コドクナヤカタ/タカヤナクドコ
教室の窓際最後列の席からの眺めは常に最高。
私、香木原アヲイは学校と言うものが大好きだ。
理由はシンプル。そこにはたくさんの人間が居るから。
人間と言うのは見ていて飽きない。良くも悪くも個性的であり、それぞれ感情があり、思考があり・・・とにかく人間と言う生き物は筆舌に尽くしがたい程多種多様であり、常に私の好奇心を満たしてくれる。
例えば今黒板の前でたむろしている女子三人はファッション誌を開いて雑談を楽しんでいる。その姿は他人からの視線やそれらへの迷惑を考えていない大胆不敵・・・悪く言えば非常識な態度だ。大声で笑い、喚き、随分と楽しそうだが席について勉強している生徒の事までは頭は回っていないだろう。
その席について勉強している男子は非常に迷惑そうに被害者的な表情を浮かべているが、実際彼は今日この後の授業の課題を忘れ、そして今正に友人にそれを借りて丸写しをしている最中。
その課題を貸して上げた友人は黒板の前でたむろしている女子に好意でも抱いているのか、先ほどから真剣な眼差しでそれを眺めていた。
何気ない日常でも何となく滑稽で、人間というのはとても面白い。いくつにも重なりあった偶然が奇跡のような演出を生み出し、舞台を輝かせる。
とは言え私はそれらとはかかわりのない人間だ。まず友人と呼べるものが存在しない事が理由にあげられる。そして自らそれらを拒んでいるという事も理由にあげられるだろう。
厳密には拒んでいるのではなく、友達を作りたくても作れないのだ。私は交友関係というものが酷く苦手だった。
今まで何度となく声をかけてもらう機会はあったものの、全て言葉を濁すか拒否してきた。そういう生き方が私の生き方らしい。
椅子の上に行儀よく腰掛けてそれらを眺める。飽きたら窓の外へと視線を移す。
先日二月を迎えたばかりの冬の空はまだ肌寒い。教室内が温かいのは暖房が効いているからか。それとも人が多いからなのか。
何はともあれそこにあるまだ当分花を咲かせることはないであろう桜の木を眺めながら私はそっと思考を切り替えた。
コドクナヤカタ/タカヤナクドコ
Side:BLUE
もっぱら私が人間観察以外に考えることといえば殺人の事だ。
自分でも随分と危険な趣味だと思うけれど、実際それ以外に考えることも無い。それに殺したい相手も一人しかいなかった。
私の実の父親。それが私がどうしても殺したい人間だった。
何故殺したいのかという理由はちょっと考え付かない。理由がありすぎてむしろどれが本当の動機なのか私にも分からないのだ。
ただとにかく何としても今年こそは殺す、殺すと考えて早十八年。先日誕生日を迎え、いよいよ高校三年生になっても殺す事は出来なかった。
このまま行けば大学生になってしまうだろう。そうしたらそれから先も今年こそは殺す、今日こそ殺すと言って日々がなあなあに過ぎてしまう・・・そんな予感がしていた。
どうすれば殺せるだろう?いつもそれを考える。いい方法があればすぐにでも試してみたいのに、考え付くのは下らない案ばかり。
あの男の首が跳ね飛ばされて地べたに臓物がはじけ飛ぶのを眺められたらどれだけ胸がすっとするだろう。ああ、想像しただけで楽しくなる。
なのに殺せない。何故なのだろうか。むしろこんなの理不尽だ。そろそろ死んでもいいだろう。そう思う。
授業が始まる。今日最後の授業。何はともあれ私は教科書を取り出した。ノートに描くのはあいつを殺すための手段だ。
いつもそんな事ばかり考えているから私の現代国語のノートは箇条書きの文章で埋め尽くされていた。『階段』とか『包丁』とか、そんな一見したらわけのわからない単語たち。しかしそれを見るだけで私は一連の殺害までの動作を連想し楽しくなる。そんな単語たちがノートにはぎっしりつまっていて、開くだけで私にとっては至福の時間を提供してくれた。
ただそうしてぼんやりしていると教師はやはり面白くないのだろう。自分でも申し訳がないくらい授業はそっちのけだ。だから教師はわざと私を指す。この問題を解けとか、さっきいったところを読め、とか。
だから私はそれをこなして席につく。そんなことは問題ではない。わかってもわからなくても別に関係ないが、私にはわかる。というか、『カン』だ。
何となく今日も言われたかなと思う部分を読み上げて席についた。教師である若い男は舌打ちを一つ残して私を解放した。
ノートに再びペンを走らせる。ああ、この場所だけが私の許された安楽の地。最後の最後、世界が終わっても残された約束の地だ。
そこでなら何度でもあの男を殺せた。何度でも何度でも。一番苦痛であるように。内蔵を引っ張り出し、四肢を切断し、顔面に釘を打ち。
ああ、何て楽しいんだろうか。背筋がゾクゾクする。快感の波が喉の奥で熱く渦巻いている。早く実践したいなあ。想像は想像でしかないわけだし。
一日はあっと言う間だ。楽しいからかもしれない。勉強も楽しいし、運動も、下らないやり取りも、イベントも大好きだ。楽しくて仕方がない。もっとも、このノートには適わないけれど。
ホームルームが終わって立ち上がる。鞄を背負って家に帰るだけ。ただそれだけのはずだったのに、今日は普段と違うイベントが起きてしまった。
「ねえ、いつもノートに何を書いてるの?」
声をかけられた。思わず反応できなくなる。しかもよりによってノートのこと。
振り返った。そこに立っていたのは私よりも頭一つ分は小さい少女だった。無論クラスメイト。真っ黒い長髪を左右で結んでいる。くりっとした目つきが愛らしい。あとは名前か。名前。ああ、わからない。困ったな。
そんな私の態度を読み取ったのか、おかしそうに笑って少女は自らの胸に手を当て、答えた。
「あたしは愛染レン。前の前の席だよ?」
「そう・・・・ですか?すみません・・・その・・・」
どんな人間かは見て知っているけれど、名前なんて知らないものだから困ったものだ。
レンという少女は私の机の上に唐突に腰掛けると優しい笑顔で言う。
「香木原さん、すごく成績優秀でしょ?授業中にやにやしてノート取ってるからどんな風に書いてるのか気になっちゃって。あたしほら、成績悪いんだあ、ばかなんだもん」
自分で言うほど彼女はバカでもない気はする。成績は実際悪いのだろうが、バカかどうかというのは大きな違いがある。
まあそんな事を急に語りだしたところで彼女にも理解出来ないだろうしせっかく声をかけてくれた少女の気を害する必要もない。ノートを取り出して少女に手渡した。
「見てもいいの?」
「構いません。と言っても、見たところで・・・」
あなたには分からないでしょうけどね。
それを見て少女がどんな感想を抱くのかはわからないが見たいというのなら見せる。私は別に悪い事をしているわけではないし、所詮他人が見たところで理解できるはずが、
「これ、殺人計画でしょ?」
思わず驚いて表情を崩しそうになった。無表情なのが自分のいいところだと思っているのに。
悪いことをしているわけではないと思っていたはずなのに、悪戯がばれた子供のように心臓が高鳴っている。いや、待て、どうして?
「何故・・・・分かったんですか?」
「さぁ、何でかなあ・・・・・でもこれ、人殺しのレシピだよね。うん。こことこことか繋がってるし。香木原さんってちょっと変わってるね」
「そう・・・・でしょうか?」
多分今私の顔は赤くなっていることだろう。恥ずかしくて紅潮するなんていつぶりだろう?少女はそれ以上私をせめるでも追求するでもなくノートを返すと立ち上がった。
短いスカートを翻しながら振り返り、愛らしい笑顔を浮かべて去っていく。
「それじゃまた明日ね!ノート見せてくれてありがとっ!」
「はい、それではまた」
胸がドキドキした。何だかとても幸せな気分だ。あの子は私の心の内に渦巻いている様々な悪意を理解してくれた。
それがたまらなくうれしかった。なんだか窓の外に飛び出して空へ飛んで行きたい気分。晴れやかな心境。涙すら流れそうだ。
なのにこれから家に帰らなければならないと思うと憂鬱で仕方がなかった。とにかく家には帰りたくなかった。
そう、学校が楽しいのはきっと・・・『家じゃないから』・・・という理由も含んでいるのだろう。
だから私は寄り道もしないで真っ直ぐ家に帰るくせに、その足取りは酷く重かった。私の中の様々な感情が足を引っ張り、学校へと連れ戻そうとする。
それは許されないことだ。だから私は大人しく歩き続けた。最も忌み嫌う場所へ帰るために。
そこは学校から二駅下ったところにあった。洋館が並ぶ古くからの高級住宅地の一角にそれはある。
他の洋館と比べても明らかに異常な大きさのそれが私の住む場所だった。真っ黒い外装はむしろ恐怖の館とか呪いの館を連想させる。
吸血鬼なんて気の効いたものは住んでいないけれど、一般人が立ち入ったら退屈しないことだけは間違いない。
巨大な門、薔薇の花の海、折り重なった無数のアーチを潜りぬけ、歩いて十分。ようやく玄関に辿り付いた。
「・・・・・・・・・入りたくない・・・」
心の底から願う事は口に出てしまうものなのかもしれない。溜息と一緒に零れたその言葉を私は心底肯定する。
それはきっと心のうちより吐き出された空白の一言だ。私という存在が全身全霊を持って語る無意識が『入りたくない』と言っているのだ。
だというのに待ち構えていたかのように・・・いや、実際待ち構えていたのだろう。扉は開き、そこから金髪の少女が顔を覗かせた。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「・・・・・・・・・た、ただいま」
玄関へ案内される。私にとってこの家の全てだ。広すぎる玄関。そこからあるのはまずエントランスだ。螺旋階段が昇る吹き抜け構造のエントランス。高級ホテルか何かをも思わせるシャンデリア。淡い光量の古びたランプ。並ぶ職台の羅列。何もかもがここが日本という国であることを忘れさせてくれる頭痛がするほど素敵なシチュエーション。
そして私を迎えてくれた少女は黒いエプロンドレス・・・平たく言うとメイド服を着込んでいた。勿論コスチュームプレイなどではなく、本物のメイドだ。
役職としてこの家に住み込みで働いているメイドである彼女。私は彼女の名前を知らない。知らないから『彼女』でいいし、『メイド』でいいだろう。
私が帰宅すると私が抱えていた鞄を預かり、会釈してから私のネクタイに手をかけた。
するすると解かれていく。それから彼女が取り出したもの。既に見慣れてしまっているわけだが、これが恐らく一般人が驚くであろう風習だ。それも恐らくは、我が家だけの。
「失礼致します、お嬢様」
私の反応とかYESなのかNOなのかとかは関係ない。彼女は取り出したそれを・・・・銀色に鈍く輝く『手錠』を、片方自らの腕に装着した。
がしゃんと音を立てて絞まる錠の音。そしてもう片方は私の肩手首に。もう諦めているので何も言わずそれを受け入れた。
それからメイドは私の両足を結びつけるように手錠を嵌める。間にある鎖が多少長いため歩くのには不自由はないが、走る事は絶対に出来ない。
それから私の首に首輪をつける。そこから伸びている鎖を持っているのも、勿論メイドだ。私は反論せず目を閉じてそれをつけさせる。
最後は目隠し。メイドは黒い帯を私の瞼の上にそっと巻いていく。幾重にも重ね、完全に光が差し込まなくなると私は思わず溜息をついた。
「毎日毎日、本当にご苦労様ね・・・」
「いえ、仕事ですから」
嫌味を言ったつもりだったのだが彼女はそんな事はまるで気にしない。あっさり受け流されてしまった。
「本当、嫌になるわ・・・」
歩き出す。メイドは私を導くようにゆっくりと、本当にゆっくりと歩いてくれる。
私が躓きそうになれば身体を支え、傍に常に居て私をサポートしてくれる。
私の部屋は・・・多分階段を上ったあたり・・・何階かは全くわからないけれど、とにかく階段を上った先にある。
実は自分の部屋と言うものを見たことがない。常に私は目隠しされているし、それを外すことは絶対に許されないからだ。
部屋の鍵を開ける音が聞こえた。中に導かれると既に暖炉に火が入っていたのか、温かい空気が迎えてくれた。
ベッドの上に導かれ、そこに腰掛ける。メイドは自らの手錠を外し、ベッドの足にその手錠をはめた。これで私はベッドから一歩も動けない。
「本日のお召し物は何に致しましょうか?」
何といわれても、結局見えないから意味もないんだけど。
「何でもいいわ。見繕って頂戴」
「畏まりました」
クローゼットが開く音。メイドはそこから私の私服であるドレスを取り出してくれる。私は立ち上がった。
片手はベッドに拘束されている。服も自分では脱げない。メイドは私のネクタイを緩め、制服を丁寧に脱がしていく。
肌が露出し直接大気に触れるとやはり寒かった。そしていよいよ一瞬だけ、着替える一瞬だけ腕の手錠が外される。
その瞬間を見計らい、私は彼女を押し倒す。目が見えなくたってわかる。彼女がどこに居るのか。
隠し持っていたナイフを取り出して首筋に突き立てる。見張りが居なくなればあとはこっちのものだ。
あの父親を殺すためにはまずこの女を殺す必要があるのだから、私が彼女を殺すのは必然だ。
ナイフを取り出して首筋に一撃。吹き出る鮮血は私の黒いドレスをより黒く、赤く染めるだろう。
「コルセット、きつくはありませんか?」
「・・・・・・・・・・・・・うん」
まあ、そんなのは当然妄想だ。私は大人しく着替えさせてもらうことにした。
普段から恐ろしくヒラヒラしたドレスを着用させられる。私の私服はドレスしかないのだ。
着替えを終えると手錠は再びベッドに嵌められる。首輪もまたベッドに。着替えるだけで一苦労な私としては、すぐさまベッドに横になりたい。
ふかふかのベッドの上に寝転がる。何も見えないけれどここだけは多分私に自由が許されている場所だ。胸の前で手を組んで顔をメイドに向ける。
彼女はどんな顔をしているのだろうか?いつもどおり無表情に私を見ているのかもしれない。とにかく彼女はきっと一礼しただろう。
「それでは、お食事の時間になりましたらお迎えに上がります」
スカートをたくし上げてそんな事を言うだろう。きっとそんな感じだ。彼女の気配が遠ざかっていく。扉の向こうに。そして錠の閉まる音がした。
これでもう何もない。私の一日の残りはこうして終わる。頭にわざわざつけられたカチューシャが鬱陶しくて手に取る。
本当にもう嫌だった。毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日。死にたくなるくらい退屈な日々。死にたくなるくらい窮屈な日々。
どうしようもないくらい、毎日毎日繰り返されている。一体何がしたいの?何故こんな事をするの?そんな疑問も胸を過ぎることが確かにあった。
しかしそれ以上に憎いのは、顔を見たことも無い、いるのかいないのかもとんと分からない父親の存在だった。
あのメイドは父親の使いなのだという。そして彼女はその男の命で動いている。だからこれもあの男のせい。こんなに苦しいのもあの男のせい。
苛立ちばかりが積もっていく。暖炉の薪が砕けて折れる音がした。私の中でも何かが砕けて折れた。
「・・・・・・・・・・・・・・あああああああああああああっ!!!!」
辛うじて自由な片手でカチューシャを壁に投げつけた。それから何度も何度もつながれた腕を引っ張る。
何度も何度も。何度も引っ張る。手首が痛くて内出血を起こして首がきつく絞められて呼吸が出来なくても暴れた。
「あああああっ!!!ぐぅぅぅううううううう・・・・!!!!この・・・・!!忌々しい・・・・っ!!!」
手錠が繋がっている手首を引っかいた。何故はずれないのだろう。いっそのことこの手首ごと引きちぎれてしまえばいいのに。
何度も何度もひっぱった。腕が痺れて痛くて泣きそうなのに、歯を食いしばって自分の腕を引きちぎろうとしている私。
一体何をしているんだろうって思って。それから涙が溢れて。何もかもを覆い隠している布に染み込んで消えた。
「・・・うう・・・・っく・・・・ふ・・・・・っ・・・」
泣いた。声を殺して泣いた。手首が痛い。どうしたらいいの。
「うわあぁぁぁぁあああ・・・・っ・・・・ああああああっ・・・・!」
殺したい。私をこんな目に合わせている人間を殺したい。滅茶苦茶にしてやりたい。私の人生を滅茶苦茶にしたように。
ベッドの上を転がりまわることすら出来ない。ただただ仰向けに寝転がって泣いた。何もない、何も出来ない惨めな自分に。
しばらくしてメイドが部屋にやってきた。彼女は分かりきっていたかのように私の手首を手当てする。最初からこの人は分かっているのだ。
何も言わず手首に包帯を巻いてくれた。それから手錠を外して反対側の手首にそれをはめる。私は俯いた。
「それではお食事に向かいましょう」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい」
手を引かれ歩く。室内なのに履いたハイヒールは階段を降りる上で酷く不便だ。
やがてどこかにある食堂に連れて行かれる。そこでは私は本当に何も出来ない。椅子に座って、多分とても広いのであろう・・・声が反響するその場所でエサを待つ雛鳥のように口を開くだけだ。
隣に座ったメイドが私の口に食事を運ぶ。私はただそれを食べるだけだ。口元が汚れ、それを彼女がナプキンで拭く。
味なんかわかるわけがない。ただ酷く惨めなだけだ。こんなの自分で食べられるのに。学校だったら自分で食べられるのに。どうして?
「お味はいかがですか?お嬢様」
「・・・・・・・・不味いわ。酷く不味い」
「左様ですか」
味を聞いておいて文句を言っても受け流す。だったら最初から聞かないで欲しいのに。
彼女の事が憎くてたまらない。どうしてこんな家でこんな風に暮らしているのだろう?四六時中私の傍にいて、私の世話をする。
まるで飼われているみたいだ。お嬢様とメイドという関係とは裏腹に、彼女は飼い主で私はさながらペットだ。
籠の中で口をあけてエサを待っている雛がお似合いだ。
風呂に入るのは彼女のいつも一緒だ。彼女に脱がしてもらい、風呂に入る。
そこですら手錠と首輪は外れない。本当にいやになる。彼女に髪を洗ってもらい、一緒に湯船に浸かり、身体を拭いてもらう。
悔しくて涙が出そうになる。自分自身の全てを否定され蔑ろにされるような感覚。これが一日も欠かさず丸十八年。気が狂ってもおかしくない。
だから私は殺す。いつか絶対に殺してやるんだともう誓っている。それはユメでありリソウであり絶対的に成し遂げなければならないイキガイだ。
寝巻き・・・といってもやたら派手な・・・に着替えさせられ自室に戻る。メイドはさっさと部屋を出て行ってしまった。
かけられた毛布の中、ひたすらに涙を流した。毎日毎日こんなだから、涙はすぐに引いてしまってあとはあっけらかんとする。
何も見えない暗闇の中、あとはゆっくりと殺人のことを考える。あのメイドを殺す方法を。いや、あの父親を殺す方法を。
娘を監禁しペットのように放し飼いにする、狂った父親のことを。
「そうだ・・・・私は絶対に・・・・殺してやるんだ」
楽しい事を考えよう。
あの男の首が吹っ飛んで内蔵が飛び出して四肢を切断されてのた打ち回って死んでいくのを考えよう。
そうすればきっと、今日も眠れるから。
私の一日はいつもそうして終わる。
だからその日も、そうして終わった。