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レベル1の魔王様は遠慮しない!  作者: サトウロン
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レベル0 魔王城の決戦

新作です。

レベル1になってしまった魔王様の活躍をお楽しみください。

といいつつ、この話ではまだレベル1ではないですけど。

ついに、邪悪なる魔王と人類最後の叡智の守り手たる大賢者アーセムとの戦いは決着の時を迎えようとしていた。



魔王軍の数万の魔物を、人類連合軍が十万の大軍をもって魔王国の最奥、キディス大平原で激突した。

数の上では人類連合軍が、個々の質は魔王軍がそれぞれ勝っていた。

戦力の高さでいえば、魔王軍の方が上ということになる。

それはつまり、いくら精鋭といえども人類連合軍は足止めでしかない、ということだ。


連合軍を囮に決死の覚悟で魔王城に乗り込んだ別動隊は、魔王護衛隊という強敵との熾烈な戦いを経て、たった四人にまで数を減らしていた。

魔王との戦いに残った“聖騎士”、“神弓士”、“守護騎士”、の三人はそれぞれの命をかけて、魔王に痛手を負わせ、そして散っていった。

最後に残った大賢者とて、その命は風前の灯火だ。


「ふ、はははははは。よくぞ、よくぞここまで余を追い詰めた。それは誉めてつかわす」


この世界の八割を支配した魔王軍、そしてその首魁である魔王。

その命を直接狙えるところまで、人間が来たことに魔王は本当に驚きとわずかに敬意を抱いた。


「魔導スキル“マナカノン”!」


大賢者の放った魔力攻撃系単体最強魔法は、しかし魔王の腕の一降りで霧消する。

大賢者の顔には大粒の汗が浮かんでいる。

それが滝のように流れていく。

今のが精一杯のスキルだったようだ。


「わかっているとは思うが、余に魔導スキルは効かぬ。つまり、汝に余を討つ手はない、ということだ」


魔族特効を持つ聖剣ヘリアンティスを振るう“聖騎士”がいたら。

あるいは、神聖属性を持つ“神弓士”が伝説の弓サンフォールンを構えていたら。

魔王にダメージを与えることは不可能ではない。


だが、両者は既に命を落とし、動ける大賢者の魔導スキルは魔王には効かない。


そこで、大賢者はニヤリと笑った。

素早い動きで胸元から、投げナイフを取り出し放つ。

魔王は一目見ただけで、それが何の変哲もない鋼のナイフであることを見切る。

避けるまでもなく、魔王の防御力をもってすればこの程度の攻撃は当たる前にナイフごと消え去るだろう。


けれども、魔王は嫌な予感を覚えた。

そんな時はだいたい面倒なことが起こる時だ。


魔王は背にたたんだ黒い翼をはためかせ、ナイフを避ける。


ナイフは標的が回避したことも関係なく、後ろの壁に当たり。


大爆発した。


魔王がバランスをわずかに崩すほどの衝撃と、焼けつくような熱が背後で渦巻く。


「避けるかよ」


「これが貴様の奥の手か。なかなかに面白い小道具だが、それで余を倒せると……」


「……倒せるとは思ってないぜ? たかだか精霊スキル“ブレイズ”と隠蔽用の魔導スキル“シャドウヘイズ”をエンチャントしたナイフごときでな」


大爆発を起こした魔法、そしてそれを見抜かれないように隠蔽までしたナイフの一撃。

もし当たっていたら、腕一本は無くしていたかもしれない。

だが、腕の一つで敵の切り札を潰せるのなら悪くない。

魔王はそう考えた。


「……終わりだ」


せめてもの情けで魔王直々に殺してやろうと、魔王は大賢者の前へ飛び込んだ。


「なんのために小道具を使って時間を稼いだと思う?……俺の切り札は、ここからだ!神聖スキル“ストロングホールド”」


放たれたスキルは、攻撃用、ではなかった。

大賢者の放つスキルの白い輝きに、魔王は自身の体の鈍りを感じた。

手足がまるで鉛のように重く、身動きがとれない。


「貴様!なにを!?」


神聖スキルにはこのような妨害するようなものは無いはずだった。

かといって、魔導スキルの妨害系は魔王には効かないはず。

未知の魔法に、はじめて魔王の中に焦りが生まれる。


「神聖スキル“ストロングホールド”。三十秒の間、対象を無敵にする。具体的に言うと物理を含む全属性無効化、だな。そして、副作用として効果時間内の動きを停止させる」


「馬鹿な、それは防御役用のスキルではないか。それを、余の拘束に使うなど」


相手の注意を存分に惹いた防御役なら、三十秒もの間、敵を引き付けて、かつ無敵状態になれるこのスキルは切り札ともいえる。

それを拘束に使うことは、大賢者の非凡さの現れといえる。


しかし。


「そう、しかしだ。三十秒後にはあんたは戒めを解かれ、俺は死ぬ」


悲しげな笑みをなぜか大賢者は浮かべた。


「それがわかっていて、何をする気だ?」


「禁呪“百詩編”」


魔王ですらゾッとするほどの魔力を込めて、大賢者はそのスキルを詠唱しはじめる。


それは禁呪といわれるスキル体系。

自身の命を削り、放たれるスキルだ。

使用者も命を落としかねない危険なもの。


「だが、それでは余を討つことはできぬ」


魔力量が圧倒的に足りなかった。

この城へ攻めこんで来たときの大賢者なら、あるいは魔王を倒すほどの禁呪を放てたかもしれない。

たとえ、命を削り魔力の代わりに充填したとしても、だ。


「はは、わかってらあ。このスキルは禁じ手よ。まさか、聖騎士も、神弓士も、守護騎士も死ぬとは思わなんだ。もしものために用意だけしていたものさ」


顔色は真っ青で、立つのもやっとな大賢者は二十五秒時点でスキルの詠唱を完成させ放った。

それは分厚い本の形を顕現させ、魔王のもとに届く。


「これがなにを……?」


「百詩編、効果は対象の能力を百分の一に減衰させる」


「なに!?」


「そして、それは攻撃ではないため“ストロングホールド”に、妨害されない。そして、時間切れに合わせてあんたを封印する」


そして、ついに“百詩編”は効果を発揮した。


魔王は自身の魂が細切れにされるような感覚に陥る。


「おのれ、これで余に勝ったと思うなよ」


体力が、魔力が、筋力が、ありとあらゆる能力が百分の一に減衰させられていく。

あと、数秒の効果時間を持つ“ストロングホールド”のせいで防ぐことすらできない。

負け惜しみのような魔王の言葉に、大賢者は薄く笑いながら言葉を返す。


「面白いことを言う魔王さんだ。この戦、どうみても人類の負けさ。連合の精鋭十万を失い、各国の指導者たる英雄が総出で魔王を封印することしかできない。にも関わらず、魔王軍はまだほとんど健在なんだからな」


もはや立つことすらできずに座り込み、自嘲するような大賢者の言葉。

魔王は、なぜか可笑しくなった。


「余を封印した大殊勲者が何を言う。貴様には生きてこの戦いを語り継いでもらわねば困る」


「……なんだと?」


「いかに余が素晴らしき魔の王であったか。聖騎士、神弓士、守護騎士、そして大賢者が力と知恵を尽くして戦ったかをな」


「ははは。そうだな、その通りだ」


百詩編の効果は順調に発揮されているようだ。


魔王は全ての能力を細切れにされ、そして大賢者がいままさにかけようとしていた封印のスキルによって感覚を閉ざされていく。

もう少し、大賢者との会話を楽しんでいたかったが仕方ない。


負けたことは認め、いつか封印がとける日を待つよりないだろう。


あとは、魔王軍十二魔将に魔王領を任せて…………。


そこまで考えて、魔王の意識は深淵に沈んでいった。

次話から魔王様が活躍!

するのか?


明日更新予定

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