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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル10 魔王様冒険者になる

朝起きると妙に気だるかった。

メルチはまだ経験がないが、大量に酒をのんで酩酊したあとの朝のような気分だ。

のろのろと起き、着替え、部屋を出ると隣の部屋にいた仲間たちとはちあった。


ということは当然、魔王もいるわけで。


メルチの顔は即座に真っ赤になった。


「どうした、メルチ? 顔が赤いぞ、熱でもあるんじゃないか?」


細かいところに気が付くキースが声をかける。


「あ、う、い、や、ね、熱はないんだけど」


「案ずるな、キース。メルチは昨夜、余のものとなったのだ」


「え?」


魔王とメルチの顔を見比べるキース。

魔王の発言から、キースが何を勘違いしているかにメルチは気が付いた。


「違う。そうじゃない! 魔王様とはまだ何もないから!」


「昨夜は情熱的だったな、メルチよ」


「え!?」


「違うったら!」


「ではなにか、メルチよ。余とそなたは他人だと?」


「そうじゃ、ないけど」


「ええ?」


「余とそなたは魂まで繋がったではないか?」


「!!?」


「言い方! 言い方を考えて!」


「余は寛大な心でメルチの夢をかなえてやろうとしたのだ。つまり、“私の将来の夢は立派な……”」


「それ以上はよして!?」


「メルチ……お付き合いには順序があるんだよ?」


「キースは何を勘違いしてるの!?」


「“お嫁さんになることです”」


「立派なお嫁さんになっちゃったよ!?」


ボケ二人にツッコミ一人。

その掛け合いはメルチが力尽きるまで続き、その間にヨートは食堂で朝飯を頼んでいた。


朝食を食べてもまだ不機嫌なメルチを先頭に一行は、冒険者ギルドへ向かっていた。

テルヴィンの背信とノーブルエッジの強奪事件の報告、魔王の冒険者登録が目的だ。

キディスの都の冒険者ギルドの建物は、飲み屋街と宿屋街の境あたりにある。

これは冒険者が宿泊先からすぐにギルドへ来やすくするためらしい。

ギルドのほうも、そのあたりを探せば冒険者が何人かは見つかるというのは、緊急の依頼が入った時などに役立つ。

まあ、いくつかの宿屋とギルドが提携を結んで、冒険者を宿泊するように斡旋したりしているのだが。


一見すると、宿泊した“朝焼け亭”と同じような造りの木造の建物。

そこに“冒険者ギルド”の看板がかかっている。

宿屋や飲み屋に埋没している。


中に入ると受付があり、ギルド職員が冒険者へ依頼の説明や、仕事の斡旋をしている。

その奥には、待合室を兼ねた飲み屋がある。

冒険者でいる限り、ツケが可能で依頼の報酬から代金を天引きできることもあって暇な冒険者にとっては人気の店でもある。

四人は空いている受付に向かう。


「ランアンドソードの三人ね?」


「はい」


ギルド職員のニレーネがメルチ、キース、ヨートの顔を順に見て言った。


「衛兵詰所から報告は受けています。テルヴィンは、あなたたちからマジックアイテムを強奪しようとした罪で、冒険者資格を剥奪されます。また、彼の実家から既に四年前に勘当している、との連絡がありました」


「ああ、そっか。テルヴィン、家から見捨てられたのね」


メルチの言うとおりだった。

犯罪者など、貴族の一員に連ねさせるわけにはいかない。

テルヴィンは家族から切り捨てられた。


「けど、ノーブルエッジへの追及は難しいわ。むしろ、不可能と言ってもいい」


「な、なんでですか!?」


あきらめたような顔でニレーネは、メルチに言う。


「彼らが貴族だからよ。貴族を糾弾するとなるとよっぽどの覚悟がいる。資金、戦力、血筋、領土、コネ……残念だけど冒険者ギルドはそんな危険を犯せない」


メルチは落胆した顔をしたが、キースはそんなものだろうと思っていた。

むしろ、テルヴィンが裁かれる側になることが意外だった。

冒険者ギルドは、冒険者の互助組織でしかない。

けれど、冒険者のためにここまでやってくれたというのは、本当に冒険者のことを思っているからだろう。


「わかりました。ありがとうございます」


言葉を失ったメルチの代わりに、キースが礼を言う。


「代わりと言ってはなんだけど、新しい子の冒険者登録は任せてちょうだい」


もう一つの用事である、魔王の冒険者登録は今のところスムーズに進んでいた。

あとは、職業を決定するだけだ。


ギルドの建物の奥にある職業所には、椅子とテーブルと、テーブルの上におかれた水晶玉だけがある。

魔王はその椅子に座らされ、ギルド職員の案内で水晶玉に手をかざしていた。


「では、水晶玉に向かって魔力を注いでください」


ニルネンという中年の職員は柔らかい口調でそう言った。


「うむ。このくらいか?」


魔王は魔力を放出した。

バチバチと雷光がほとばしり、薄暗い部屋を青白く照らした。

ニルネンは驚いたまま固まっている。


「お、多いです。もう少し抑えて」


慌てたニルネンの言葉に、魔王は頷く。


「では、このくらいか」


注がれた魔力は今度はちょうどよかったようだ。

青白い魔力は水晶玉に吸い込まれる。

そして、水晶玉が発光し天井に模様を描く。


「これは……?」


「どうした?」


呆然とするニルネンに魔王は声をかける。


「魔導戦士……初めて見た」


「魔導戦士とな?」


ニルネンはハッとした様子で魔王を見た。


「失礼しました。初めて見た職業でしたので驚いてしまいました。では、職業の説明をします」


「うむ」


「魔導戦士とは、肉体的に優れていることに加え、魔導スキルの才能を持つ者が就くといわれる職業です。物理的な攻撃手段と魔導スキルをバランスよく覚え、近中距離戦を得意とします」


「なかなか良いではないか」


「はい。歴史上、魔導戦士を習得した者は数えるほどです。あなたも歴史に名を残すかもしれませんね」


ニルネンは、目の前の子供が魔王だと知らない。

十分過ぎるほど、歴史に名を残していることを。


とにかく、魔王は魔導戦士の職業を得て、冒険者の身分を手に入れた。


ちなみに、この時点でメルチの職業が“クレリック”から“ドーンプリースト”に変わっていることを、メルチはまだ知らない。

“夜明けの神官”という黎明の魔王の使徒にふさわしい職業だが、メルチはまだ知らない。


とりあえず目的を果たした彼らの前に、規則正しい歩き方で鎧を着こんだ連中が立ちはだかった。


「ノーブルエッジ……」


相手のパーティー名を呟くキース。


「我々の名前を覚えていてくれて嬉しいよ」


鎧連中の間から、一人の若い男が歩み出る。

この国の貴族に多い金髪、整っているがどこか傲慢さをにじませる表情、鎧連中の中で一人だけ貴族の服を身に付けている。

腰にさした細剣だけが武装のようだ。


「誰だ、お前は?」


自信満々に登場した割りに、魔王に知らない発言をされ、彼はイラッとしたようだ。


「この国の冒険者で僕を知らない者がいるなんてね。後学のために覚えておくといい」


貴族っぽい男は、指をパチンとならす。

控えていた鎧の一人が大声で口上を述べた。


「この方こそ、我らノーブルエッジのリーダーにして、北方守護職ノースガントレー家の血を引く者! アザラシ・ノースガントレー様である!」


フッとアザラシはキザったらしく口角をあげた。


魔王はその顔と大声に辟易した。

そして、その名前に聞き覚えがあることに気付く。


「ああ、昨日聞いた名だ。確か、親の七光りのアザラシだったか?」


キザったらしいアザラシの顔に、青筋が走った。

次回!冒険者ギルドでアザラシが動く!そして、アリサの決断!


明日更新予定です。

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