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ネカマの弟に親友が恋しました  作者: 奈倉小町
彼はモテ期を愚考する
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第3話 「嬢は嬢らしく」

七音寺軸で書いてみました。

「何回言ったらわかるの?」

平手打ちの音が聞こえる。何回殴られたか覚えていない。

「『うち』じゃなくて『私』でしょ。もう、私から産まれたとは思えない要領の無さだわ。巫山家の恥よ」

「はい、申し訳ありません――――お母様」

「もういいわ。結衣、寝なさい」

「――――はい」

毎日夜に行われる母と私のレッスン。

巫山家の子は、お嬢様として振舞わなければいけない。

ピアん、バレエ、英語、食事の作法、言葉遣い。私はすべてできなかった。

特に言葉遣い。関西弁が抜けきらずにいた私は、毎晩のように母に怒られていた。


私は、巫山家の娘。江戸の時代から将軍や華族らに起こった災いを収めたといわれる祖先、巫山結姫みやまのゆいひめ。一族の娘は巫女として、男は巫女の補佐として。

現代では、先代の巫山結奈が財閥を作り、財界のトップと言っても過言ではない地位にいた。

当然一族が財閥を継いでいき、今は私の母28代目社長、巫山結理。29代目は私だと言われている。

だから母は毎日夜な夜な作法を教え、毎晩私を怒る。

それでもよかった。私はみんなに期待されているんだ。だから、みんな私に厳しいんだ。ずっとそう思って努めてきた。どんなに怒られても、レッスンについていった。


――――あの言葉を聞くまでは――――。


いや、前からそうなるとは考えたこともあった。けれど、私は母の一人娘だ。ありえない。ずっと思ってた。

「いい、結衣。私のお腹には今赤ちゃんがいるの。あなた、姉になるのよ」

「――――そう……そうなんだ。…………良かったね」

「うふふ。いいお姉ちゃんになるのよ」

内心、とても焦っていた。その子が出来の良い女だったときは、私は巫山家として生きていけなくなる。

幼心でそれを感じていた。

どんなに怒られてもそれは、自分への愛の証だと思う。

だから、その愛を妹(弟かもしれないが)に渡したくない。

私は死に物狂いで練習した。学校の休み時間は、英語の本を読んだ。給食でも食事の作法を守った。音楽の時間では、進んで歌う曲の伴奏を行った。

その結果、母から褒められることはなかったが、怒られることはめっきり減った。

母に少しは認められた――――はずだ。


――――多少の代償のお陰で――――。


ピアノができ、英語ができ、食事を美しく食べる美しき女の子。そんな子がクラスに居たらどうなるだろう。男子はみなその子に目を奪われ、ほかの女の子は、そんな男子を奪う女の子に嫉妬する。

私、巫山結衣は学校でいじめを受けた。

しかも典型的な。集団無視、仲間外れ……。その分、男子とさらに話した。意地悪とかではない。ただ単に話す相手が男子だけだったのだ。

なのに――いや、だから、さらにいじめはエスカレートしていった。


急に襲われる後ろからの衝撃、かと思えば横から。ついに彼女らは「殴る」という所までいじめをエスカレートした。

その後それがずっと続き、家では母とのレッスン。

もう世の中が全て嫌になった。


そして、


壊れた。


心の大事な部分が音を立てて崩れた。

きれいに、自力では立ち上がれないように。

もう昔に戻れないように。

結局、いじめはエスカレートした一人が刃物を振り回したため、公になり終わった。


後日、その時の知り合いと話した時、その刃物で傷つけられた私は笑っていたそうだ。

現実から逃げられると。


壊れた私は、どんどんおかしくなっていった。情緒不安定になり、足もとはふらつき、道はいつも下を向いて歩いた。

生まれた子は、女だった。名前は……巫山縁結(えむ)という名前になった。

よく育ち、物わかりも良いと母は言った。それに比べ、私は壊れている。

結末はわかっていた。

父方の家、七音寺家に養子として迎えられた。

私は、精神病院に週1回は、通う形だったそうだ。

しかし、母のレッスンからの解放、転校による新たな友達により、徐々に回復していった。


そして、高校へ入学した。部活は、入学してからの友達に言われ、バスケットボール部のマネージャーとなることにした。内心、嫌々だったが、今はその友達に感謝している。


バスケ部の部活場所に入ったとき、練習試合の最中だった。

そこで目にした、今までのどの男子の比にならないほどの美顔、美しいステップを踏みながらしかし、確実に敵ゴールまで迫っていった影。

キャプテン山崎和也。

私は、彼に恋をした。彼と一緒にいたいと思った。

バスケ部に入った私は、昔に近い形まで心を修復した。

壊れた何かは自力ではなく、他力というか恋の力でもとに近い形に戻っていった。


そして、

優雅で美しい人間に返り咲いた――



――わけがない。

もうあんな過去の二の舞にはなりたくない。

だから、

優雅で美しく、近寄りがたい人間になった。

虚勢を張り続けた。





それが七音寺結衣だった。

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