祈り
村人達に混ざり打ち合わせをした結果、天帝退治の決行は明日に決まった。
今晩の宿を探していた私達に彦星が空き家を貸してくれた。
家具などは一式揃っており、空き家という割には非常に状態が良い。
ベッドを見つけるなり勢いよくダイブする香。
「わ~い!久しぶりのベットだ~♪」
最近はずっと野宿で硬い地面で寝ていたからな。これは嬉しい。
しかし残念な事にお風呂は付いていなかった。。
あっ、良い事閃いちゃった!
「香、川に魚を取りにいこ!夕食にもなるし水浴びも出来るよ!」
「おお~、ナイスアイデ~ア♪一石二鳥じゃん!」
空き家から飛び出し走りながら服を脱ぎ捨てる。
そのまま目の前に広がる川にジャンプし飛び込んだ。
「冷たくて気持ちいいー!」
「まさか川に入れる日が来るとはね~♪」
少し肌寒さを感じるけれど、問題の無い程度だ。
ずっと冬を過ごして来た私達にとっては川に入るなんて自殺行為だった。
それを覆す季節の偉大さに気づく。
「お魚さんもいっぱい泳いでる~!これは大量の予感♪」
「じゃあどっちが魚を多く取れるか勝負だ!負けた方が夕食の準備ね!」
「おっけ~い♪」
魚を狙い素早く手を水のなかに潜り込ませる!
よし!掴んだ!このまま魚を水面へ!
「やった!一匹目!!」
捕まえた魚を見せびらかそうと香の方を向く。
すると彼女は春風を纏っており、その瞬間川底から突風を巻き起こし大量の水が空を舞う!
舞い上がった水は川辺に投げ出され乾いた大地を濡らす。
水の引いてきた川辺を見ると沢山の魚が地面をピチピチとしていた。
「わったしの勝ち~♪」
そっ、それは反則でしょー香さん。
でもルールなんて決めてなかったし、潔く負けを認めよう・・・。
私も強い風を起こせたらなー。。
勝負にあっさり負けてしまった私は夕食の準備をした。
魚の量があまりにも多かった為、川辺に火をおこし塩焼きにして簡単に済ませた。
お腹も膨れ、体もさっぱり。今日は気持ちよく眠れそうだ。
ランプの灯りを消して床につく。
目を閉じ数分後―
静寂の中、か細い声で香が呟く。
「今日も無事に越せて良かった。明日も無事に越せるかな。」
「大丈夫。私が死んでも香を守るから。」
死ぬのは怖いけれど、この旅では彼女を守るのが私の役目だ。
「ふふっ、真冬が死んじゃったら元も子もないよ。連れて来た自分を呪っちゃうよ。」
「それは大変だ。呪われた姫も死んじゃうよね。つまり私は簡単には死ねないって事だ。」
何故かおかしくてくすくすと笑い合う。
「今日は隣で寝てもいいかな?」
胸がドキッした。でも拒む理由は無い。
「いいよ。こっちにおいで。」
香が私のベッドの中に潜り込む。
近くで彼女の温もりを感じ心が落ち着く。
私は一人じゃないんだ。
そんな事を考えている内に段々意識は遠のいていき眠りに落ちた。
朝になり支度を整えた私達は彦星の家へと向かう。
彦星の家の前ではすでに集まっていた村人達が最終的な打ち合わせをしており、
こちらに気づいた彦星が近づいてきた。
「よう、嬢ちゃん達!良く眠れたか?今日は頼んだぜ!!嬢ちゃん達を乗せる船は俺が舵を取る!長の俺が人任せって訳にはいかないからな!出航の手はずが整い次第声を掛けるからそれまではのんびりしていてくれ!」
私達はコクリと頷く。
少し時間が空いたので久しぶり双剣の手入れでもする事にした。
荷袋から砥石を取り出し川の水で濡らす。
双剣の刃を砥石に当てゆっくりと縦に滑らせる。
香はもの珍しそうにそれを眺めている。
「その双剣良く見ると形が別々だね~??」
私は手を動かしながら静かにこう答える。
「この双剣はさ、元は一本ずつの短剣なんだ。死んだ父と母がそれぞれ使っていた短剣でね、私が猟師になった時にどっちを使おうかな?って悩んだ結果、両方使ってあげたかったから双剣として使ってるんだ。短剣も夫婦ってわけ。」
「そうだったんだ。それで別々の形なんだ。辛い事思い出させちゃったよね。ごめんね。。」
香は俯き申し訳なさそうにしている。
「いや、いいんだ。もう昔の話しさ。」
遠くから彦星の声が響いてきた。
「おーい!そろそろ船を出すぞー!こっちに来てくれー!!」
研ぎ終えた双剣を腰に直し彦星の元へと向かう。
父さん、母さん、私達を守ってね・・・。
双剣に手を当てそう祈った。