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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
102/142

レベル101 86archer

鮮血がトラアキアの街路に吹き出る。

鮮やかすぎる赤。

しかし、誰もこちらを見ることはない。


「彼らには見えないのよ」


と、ケーリアは言った。

カヒュー、と呼吸音だけがキースの答えだ。


「私の天剣絶刀、神に与えられし聖なる武器。いくらあなたが“謀将”でも刺されれば死ぬでしょ?」


「な、なんで……」


「意外としぶといのね。それともやっぱりしぶといのね、かしら。なんで刺した、の答えが聞きたいのかしら? その理由は単純明解、私がヴァンドレアの仲間だからよ」


「……ああ、そうか。お前も亀裂の側か」


「喋っ!?」


キースは槍を引き抜きつつ、距離を取る。


「痛ってえ、不意打ちとはいえ刺すか普通?」


「私の槍が効かなかった、というの?」


ケーリアは槍を構える。


「効いてたさ、それなりに」


血も出たしな、とキースは笑う。


「じゃあ、なんで!?」


「簡単さ。レベル差が有りすぎて、ダメージが低くなっただけ。それだけだ」


「レベル差!? あんたとあたしとそんなにレベル差があるとは思えないわ」


ケーリアは天装と天剣絶刀を手にしていても鍛練を欠かさなかった。

去年は30半ばだったレベルも、もう50が手に届く。

血のにじむような努力。

本物の強さを知ったが故に、才能だけでなく、与えられた力だけでもなく、努力で強くなった。

レベル50ともなれば、一流と呼ばれても不思議ではない。


 しかし。


「レベル86。俺の今のレベルだ」


そんなケーリアのプライドをズタズタにするかのような、キースの答えだった。


「え?」


「まったく嫌になるよな。こっちが必死でレベル上げしてるのにさ。夢で戦ったからレベル上がりましたー、とかレベルによらない強さを身につけました、とかレベル? とりあえず相手を眠らせてから考えましょう、とかさ」


キースの仲間たちによる強くなった方法であるが、地道にレベル上げをしてきたキースにはなかなか堪えるものがある。


「な、なんでたった一年やそこらで80台になれるのよ!?」


偽らざる本音だった。

ケーリアの血のにじむような努力でも10くらいしか上がらないのだ。

なんで、そこまで?


「敵を倒す、それも自分より高レベルの敵を。それがレベル上げだと俺は思っていた」


「……そうよ。それがレベル上げよ」


敵が強ければ強いほど、獲得経験値は高まる。

強い敵を倒して、強くなる。

もっと強い敵を、もしくは同格で多数と戦い勝つこと。

そうでなくては、経験値は手に入らない。


「だけど、ある時俺は発見してしまったんだ」


それは一昨年の秋頃、ベリティスによって城付近の森に送り込まれ、そこで生活していたあたりの話だ。

一時期、レベルが三つほど連続で上がったことがあった。

森の獣のレベルなんて大したことないから、敵を倒した扱いにしたってそんなに経験値がもらえるはずがなかった。

だが、実際にレベルは上がっている。

そこで、キースの分析魂に火がついた。


自身のステータスを確認する天凛の窓を常時展開して、ステータスと獲得経験値を確認してみることにした。

何を行った時に経験値が溜まるのか。

そもそも、経験値とは何か。

レベルとは?


まあ、そんなに難しいことはあまり考えずに森の中を歩き回る。


「そこで、俺は三つつのことを発見した。一つはどんな行動でも微量に経験値が獲得できること、二つ目はその経験値の量が職によって増えたり減ったりすること」


それがどういうことかというと、歩いているだけでも極々微量に経験値が溜まっている。

森の中で狩りをしたり、果物を採取するだけでも経験値になる。

料理や建築、読書だけでも経験値が溜まっていることも確認した。


その上で、どうして戦闘による経験値は多くて、その他は低いのかを分析する。


「それでわかったのが職によるブーストだった」


この世界のほとんどの職は戦闘職だ。

そして、戦闘職は隠し要素として戦闘経験値十倍というものを持っている。

だから、戦いの結果得る経験値は多いのだ。

 むしろ、戦闘の獲得経験値が基準になってしまった。

 そのために、普通の行動の経験値は誤差、あるいは無視されるものとして扱われているのが現状だ。


「そこに三つ目の要素、行動ボーナスが加わる」


 全ての行動、スキルの行使の際に経験値のボーナス量が決まっている。


「検証したのは、戦闘に関するスキルなんだけど、例えば一撃で相手を倒すようなスキルは獲得経験値にブレーキがかかる。逆に弱くても難易度の高いスキルなどは経験値にブーストがかかる。そしてスキルを組み合わせることにより、行動ボーナスは増えていく。たぶん、スキルごとに定められた値があって、それを掛けているんだと思うんだけど」


 検証、分析の結果。

 遠当て、精密弓、集中の組み合わせボーナスと隠密による奇襲ボーナス、連続で倒した事による撃破ボーナス、森林踏破の行動ボーナスが一気に加算されて、大量レベルアップにつながったというわけだ。


「なんなのよ、それ」


「その反応は正しい。なんでそんなことで経験値獲得量が増えることを誰も知らないのか」


人間がみんなキースのように暇じゃないから、という答えをケーリアは飲み込んだ。

キースは楽しそうに話を続ける。


「人間に強くなってほしくない、と思う者がいるということだ。極端な話、人間に滅びてほしいとすら思ってるんじゃないかな」


ゾクリ、とケーリアの背に震えがはしる。

どこまで見透かされているのか。

滅びを司る亀裂の大神のことを。


いや、こいつが魔王の配下であるなら知っていて当然。

その上でこちらにカマをかけているのだ。


「胸を刺されて解説することがそれ?」


「……それもそうだな」


「もういいわ、レベル差なんて関係ないんだから! “天装”!」


ケーリアは魔力を放出、埋め込まれた神の力が鎧となって身にまとわれる。

紫に白いラインが入った流麗な全身鎧、そして天剣絶刀ネガシオンを持った姿は美しい堕天使を想起させる。

この世界にそんなものがいるかはともかく。


「レベル的には二倍から三倍か。魔王様くらいじゃないと対抗は難しいな」


眠らせるアグリスは例外だが、この状態の相手を倒せるくらいじゃないと魔将なんて名乗っていられない。


「私の贄になりなさいッ」


ケーリアは突進してくる。

キースは弓を構えた。


その弓を見たケーリアの動きがわずかに乱れる。


「神の残したもの、いわゆる神器。実は俺も一つ持ってる」


「それは!?」


「魔王様から賜った、太陽すら叩き落とすと言われる神弓“サンフォールン”だ」


銀色の金属にも見える物質に、スキルを強化すると言われる古代文字を刻み、様々な魔法の効果を高めるとされる宝石をいくつも取り付けた弓。

五百年前にあったとされる風の国エレクザイアの国宝とされ、その国の王女がこの弓を使いこなし“神弓士”の職を得て英雄と呼ばれた。

“神弓士”が魔王城へ攻めこんだ際に彼女とともに失われたと言われている。


だが、実際は回収されず魔王城で朽ちていたが、魔王が目覚めた時に持ち出され、キースに下賜されていた。


その弓から放たれた矢は自動的に陽光の属性が加わるといわれ、威力、射程、速度が上昇し、さらにアンデッド特効の効果もあるらしい。


突進してきたケーリアをキースは迎え撃つ。

重武装接近戦闘を挑むケーリアに、キースは遠距離武器で立ち向かう。

次回!神器を駆使するキースと神の力で突き進むケーリア、決着!


明日更新予定です。

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