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魔術師見習いと日常の戯れ言(魔術師見習いシリーズ短編集)

少年の戯れ言:第一次春夏大戦

作者: 鞍多 奧夜

 最近、同居人が一人増えた。僕、美夏みかねぇ、母さん、父さんに加えてもう一人、とりはるという少女が先日より一緒の家で暮らしている。

 それと同時に、僕を見てくる視線が増えた。自他共に認めるブラコンである美夏ねぇの視線だけでなく、もう一つ誰かの視線が僕に向けられてる気がする。

 気がするというのは嘘だ。あと誰かという表現も。

 じーっという擬音がみごとに合いそうな視線で、春さんが僕を見てきている。美少女である春さんに見つめられるのは、僕としては別に悪い気はしない。僕は春さんから、とある事情で「観察する」ということを伝えられているので、その視線に熱がこもっていないことを知っている。それが少し残念ではあるけど。

 朝の食事の時、昼間に本を読んでいる時、変わらず春さんは僕を見つめてきた。

 そして現在、夜寝る前、僕の部屋においても見つめてきている。この状況はやばい。いろんな意味で。僕の理性がやばいとかもあるけどそれよりも……。


「アキ君に色目を使ってるんじゃないわよ。このただの同居人ふぜいがぁぁぁぁ!!」

 ついに美夏ねぇがきれた。まぁ、美夏ねぇにしては、よくここまで耐えたと思わないでもない。

「待って。私はそんなつもりで、アキヒコを見ていた訳ではない」

 春さんが咄嗟に返答する。ただ、焦って余裕がなかったのか。いつもの作った感情のある声ではなく、本来の無表情で平坦な声になっている。

 「じゃあ、何のつもりなのよー。あと、いつのまにか名前で呼び合う仲になってるしー」

 「見ている理由の詳細は言えないけど、やむにやまれぬ事情が……。名前の呼び方については、同じ理由を美夏さんにも言ったと思う」

 「むー。呼び方についてはわかりましたー。見ている理由を話しなさーい」

 「いやそれは拒否する」

 「なら力つくで」

 「しかたない。阻止する」

 

 二人の魔術が交差する。春さんには攻撃の意志がないのか、美夏ねぇは攻撃を、春さんは防御を主に行っている。美夏ねぇが魔術を放ち、春さんが対抗の魔術で自身に影響がでないように阻止する、という形でしばらく戦況は拮抗した。

 僕は止めようと思ったが、魔術の撃ち合いになっている現状、何もできそうになく、手をこまねいている。まぁ、美夏ねぇは、相手を傷つけるのではなく、一時的に麻痺させる程度の電気を発生させる魔術しか使っていないようだし、春さんは魔術を止めて美夏ねぇに限界がくるのを待っているだけのようなので、大した危険はなさそうである。


 防戦一方はやはり厳しかったのか、さばききれなくなって、美夏ねぇの電撃が春さんにあたる。その影響で、体が麻痺しゆっくりと床に倒れ伏せる春さん。

 春さんが倒れるのと時を同じくして、春さんの服から何か本のようなものが床に落ちる。

 それは「かんさつにっき」と手書きの文字でかかれた可愛い本であった。

 僕はその本の装丁――文字以外の部分――に見覚えがあった。見た物を記録でき、その下に文章が書ける本だったはずだ。

 この国で魔術は、魔物や外敵を倒すためだけに利用されている訳ではない。日常の生活に使われている物がいくつかある。あの本は、使用者の眼が受け取っている情報を取り出し、画像として出力、保存する魔術が込められた品物。魔術的な品物は、作れる人が限られているため、手が出ないほどではないが、結構値段のはるものである。春さん、そんなの買ってたんだ。

 その本を拾って中を見る美夏ねぇ。美夏ねぇの顔がだらしなくゆるむ。年頃の女子がしていい顔じゃないんですけど。

 美夏ねぇが見ている本を、短い麻痺から復活した春さんが取り返そうとしている。だが、どんな力で持っているのか、春さんが身体全体を使って全力で引っ張っているようなのに全く取り返せる気配がない。

 僕は中身が気になって、その本をのぞき込もうとする。

 そんな僕の眼に指が突き刺さった。

「―――!?」

「アキヒコは見てはだめ」

 声を上げることもできず、悶え苦しむ僕に、そんな声が聞こえてくる。最近、春さんの平坦な声の微妙な違いがわかってきた……ような気がする。今のは少し不機嫌のような、恥ずかしがっているような声だった気がする。何で目がやばい状況なのにそんなこと気にしてるんだろうか、僕は。


「これいつとったのー?」

「これは、朝部屋に忍びこんで」

「え、こんなのどうやって?」

「実は屋根裏に良いポイントがあって」

 声だけなのでよく分からないが、視力が回復しない僕をよそに、盛り上がっている様子の二人。

 あなた達、喧嘩してませんでしたっけ? あと、ここ僕の部屋なんで、僕を放置するなら出て行ってもらいたいんですけど。


 しばらくして、視力が回復してきた。

 相変わらず、美夏ねぇと春さんは例の本を見ながら盛り上がっていた。むろん僕の部屋で。

 春さんが何かを思いついたようで、美夏ねぇに耳打ちをする。二人の視線が僕に向く。再度顔がゆるむ美夏ねぇ。一体何を言われたんだ。

「その条件をのみ、アキ君を見ることは許します。でもアキ君を誘惑したりするのはだめだから」

「わかっていただけて恐縮です」

 握手をする二人。一人はとてもいい、ゆるみきった笑顔で。どっちとは明言しないが。

 喧嘩は収まり、二人は仲良くなったようなので、とてもいい結果になったはず。そのはず。そのはずなのだが、なぜか僕は寒気がし、それが収まらなかった。


 この日を境に、ときどき美夏ねぇの部屋から、「あーアキ君、画像でもかわいいよー」などのような声が聞こえるようになったが、僕は何も聞いていないことにしている。

 読んでいただきありがとうございます。

 この作品は、「魔術師見習いと止まる世界」の第二章「出会い」と第三章「調律」の間の話になります。世界観の補完というより、キャラの補完的な意味合いが強いです。

 短編として、特に「魔術師見習いと止まる世界」を読んでいなくても理解できるようにつとめたつもりですが、読んでいないと全く分からない部分等ありましたら、ご指摘いただければ幸いです。



 以下、本編に入れなかった理由という無駄な解説になります。興味のある方だけ読んでいただければと。

 この文章は当初、「魔術師見習いと止まる世界」の第三章「調律」の2話目「調律2」として書いていました。

 しかし、ほとんど書き終えてから気付いてしまったのです。あ、この話、「調律1」の状況と全く関係ないや、と。

 伏線でも考えて、即回収って形にしても良かったのですが、その伏線や回収方法を思いつくより先に、タイトルの「第一次春夏大戦」と、第二次春夏大戦およびその後のネタが浮かんでしまいました。

 そのためこのような形で、投稿することにしました。

 しばらくはある程度時系列に沿って書いていくつもりですので、現状思いついている第二次春夏大戦のネタを形にする場合、「魔術師見習いと止まる世界」が終わってから、二作目の冒頭までの間に書くことになるかなと思っています。先の長い話ですね、えぇ本当に。

 さて、長々とした後書き失礼しました。

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