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ネカマの弟に親友が恋しました  作者: 奈倉小町
彼はモテ期を愚考する
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第4話 「具眼の白鴉」

鴉を知っているだろうか。

そう、あの鴉。今、僕の隣の電信柱の上に巣を作っている鴉。

あのずる賢くてむかつくあいつだ。

でも、そんなのを置いて、一番の特徴は黒いことだ。

黒い鳥=鴉なのだ。


***********


「ハローけんけん」

「はぁ、何?山崎」

「白い鴉って知ってる?」

「あれでしょ、なんか週刊誌の記事でしょ」

「そうそう」

「はぁ――――で?」

「いや、ね、その、どう思う?」

「『どう思う?』とは?」

「信じる?」

「鴉に白ペンキかぶせたらできるんじゃないの?」

「鴉喋ったらしいし、それと――――なんか出会った人みんな半泣きだったらしい」

「なんで?」

「出会った人みんな『生きてる』ってずっと泣き続けたり、かと思えば急に笑ったり、なんて言うんだっけ……序章不安定?」

「情緒不安定?」

「それ」

白い鴉に出会った人が狂っている。人は何で狂うか知らないが、白いペンキをかぶった鴉に目を奪われている間にその鴉の飼い主が人為的に人を狂わせた。

これが妥当ではないか。

「…………」

僕が黙って考えていると、山崎もそれから話題は振らなかった。

僕もそこだけの話題だと思って頭から出してその日を過ごした。


***********


放課後。部活を終えた僕は、帰り道を一人で歩いていた。横から照る橙の光に、右頬が熱くなってきた。

家に帰ってからのすることは……と考えていた。

「待ってください、其処の御方」

十字路を通りかかった僕を引き留める声があった。

声は山の息吹が伝わってきそうな清々しい声でありながら悲しい響きをも持つもので、立ち止まってしまった。助けようなんて意思、慈悲を与えようなんて言う気持ちでもなく、ただ不思議と抗えない、そんな力があった。

しかし、振り返ると誰もいなかった。人っ子一人。

「此処です。貴方の傍、此処ですよ」

辺りを見渡すが声はするのにやはりいない。

怖い。誰もいないのに声がする。この違和感に背筋がぞっとする。

「上ですよ、上」

上を見上げると電線があった。そこにいるのは鳥だけだった。

真っ白な羽をもち、黒猫の目を持った鴉だけだった。

「し…………白鴉」

「そうですね、皆様からみたら白い鴉ですものね」

白鴉は首を傾き、羽を嘴でつつく。

「僕に…………何の用ですか?」

「おっ、意外と慌てたりしないのですね」

「いや、驚いてはいるんだけど……」

白鴉はバッと飛び、僕の上を一周した後目の前に降りた。

「音楽は好きですか?」

「――――え?」

「音楽です。楽器などを使って奏でる」

「知ってます」

「好きですか?」

「あぁ、まぁ、その、なんか、えっと、どちらかというと好きです」

「私の曲聞いてみますか?」

「――――え?」

「『白鴉の狂像曲』」

直後、弦楽器が奏でる音楽が響く。僕だけに。

耳からではなく脳に直接響いている。

頭が狂いそうな音が鳴り響く。

奇妙に歪み、そして震え、そのまま大きくなっていく。

音はいかにもと思わせる不吉さで忌まわしい何かを予感させる。

人生の終わり、”死”を思わせる重低音。

歪み震える音と余韻が連鎖し旋律になる。

脳だけではなく、神経、内臓にまで入ってくる。

神経に突き刺さったかと思えば、胃の中を掻き回す。

今までの重低音とは変わって、今度は鼓膜を切り裂く高音。


しかし、

それであって美しい。


弦を響かせる振動が体の芯まで伝わる。


美しくありながら、歪み震える音。狂うには十分だ。


死を思わせる音は僕に走馬燈を見せる。

もう、死ぬのかとさえ思ってしまう。膝が、手が震える。

体が重い。聞きたくない程耳障りなのに美しくて聞いていたい。


ふと思い出した。


いつも会う女性を。


死を見せてくる女性を。


僕は前を見る。こちらを眺める視線と目を交わす。

じっと、ずっと。


「ダン」


だったと思う。そんな感じだった思い切り叩いたかのような音。それを最後に音は止んだ。


「如何でしたか?」

「…………」

「生きている実感でも感じましたか?」


白鴉は美しい声でそう僕に尋ねるのであった。

僕を試すかのように。

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