神レベルでの共感。それゆえに精霊の真の力を引き出すことができたのじゃ」


「魔将の方はみんな凄いですね」


フィナールが疲れきったように言った。

あっという間に二百のセイレーンを倒し、今また四百あまりを焼いたジェナンテラ。

その力の凄まじさに。


「キースが言っておった。広範囲攻撃を持っているから、とてつもない力を持っているから魔将と呼ばれるのではない、と」


「え? そうなんですか」


「さっき言ったようなのが条件なら、鬼のガランドなんかが魔将になっていてもよいじゃろ。でもガランドは魔将ではない」


「では何が条件なのでしょう?」


「キースは組み合わせによる可能性、と言っていたな」


「可能性?」


フィナールは不思議そうに首をかしげる。

強さ至上主義の魔王軍で、強さ以外で魔将位が決まることが不思議なのだろう。


「さあて、お二方。そろそろ敵が来ます。第二幕も張り切って参りましょう」


四百落ちたとしても、まだまだセイレーン族の戦士は多い。

こちらは相変わらず三人、しかもフィナールは戦力外。

にもかかわらず、戦意旺盛なジェナンテラとケルディである。


対して、怒り心頭のタンガタ・マヌである。

虎の子の精鋭である純セイレーンの戦士こそ無事だが、数年間を訓練に費やしたハーフセイレーンの従士たちの焼死は予想以上のショックをタンガタ・マヌに与えた。

従士たちにも火炎耐性をつけておけば良かったと思っても後の祭りである。


「全軍、広範囲火炎攻撃に注意しつつ、敵を殲滅せよ」


タンガタ・マヌはそう命令すると先頭を飛び始めた。

一体どれほどの相手なのか。

報告は三人と伝えてきたが伏兵や敵本隊を見なかったに違いない。


だが、タンガタ・マヌの目に映ったのは報告通りの三人の姿だった。

その瞬間、タンガタ・マヌが抱いていた恐れは怒りへと変貌した。

たった三人に、何百人焼かれたというのか。

怒り心頭のまま、タンガタ・マヌは突っ込んだ。



一体のセイレーンを先頭に残りの全てが突進してくる。

天を埋め尽くすような大群に、フィナールは恐怖する。


が。


「ケルディ殿は弓矢の方はどうなのだ?」


「まあ、人並みでしょう。もちろん、謀将殿とは比べる気にもなりませんな」


「なれば、あの大群を射落とすのは難しいか」


「無理でしょうな」


「では、もう一撃当てようかのう」


というように呑気な会話の二人である。

この二人は恐れを知らないのか?


「“朱天翼翔”」


再び、炎の翼持つ鳥が飛び上がり、セイレーン族を襲った。

だが、障壁なようなものがセイレーン族を守り、炎を通さない。


「障壁? いえ、あれはどうやら火炎耐性のようですな」


「妾がいることを知っておったか?」


「最初の二百人に、さっきの何百人、あわせて五百人も焼かれれば対策くらいしてくるでしょう」


「それもそうじゃな」


「いつまでも空に居られたら、私も殺せませんよ」


「こんなこともあろうかと、もう一つ大技を練習しておったのだ」


ジェナンテラは手を天に掲げ声を張り上げる。


「いざ来たれ火葬の鳥王ジャターユ!」


炎帝朱雀が真っ白に輝く。

それはベリティス城の訓練場を焼いた朱雀のマイナス位相の精霊である。

朱雀と同じように火炎属性だが、その技は炎を超えた光。


「おおお、これは眩しい」


「ジャターユよ、我が命に応えよ“ネクストブレイズ”」


ジャターユはもともと眩しいその体をさらに発光させる。

白く輝くジャターユはそのまままっすぐに敵の大群に突進した。


火炎耐性ごときでは防ぐことができない白い発光は、先頭のタンガタ・マヌをはじめセイレーン族を焼き払った。


光に目をやられ、超高熱に身をとかされ、セイレーン族は純血もハーフも関係なく死んでいった。


ただ一人、タンガタ・マヌだけは生き残った。

“天装”という神に与えられた鎧の力だ。


「バカな、バカな、我がセイレーン族がすべて……」


ギロリとタンガタ・マヌは猛禽のような目で全てを焼き尽くした相手を見据えた。

そして、その相手への憎悪をたぎらせる。

恐れ、怒り、そして憎しみへと変わっていく感情は、その相手を蹂躙しつくすことでしか晴らせそうにない。


「天剣絶刀“インフィニトディーオ”」


魂の力、激しい感情がタンガタ・マヌの偃月刀の姿を変えていく。

刀身は黒く禍々しく巨大化し、赤い線が血管のように張り巡らされ、脈動する。

先に派遣された二百人。

一撃目で焼き殺された四百人。

そして、白い光で焼失した八百人の計千四百人にも及ぶセイレーン族の無念がタンガタ・マヌに宿る。


「うおおおおおおおッ!!」


絶叫、あるいは咆哮。

無限の憎悪を偃月刀“インフィニトディーオ”に込めて、タンガタ・マヌは弾丸のように突進した。

天空から一直線に、不敵な顔をしている真紅の鎧の女へ。


もちろん、ジェナンテラからも脈動する黒い長柄を持ったセイレーンの戦士が見えていた。

全てを焼き尽くす“ネクストブレイズ”を耐えきった鎧は、魔王様やキースが言っていた神の力の“天装”だろう。


「どのくらいいるんじゃろうな、“亀裂”の信徒とやらは」


ハマリウムにマサラ、拳聖オロチ。

トラアキアにケーリア。

グランデにヴァンドレア。

傭兵の“亀裂”のゼールもおそらく、その一味だろう。

そして、ローレライ島のセイレーン族。


じわじわと“亀裂”が拡がっていることをジェナンテラは実感する。

たまたま見つけて対処できたからよかったものの、空から襲ってくる千人というのは魔将がいなければ甚大な被害をもたらしたに違いない。


「キース。早く手を打たねばならぬぞ」


セイレーンの戦士タンガタ・マヌがその憎悪の武器を振る。


「ジェナンテラ殿!?」


ジェナンテラは避けもしなかった。


「バカめ、我が憎悪に切り裂かれろッ!」


タンガタ・マヌの歪んだ喜悦の表情は、途中で固まった。

憎悪の意志を乗せた偃月刀“インフィニトディーオ”は、ジェナンテラのまとう炎帝朱雀の鎧に触れるとドロリと溶けた。


「お前の憎悪とはこの程度か? それならば妾の覚悟の方が上じゃったということよな?」


「な? な? な? なにが?」


ガラン、とタンガタ・マヌは偃月刀“インフィニトディーオ”を、もう柄だけになった武器を落とした。

タンガタ・マヌの手から離れた天剣絶刀は、地につく前に元の偃月刀に戻る。


「なぜであろうな? 妾にその天剣絶刀とやらは効かぬようじゃ。神の力に慣れておるせいかな」


「あうあうう」


わなわなと震えるタンガタ・マヌにジェナンテラは冷たく言い放った。


「妾はたとえどんなことをしようと、好いた男が国を造るのを助ける。それが妾の覚悟じゃ」


剣の形に物質化した炎を、ジェナンテラは振った。

鎧ごと剣はタンガタ・マヌを両断した。


「さらばじゃ。名も知らぬセイレーンの戦士よ」


ジェナンテラに名を伝えることをできずにタンガタ・マヌは絶命した。

次回!相次ぐ亀裂の騒動に、ついにキースが動く。魔王と帝国、人類がついに終戦協定を結ぶ!?


明日更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ