旅立ち
力を授かった私達は春神にお礼と別れを告げ出発する。
長い長い旅の始まりだ。
月見村はここから遥か東。
まずは大陸を大きく分断している河川『天ノ川』を目指す。
雪溶けした地面は歩きやすく軽く足が進む。
気温も温かい為心と身体の疲労も少ない。
私達がいかに過酷な環境で生活していたのかを痛感した。
しかしこうやって楽々足を進める事が出来るのは冬のおかげでもある。
あの頃の私と言えば、
氷点下の中、雪の降る野山を駆け回り獲物を追いかける。
雪に埋もれ白い吐息を吐く。
手足は氷、感覚は消えていく。
日が落ちるまでという時間との闘い。
ただ猟をする為だけに存在していた。
そんな生活を繰り返していたからこそ体力が養われ今を楽と感じられる。
私を育んでくれた冬。
今なら言える、ありがとう。心から感謝するよ。
野を超え山を越えて行く。
もう何日歩き続けたのだろう。
疲労が溜まってきたのか香の歩くペースが日に日に遅くなってきている。
「ねえ~。まだ着かないの~?足痛いよ~。。」
無理もない。薬師の香は猟師の私と違って村ではインドア派だった。
体力の違いは歴然としている。
敏感な肌が湿度の変化を感知した。きっと近くに水場ある。
「天ノ川まではあと少し。もうちょっとの辛抱だから頑張って!」
そう言って励まし止めていた足を動かす。
「ちょっと~、歩くの速い~!か弱い私をおんぶしろ~><」
走り寄って来て私の背中に飛びつく。
まるで子供だな。やれやれ。
仕方なく香をおぶり先を目指す。
うっ、見た目とは裏腹に意外に重い。ちびっ子のくせに。
「うは~!これはらっくち~ん♪」
私は人におんぶなんてされた事ないのに。
どんな感じなの??
試に今度香に乗ってみるか。
ザザザザザァー
近くから水のせせらぎが聞こえてくる。
「水の流れる音?きっと天ノ川はすぐそこだ!」
「まじ??真冬号よ、急いで発見するのだ~♪」
疲れていた私達の顔に笑顔が戻る。
香をおぶったまま勢いよく走りだす!
「おっとと、落ちる落ちる~♪」
周りの木々が減り森の出口が見える。
緑の森を抜け足を止めた。
目の前に鮮やかな青が広がっている。
これが天ノ川・・・!
「着いた着いた~!大きな川だね~♪」
向こう岸がかろうじて見える程の幅広の川。
水が透き通っておりここから見ても透明度の高さが分かる。
川沿いには家が建っており村があることが覗える。
「あそこに村があるよ!行ってみよう!」
「は~い!やっとお風呂入れる~♪」
村に入ると先の方で人だかりで出来ていた。
私と香は顔を見合わせ首を傾げる。
何かあったのだろうか?近づいて尋ねてみた。
「どうしたんだ?何かあったのか?」
体格の良い中年の男がこちらに近づいてくる。
「嬢ちゃん達はこの辺では見ない顔だな?旅の人かい?」
「ああ、旅の者だ。人だかりを見つけたので何事かと思い声を掛けさせてもらった。」
「そうか、俺はこの村の長の彦星ってんだ。よろしくな!最近の気候の変化は知ってるよな?暖かくなったおかげで川を覆っていた氷が溶けちまってな、川を横断出来なくなっちまいやがった。向こう岸に俺の女房が長をしている村があってな、氷が溶ける前は物資を交換したりしながら協力して暮らしてたんだが・・・。今はどうしてるか心配だ。。」
ふぅーっと深いため息をつく彦星。
「あの~?船で渡っちゃえばいいだけの話しじゃないの~?」
香も話しに加わる。私もそう思っていた。簡単な話しだ。
「船で渡ろうとしたさ。それがなー、氷が溶けたのと同時に天ノ川の主『天帝』が目覚めちまったみたいで渡ろうとする船を沈めちまうんだよ。だからこの場所で皆頭を抱えてたってわけさ。」
これはまたやっかいな主が目を覚ましてくれたもんだ。
香が私の肩を叩く。
「ねえねえ、真冬の冷気で川凍らせちゃえば??」
私にそれだけの力があればパパット凍らせて一件落着なんだが。
「無理無理。限度がある。」
呆れた口調で言い返した。
「冗談だよ~!じゃあ私達が天帝退治するっていうのは~??」
そうくると思っていたよ。天帝を退治出来れば皆無事に川を渡れる訳だが・・・。
「出来れば危険は避けたい。私は自分と香の命が大切だ。」
「私達がハルをお起こしちゃったから川の氷が溶けたのに~?」
適格な切り返しに返す言葉も無い。
香と口論するといつも負けちゃうな。
「しっ、仕方ないな。やればいいんでしょやれば。。」
「聞き分けのいい子は大好きだよん♪」
勝ち誇った表情をしながら彦星に歩み寄る香。
「彦星さ~ん!私達が天帝退治するから船を出してくれな~い?」
「嬢ちゃん達が!?そんなキャシャな体で天帝と戦うってのかい?船は出せねーなー!死体が増えるだけだ!やめとけやめとけ!」
彦星は香を軽くあしらい立ち去ろうとした。
相手にされない事に怒った香は春風を纏い彦星に向けて突風を起こす。
彦星は服を切り刻まれ村人達の前で裸体をさらすハメになった。
目が点になっている彦星に不適な笑みを浮かべた香が再度問いかける。
「これでもだめなのかな~♪」
彦星は態度を改め是非私達にお願いしたいと申し出を受け入れてくれたのだった。