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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル106 朱天の挑戦ー朱雀の星の座ー

 ベリティス城に突如、緊急警報が鳴り響いた。

 鐘楼の、キースが支払いをした真新しい鐘がガンガンと打ち鳴らされている。


 訓練場に発生した火葬の鳥王ジャターユは、フィンマークの拘束を焼き切り訓練場で暴れまわっている。

 ナイトハウンドのフィンマーク、そして魔王が発生直後に対処したため、外に被害は出ていない。


「弓使い系統は訓練場上層の足場で待機、神官系は合図とともに訓練場に入り障壁を展開、攻撃魔法スキルを使える魔法使いはその背後から魔法を斉射、物理攻撃専門のひとたちは今日は援護です」


 訓練場の外では、メルチが集まった人員に指示を下している。


「聞いたな! 混成魔軍団は援護が最優先だ。負傷者の救出を除いて、決して戦おうと思うなよ」


 部下に指示を下すガランド、指揮官としても成長しつつある。


「主戦力の混成魔軍団が援護にしか回れないのはキツすぎる。沈黙夜影団は奇襲強襲に振り切っているし、魔王騎軍は兵站任務が主だし、純粋な魔法戦仕様の軍団も作っとくべきだったわ」


 魔王が中に居る為、実質的な指揮官としてメルチは矢継ぎ早に指示を出していく。

 そういうのは得意になったし、極限状況下での判断能力には自信がある。

 なんとかできるはずだ。


 それにしても、とメルチは呟いた。


「こんな時にキースはどこにいったのかしら?」



 訓練場の中は良く言えばサウナ、悪く言えば地獄だった。

 あちこちに火が付き、ごうごうと燃え盛っている。


 その中を、フィンマーク、ノーン、魔王の三者がジャターユを鎮めるべく奮闘している。

 倒すことはできない。

 暴走した精霊に取り込まれているジェナンテラがどうなるかわからないからだ。

 それに。


「おそらく、ジェナンテラはジェナンテラで、精霊の中からコントロールを奪おうとしているはずだ」


 と魔王は断言する。

 ジャターユは一度、羽ばたく。

 その羽ばたきから炎が生まれ、熱風とともに吹き付けてくる。


 フィンマークは凪のハンベイスキル”ヴィントシュテレ”でその風と熱を沈静化させる。

 

「これが単なる動作なのが気に障りまする」


 というフィンマークの言葉通り、ジャターユにとって今のは単なる羽ばたきに過ぎない。

 それをスキルを使って抑えている以上、実力差は相当なものだ。


「ぬおおお、魔導スキル”マナナックル”」


 拳に魔力をみなぎらせ、ノーンが殴りかかる。

 羽ばたきを打ち消されたジャターユの隙をついた形だ。

 魔力で殴られているため、精霊の特性である物理攻撃無効は無視できる。

 殴られたジャターユは、ぐにゃりと歪む。

 かなり効いたようだ。

 ノーンだって、混成魔軍団が遠征中の留守居役を任命される程度には実力者なのだ。

 レベル換算してもおそらく84はいく。

 長命でレベル上げしやすい環境にある魔族。

 その中でも攻撃特化のジャガーノーン系統の魔族の末裔だけはある。


「おう、ようやったノーン。暁をもたらすものよ、余の魔力にて余の敵を切り裂け」


 魔王はジャターユへ接近し、手にした剣ドーンブリンガーを振った。

 白い炎の翼を剣は切り裂く。

 切られた翼はパッと燃え輝き消失する。

 しかし、すぐに翼は再生する。


「火の鳥系統のパッシブスキルを使えるのか? 今のは不死鳥の”再生”であった気がするのう」


 フィンマークが隙を造り、ノーンが殴る。

 魔王が強大な力でダメージを与えていく。

 その連携に苛立ったか、ジャターユはさらに輝く。


「む!?」


「ノーン、まずい。強スキル攻撃が来るぞ」


「四海の大渦よ”マールシュトローム”」


 今度は大渦を盾のように展開し、フィンマークはジャターユの攻撃に備える。


「来るぞ」


 ジャターユは声なき声で鳴いた。

 白い光の波濤が訓練場を押し流していく。


 じゅうじゅうとマールシュトロームの盾が蒸発していく。

 水属性の盾とはいえ、白く輝くほどの熱量には抗し切れない。


「く、我の大渦がみな消されてしまう。これほどに熱きものか」


 その盾が消える寸前、三者の前に強力な障壁が展開した。


「間に合いましたか、ラス様」


 障壁を張ったのはメルチだ。

 なんとかジャターユの攻撃を防ぎきった。


「すまぬのう。どうも中にジェナンテラがいると思うと」


「厄介ですね。ともかく、魔王軍を連れてきましたのでどうにかしましょう」


 上の方からは弓使いたちの矢が降り注ぎ、入り口からは魔法使いたちが水属性魔法を連射している。

 ジャターユの攻撃は、神官たちが障壁をはって防いでいる。


 人数が増えれば手数が増える。

 その手数で、ジャターユは大きく動くことができなくなりつつある。

 


 一方、ジャターユに取り込まれたジェナンテラの精神は不思議な声のような、歌のようなものを聞いていた。


「チチリ・タマホメ・ヌリコ・ホトオリ・チリコ・タスキ・ミツカケ」


「何を言っておるのだ?」


 ゆらゆらとジェナンテラは漂う。

 夕焼けのように暗く、朱い空間を。


「チチリ・タマホメ・ヌリコ・ホトオリ・チリコ・タスキ・ミツカケ」


「何者だ?」


 だが声は答えず、ただ七つの単語を繰り返すだけだ。


 その単語に意味があるのではないか、とジェナンテラが思ったのは、十回ほど繰り返されたあとだ。


 それが読まれるたびに、薄暗い天の南で星々がまたたくのだ。


 チチリは井戸のような形で結ばれた九つの星が。

 タマホメは机のような形の五つの星。

 ヌリコは折れ曲がった線のような八つの星。

 ホトオリは四角の一辺から線が延びたような七つの星。

 チリコは菱形の一辺から線が延びた五つの星。

 タスキは王のような形の二十二の星。

 ミツカケは口を開いた動物のように見える七つの星。


 またたく七つの星の座。


 知らず知らずの内にジェナンテラはその言葉を繰り返す。


「チチリ・タマホメ・ヌリコ・ホトホリ・チリコ・タスキ・ミツカケ」


 言葉を繰り返すたびに、対応するような文字が頭に浮かぶ。


「井・鬼・柳・星・張・翼・軫」


 いつの間にか。

 ジェナンテラの前に一人の老人が立っていた。


「わしの星宿を呼ぶものなど久しくおらなんだ。お嬢さん、わしに何の用かね?」


「あ、あなたは?」


「わしは朱陵光という者じゃ」


「しゅりょうこう?」


「あるものは炎帝と呼ぶし、南帝星君と呼ぶものもいる。こことは別の世界、別の時代では南華老仙などと呼ばれたのう。この世界ではもっぱら朱雀と呼ばれておる」


「朱雀!」


「無茶をしたね、お嬢さん。この世界にいるのはわしの分霊に過ぎないよ。空っぽなのじゃ、空っぽのものと同調しようにも空を掴むようなもの」


「ではどうすればよかったのでしょう」


「他者と同じように、多くの霊を操ればよいのでは?」


 笑顔の朱陵光に、ジェナンテラはそれは違うと即答した。


「真に精霊を理解しなくては精霊使いなど言えない。それにあなたは、朱雀はいつも私のそばにいてくれたから」


 最後まで共に羽ばたきたいの、という言葉に朱陵光は頷いた。


「お嬢さんは、真に精霊使いと呼ばれるものかもしれぬ。なればわしは本来の朱雀の力を与えよう。あの堕ちたジャターユを己の手で倒してあげなさい」


「はい!」


 と力強く、ジェナンテラが答えると朱陵光は、真の朱雀は満足そうに笑った。


 そして。



 どこからか飛来した陽光の力をまとった矢がジャターユの頭を撃った。

 ジャターユは苦しげにもがく。


 そして、ジャターユの中から声。


「行くよ、炎帝朱雀”朱天翼翔”」

 

 噴き出すのは真紅の烈火。

 まるで飛び立つように真紅の朱雀は天に登り、ジャターユは内側から食い破られて、震えながら消え去った。


 立っていたのは、鳥の意匠が施された真紅の鎧をまとったジェナンテラだった。

 彼女は恥ずかしそうにペコリと頭を下げて。


「ごめんなさい」


 と言った。

 

次回!ジャターユ事件は終息し、力を見せた者は新たなる魔将として名を馳せる。そして、次の事件は蠢きはじめる!


明日更新予定です。

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