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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル103 魔王と二代目謀将

 ハマリウムから魔王とメルチが帰ってきたのは、雪解け間近のころだった。

 ベリティス城から見える森も、白い色が薄れて見える。


 まず言われたのが。


「魔王国とはなんだ!?」


 という言葉だった。


「魔王様による、魔王様の、魔王様のための国家です」


「なんで、その成立を余が知らんのだ!?」


「それは、魔王様がいなかったからですよ」


「それは余のせいなのか?」


「現在の状況を説明しますか?」


「うむ、頼む」


 そういうと魔王は、会議室の上座にどかりと座った。


「魔王様はそうやって、ふんぞりかえっていたほうがらしいですよ」


「らしい、とはなんじゃ、らしいとは」


「魔王軍、改め魔王国は現在、キディス王国、グランデ王国、ベリティス公爵領を領有する国家です。元首は魔王様。統治機構は元の国家のものをそのまま利用しております。国軍として混成魔軍団、沈黙夜影団、魔王騎軍団の三軍団、そして各国の元の軍である三軍の計六軍約三万の兵数を保有しております」


「混成魔軍団と魔王騎軍団は承知している。だが、そのもう一つの軍はなんだ? 誰が率いている?」


「それを含めて、次の説明に参ります。現在十二人を目指している魔将ですが、それに相応しい実力を持つものは現在二名おります」


「お主とファリオスじゃろ?」


 キースは首を横に振った。


「ダークエルフの”闇将”ファリオス様は引退なされました。公式には戦死しております」


「なんだと!?」


 キースはヨートとファリオスの戦いと、その結果を説明する。

ミニファリオスが生きていることもあわせて報告する。

戦死と聞いて驚いていた魔王様だが、安心したようだ。


「というわけで、ファリオス様を倒したヨートが魔将候補となります」


「では、もう一人の魔将とは誰じゃ? 余の知っているものか?」


「アグリスです。正式にはアグリス・ヒュプノス。”影将”ヒュプノス様から力と名を受け継いだらしく、彼女も”影将”を名乗っております」


「ヒュプノス! 確かベリティスの葬儀に来ておったな。……そうか、奴も戦いから降りたか」


 そう言った魔王の横顔は寂しそうだった。

 それに気付かぬ振りをして、キースは話を続けた。


「というわけで、”謀将”である俺キースと”影将”アグリスが現在の魔将です。魔将候補としてはさっき言ったヨート、ジェナンテラ、ナイトハウンドのフィンマーク、鬼のガランド、グレーターゴブリンロードのイグニッシ、キディスのアリサ、グランデのベルデナットあたりですかね」


「なんで、アリサやベルデナットまで?」


不思議そうにたずねる。

魔王にとって二人の女王は、魔王の支持者だったはずだ。

決して、配下ではない、はずだが。


「魔王国の属国の太守は魔将でなければならないと決めました」


「そ、それで反乱は起きなかったのか!?」


「起きましたけど鎮圧しましたよ」


魔王は予想の斜め上どころか、はるか彼方のキースの報告を聞いて頭が痛くなった。

問題は、いまのところない。

国家として立ち上がること、その場所としてキディスとグランデを考えていたことは確かだからだ。


「まったく“謀将”らしいではないか」


「お褒めに預り光栄です」


「それで、この後の予定はどうなっておるんじゃ?」


「はい。冬の間に魔将候補たちをいじめぬいて、じゃなくて鍛え上げて魔将に相応しい実力を備えてもらいます」


「いじめぬいて、とか言ってなかったか?」


魔王の疑問の声に耳を貸さず、キースは話を続けた。


「雪が溶けたら、魔王様には帝都へ向かっていただきます」


「何をするのじゃ?」


「帝国を人類代表として、人類と魔族の終戦協定を結びます。ついでにベルスローンを割譲してもらいましょう」


「人類と終戦じゃと?」


「記録を色々調べたら、人類と魔族の戦争は記録上まだ続行中です。この際、終戦協定を結び帝国と手を結ぶのが得策かと」


「のう、キース。お主はどこへ着陸するつもりなのじゃ?」


急ぎすぎていないか、と魔王は口には出さなかったが思っていた。

出会ってから数年たつが、この男の底はまだ見えない。

それゆえに、危うく見える。


「仲間同士で殺しあいをしなくてすむ世界、ですかね」


「……ケーリアのことは聞いておる」


魔王がまだハマリウムにいたあたりに、キースはトラアキアでケーリアと交戦し殺害したという報告は受けている。

ケーリアが亀裂の一味だったということも聞いていた。

それでも、一時は仲間になった人物を殺すというのは、やはり人格や行動に変化をもたらすのか。


「それもありますけど。やっぱりこの世界はおかしいですよ。ずっと戦い続けて。俺が魔王様を尊敬して仕えているようにわかりあえることもできるはずなのに」


「ゆえに、世界に変革をもたらすか?」


「好きな人を幸せにすると、誓いましたから」


「そうか……」


魔王はしんみりとした。

キースが冷徹な論理ではなく、人間的な情愛で動いているとわかったからだ。


そして、もう一つの事実に気付く。

キースの相手は誰だったか。

その誓いあった相手とは?


「キース……もしや、おぬしジェナンテラと……?」


「婚儀はまだですが、彼女を俺の妻とします」


「余は報告を受けておらんぞ!?」


「今、言いましたよ」


「余は、お主の上司であり、ジェナンテラの友人じゃ! 事前に報告があってもよいではないか!」


魔王は怒っていることに気付いた。

これほど大きく揺れ動く感情を、己が持っていることに初めて気が付いたのだ。

新しい自分を発見してわくわくしていることはキースには内緒だ。

それに、今自分は怒っているのだし。


「それは、確かにご報告が遅れたのは申し訳ございません」


「だいたい、ジェナンテラとは年の差が有りすぎはしないか?」


魔王封印前から生きているジェナンテラは五百才をゆうに超えている。

キースはまだ二十歳前なので、二十五倍という年の差婚になる。


「精神的な成熟さはジェナの方が上なのはわかってます。肉体的には魔族は二十代で成長が固定化されるという特徴ゆえに、問題ありません」


「そ、それは確かにそうじゃが……」


「だいたい、それを言うなら魔王様とメルチもそうではないですか!?」


魔王とメルチの年の差も五百年以上なのは間違いない。


「む、ぐぐぐ。た、たまたま好きになったのがメルチだっただけだ!」


「それを言うなら、こちらも同じこと」


むむむ、と二人はにらみあった。


「やめましょう。……不毛です」


「……それもそうじゃな」


にらみ合いが終わるまで十分ほどあったのは内緒である。


「帝国と手を結ぶのにはもう一つ理由があります」


「亀裂の奴らじゃな?」


キースは首を縦にふった。


「魔王様が戦った拳聖オロチ、ハマリウムのマサラ、ケーリア、グランデのヴァンドレア。少なくとも、この四人は亀裂の側の人間でした」


「四人、が多いのか、少ないのか」


「微妙に地位や影響力が高い者ばかりですしね」


と、キースは言った。

そして話を続ける。


「ケーリアが言っていました。この鎧と武器は銀女神から与えられた神の力、と」


魔王様、心当たりはおありですか? というキースの問いに魔王は頷いた。


「基本的に、神々は己の属性を他の神と共有しないものだ。それは聖域もそうだし、権能もそうだ。そして、色もな」


「銀の女神……」


キースは、一人思い出した。

トラアキアで魔王を殺した女神。

彼女もまた銀色の、女神だった。


「お主の予想は正しい。双子の神、そのうちの時の停滞を司る女神ヤヌレス。あやつが亀裂側の神だ」


「ますます帝国との連携が重要ですね」


「人間がいくら集まっても神には届かぬぞ?」


「それはそうです。けれど単体では大したことのない者でも組み合わされば物凄い力を発揮するかもしれませんよ」


そういうの好きでしょ? とキースは聞いた。

魔王はにっこり笑って答えた。


「もちろん!大好物じゃ」

次回!魔将候補たちがしのぎをけずって、真なる魔将になるべく強くなり続けることを誓う!


次回明日更新予定です。

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