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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル100 トラアキアにて

「スローンベイを買収する」


 というキースの発言にその場にいた全員が呆れた。

 フィナール、イグニッシ、ケルディの幕僚三人衆とジェナンテラである。


「何を考えておるのじゃ?」


 ジェナンテラのキツめの視線にさらされながらも、キースはよどみなく答える。


「今の魔王国内の流通がものすごい事になっているのは知っているだろ?」


 それには全員が頷く。

 食べ物にしろ、嗜好品にしろ、以前よりたやすく手に入るようになっている。

 しかも、安い。

 品物をどこに持っていっても売れるから商人はあちこちを歩き回り、高く売る商人は自然に淘汰されていく。

 

「それはそうですが」


「これをもっと拡大するには?」


「売る範囲を拡げるっちゅうことですかい?」


 意外に返答が早いイグニッシに、ケルディあたりは鋭い目を向ける。

単なる仲間ではなく競争相手だということに気付いたように。


「そう。そして今、俺達で動かせる領地が一つ、この流通の外にいる」


「ベリティス公爵領! そうじゃな?」


 ジェナンテラの声にキースは頷いた。


「陸路でベリティス領まで物を運ぶには限界がある。だったら何を使うか? 海路だ」


 キースは地図を広げた。

 グランデのすぐ北にある帝国の玄関口スローンベイ。

 そこから船が出発すれば西にあるトラアキア、後は陸路で北上すればベリティス領だ。


「トラアキアも巻き込めますか?」


 フィナールが疑問を呈す。

 なんだかんだ言っても、トラアキアは帝国の一藩王国だ。

 帝国の利にならないようなことに加担するだろうか。


「トラアキアは、いやトネリコ藩王は必ず乗る」


「その根拠は?」


 断言するキースにフィナールが尋ねた。


「彼が商人だからだ。東からやってくる大きな商機の波に乗らないようなら商人でいる資格はない」


「帝国と直接交渉ですか。楽しくなってきましたね」


 全然、楽しくなさそうにケルディが言った。


 

 グランデに駐屯していた魔王軍は現在の本拠地であるベリティスに帰還を始めたのは、冬の最中新しい年が始まるあたりだった。

 キディスの暫定的な太守としてアザラシ・ノースガントレーが任命された。

 実父であるボルゾンはグランデと併合したことで北方守護職の任務が形骸化したため、王都に入りアザラシの補佐を行う。

 政治的な対立相手であるイーストブーツ家が魔王軍についているため、国内統治には支障はない。

 

 グランデの方は、名前が良く知られていない伯爵が太守となる。

 それにひげ男ことスターホークが補佐というか、お目付け役としてつけられる。

 

 どちらの国も、女王が魔将となるまでのつなぎである。

 両太守もそれは承知している。


 後顧の憂いを無くし、魔王軍は帰還の途についた。

 軍の構成内容も来た時と様変わりしている。

 ダークエルフの”闇将”ファリオスが指揮していた混成魔軍団は、指揮官の戦死により鬼のカダ・ムアンのガランドが指揮官となった。

 ガランドは最も魔将に近い候補だが、まだその位を得るには至っていない。

 その軍団に所属する白兵戦闘部隊”陽拳”を率いるのが、ファリオスを倒した男ヨートである。

 副軍団長として魔将候補のアリサとフィンマークが任命された。

 

 そして、この遠征中に結成されたのが沈黙夜影軍だ。

 軍団長に”影将”アグリス。

 副軍団長にベルデナット。

 キディス、グランデの志願兵が中心となっている。

 女性比率が高いのが特徴だ。


 キースの幕僚も一名増えている。


 それぞれが用意した軍船に乗り込み、トラアキアを目指す。

 ベリティス領への中継地であり、キースのぶっ飛び秘策のキーポイントだ。


 

 トラアキアのトネリコ藩王は、一見人の良い中年男性にしか見えない。 

 だが商人としての彼を知るものを、そのイメージを否定することを余儀なくされる。

 好人物なのはそのままなのに、飢えた狼か、ハゲタカと会話をしている気分になるのだ。


「それで、君の事はどうとらえればいいのかな? ベリティス公爵なのか、それとも魔王軍の”謀将”キースか」


 アポなしで行ったにも関わらず、会ってくれたのは良いのだが開口一番これである。

 もっと仲良くいきたいものだ。


「どちらでも構いませんよ。俺は帝国の臣であり、魔王の配下ですから」


「いつまでもそれが通ると?」


「思ってませんよ。こんな無理」


「では、どちらになるつもりです?」


「俺がキディスのチンピラからここまでになったのは、魔王様のおかげです。それが、答えです」


「なるほど……では、私と君は敵同士というわけだ。これでも忠実な帝国の臣ですから」


 キースは懐から一枚の紙を取り出した。

 さっきからのトネリコ藩王の態度が硬い理由はわかっている。

 帝国の臣だから魔王軍とは交渉しない、というのは建前だ。

 

 魔王軍との取引はデメリットが多すぎる、それが理由だろう。

 

 つい何年か前まで対魔族の最前線であり、藩王自身が魔族に囚われた経験を持つこの国で魔族と取引なぞしたら、大きな反発が起きる事間違いなし。

 その上、帝国から目を付けられ、権益を没収されることにでもなれば目も当てられない。

 ハマリウムという例もある。

 トネリコにとって、商売はしたいがこの国が無くなっては本末転倒なのだ。


 だから、そのデメリットを取り払う何かがあれば良いのだ。


「これを」


「これは……!……帝国と魔王国の終戦協定の草案!?」


「雪が解け、春になったら我々はベルスローン帝国皇帝と面会し、魔族と人間の長い敵対状態に終止符を打ちたいと思います。その時に実際に魔族に侵攻され、そして復興したトラアキアの助けがあれば非常に助かります」


「……上手くいく当ては、あるのですか?」


 トネリコの口調が変わった。

 好人物の仮面、そしてその中に秘められた為政者としての顔の下にあったのは、やはり商人だ。


「現在の魔王軍の活躍、版図を考えてもらえば五分五分でしょうかね。それに、おそらく帝国の財政はやや悪い、これ以上戦争は起こせない」


「君も、そう思いますか」


 トネリコも、ベルスローンが魔族と戦争するだけの資金が無いと見ている。


「数年置きとはいえ、二度も大軍を徴発して減らないわけがないでしょう」


 ハマリウム討伐には船団を組織、そしてトラアキアの魔族侵攻には船と陸戦兵力を動員した。

 ハマリウムの貿易による収益をあてにしているようだが、それが収入として入ってくるまではまだ時間がかかるだろう。

 帝国には金が無い。


「ベルゼール陛下は歴史に名を残したいようですな」


「ピッタリな舞台になるかと」


「その成功に手を貸せば」


「その人物は大いに賞賛されましょうな」


「初めて会ったときは純朴な青年だと思ったんですがねえ」


「人は変わりますよ、良くも悪くも」


 藩王の仮面をつけた商人と、公爵を名乗る謀将は固く手を握った。

 どちらも顔には笑みを浮かべている。

 共犯者の笑みである。



冬でも、このトラアキアは海沿いにあるためか、雪が少ない。

大瑠璃海はもともと穏やかな海である。

それほど、大荒れするということはない。

寒いことは寒いが、よく晴れているため気分はいい。


そんな帰り道、キースはケーリアに会った。


「……久しぶりね」


 彼の口調にもずいぶん慣れてきた。

元ネルザ砦の主将として、対魔族の最前線に立っていた武将だ。

そして、今はトラアキアの軍のトップにいる。

キースもあれから何度か、話している。


「そうだな。ところで何の用だ?」


「うーん、これを出せばわかるかしら、天剣絶刀ネガシオン」


 ケーリアはどこからか、紫の穂先の槍を取り出し、自然な動きでキースの胸を貫いた。



やめて! ケーリアの天剣絶刀ネガシオンで貫かれたら、いくらキースでも燃え尽きちゃう!

お願い死なないでキース、あんたが死んだらジェナンテラはどうなっちゃうの?HPはまだ残ってる!この一撃を耐えきれれば、ケーリアに勝てるんだから!


次回!キース死す!


注・死にません。


明日更新予定です。

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