山の脅威
コンコンコン
・・・ん?
コンコンコンコン
うるさいな。
ゴンゴンゴンゴンゴン!!
しまった!香が朝迎えに来るって言ってたな!
ベッドから飛び起き慌てて玄関の扉を開ける。
「おはよー!もしかして寝てたの~!準備も全くしてなさそうね~♪」
香の笑顔の裏に怒りを感じる。
「お、おはよ。言い訳はしません。申し訳ない。」
急いで準備を始める。
「まあ今回は許してあげる~!いつも御飯頂いてるしね~♪」
その言葉にほっとしつつ淡々と準備を進める。
白のロングコートを羽織り愛用の双剣を腰に装着。
腰袋をベルトに付け、食料などを詰め込んだ荷袋を肩に担いだ。
「おまたせ!さあいこうか!」
香も腰に銃を装着し、リュックを担いで準備万全のようだ。
「よ~し!冷封山へレッツらゴ~♪」
私達は村を後にし、冷封山へと向かった。
村から冷封山まではそんなに遠くはない。昼過ぎには着けるだろう。
「ルンルンルン~♪ランランラン~♪」
香は今日も元気!それにやけに楽しそうだ。
降り続く雪の中そんな彼女を横目に黙々と歩き続けたんだ。
歩き続ける事数時間
「もうお昼か~!早いな~、休憩しよっか~♪」
空を見上げると日が高くなっており、雪も若干弱くなってきていた。
「了解した!冷封山も目の前だし入る前に一休みだね!」
私はその場に座り込み荷袋から獣のラードを取り出し火をおこす。
簡易用の鍋にその辺の雪をかき入れお湯にし、そこに干し肉を入れた。
簡易スープの出来上がりだ。
「ほんと手際いいよね~!惚れちゃいそうだよ~♪」
何を言っている。女同士だぞ!とは決して口に出さなかった。
温かいスープは冷え切った身体にしみわたる。
冷えきった心も熱くして欲しいものだ。
「ところでさ、薬草の詳しい場所は?」
「少し登った所の氷麗湖の近くの洞窟だよ~♪」
「あー、あの辺りかぁ。ってあの洞窟!?」
「そっ!あの洞窟~♪」
「あそこホワイトベアの生息地じゃん!!それで私を連れてきたな。。」
してやられた気分だった。ホワイトベア危険だ。
なぜならホワイトベアは群れる習性がある。一匹居ると周りに何匹か必ず居る。
単体なら問題ないが複数で襲われるの辛い。
「出来るだけ気づかれないで採取したいなー。」
「上手く行くといいね~、頑張ってね~♪」
香が怖い。自分が連れて来たくせにまるで他人事。
引き受けた私も悪いのだが。
仕方ない、軽く開き直って行くとしよう。
荷物を片付け、渋々目的地へと歩きだしたのだった。
冷封山に到着。
何度か来た事はあるが、いつ見てもでかい山だ。
頂上付近に雲が棚引き、異様な圧迫感に襲われる。
「ここからが本番!このまま目的地までサクっと行っちゃうよ~♪」
気合いの入った声に気が引き締まる。
「了解した。この辺りから獣が増える!注意して進もう!」
さっきまで弱まっていた雪が急に激しくなる。
山に歓迎されているのか?それともいないのか?
洞窟に着くまでは出来るだけ無駄な体力は使いたくない。
ホワイトベアと遭遇した場合、万全な状態で対峙したい。
そんな事を思っている矢先
「真冬!!あれ見て!!!」
ん?あれは!?前方からウルフの群れ。
「一匹ずつ仕留めていたらキリがない。香、威嚇射撃で気を引いて一点にウルフを集めてくれないか?」
「おっけ~い!まかせて~♪」
香は大きく深呼吸をし、銃を構え狙いを定める。
パパパパパパパパパパパっパン!!
乱れ打ちの音が鳴り響き、ウルフが香を目指して一点に集まってきた。
「来た来た。馬鹿な奴らだな。」
私は腰袋から広域麻痺薬を取り出しウルフの群れに投げつける。
ウルフの群れの中に落下した広域麻痺薬は煙を吐き出し辺りを覆う。
「煙吸うと危ないから少しの間息止めてて!!」
「あいよ~♪」
煙を吸ったウルフの群れは突進の勢いを無くし一匹、また一匹と倒れだす。
「さあ今のうちにおさらばしよう!」
と走りだそうとしたその時
「グルゥゥゥ、アオーン!」
一匹残ってたか。
牙を剥き香に襲いかかる。
「うは~♪あぶない~♪」
すかさず腰の双剣を抜きウルフを切り捨てる。
「ア、アォーン。。」
間一髪。危ない所だった。
香にもしもの事があれば私は護衛失格だ。
って香、危ない時でも楽しそうだな。。
それから目的地までは獣に襲われる事なく無事にたどり着いた。
「これが薬草の生えてる洞窟かぁ。」
洞窟の中は風は無いもののヒンヤリして外とはまた違った寒さだ。
「いかにも何か出てきそうだね~♪」
出てこられたら困るんですけど。ホワイトベアいませんように。。
私達は慎重に中へと歩きだした。
入口からの光が消え暗くて前が見えなくなってきた。
荷袋からランプを取り出し火を灯す。
周りを見渡してみたが獣はいない。
しかし薬草も見当たらない。
「見つからないね~。もっと奥までレッツらゴ~♪」
更に奥に向かって歩きだす。
「あっ!?あれ見て~♪」
香の言葉に振りかえると、ぼんやり何かが光っている。
ゆっくり歩み寄り何が光っているのか確認する。
大きな目を更に見開く。
「これだ~!光冬草だよ~!あったあった~♪」
「やったね!採取して、早くここから出よう!!」
思ったより簡単に薬草は見つかった。
香は満面の笑みで薬草を引っこ抜きリュックにしまった。
「目的達成!!さ、戻るよ~♪」
あとはここからずらかるだけだ。
洞窟の入口へと戻りはじめる。
・・・やはり簡単には帰れそうにないな。ホント運が無い。
「ゴォオゥ、ゴゴオゥ!!」
入口にホワイトベアが仁王立ちしている。
こうなったら殺るしかない。
「サクッと片づけてやるよ。」
双剣を構えて呼吸を整えホワイトベアに切りかかる!
「冬ノ型 氷ノ牙」
刀身に周りの冷気を纏い極限まで冷やし敵の喉を一点に絞った突きを放つ。
「グガァアァァアア!」
「ちっ、浅かったか。」
攻撃は当たったが、殺傷までにいたらない。
だがチャンスだ。怯んでいるいる内に倒す。
すばやく身体を反転させ左手でもう一撃を放つ。
「これで終しまいさ。」
自身の心をも凍らせてホワイトベアの心臓を突き刺した。
「グゥガガァァ。。」
ホワイトベアは血を吹き出しながらその場に崩れ落ちた。
「さっすが村一番の双剣使い♪惚れちゃいそ~♪」
香よ、だから女同士だって。惚れちゃだめでしょ。
さっ、はやくずらかろう。
洞窟を抜けて山を下る。
獣の声が聞こえ後ろを振り返って見た。
ホワイトベアが集まってきている。
きっと仲間の血の匂いを嗅ぎつけて集まってきたのだろう。
ふとこちらに気づいたホワイトベアが凄い速さで迫ってきた!
「やばいよ、やばいよ~♪」
「あの集団はさすがにやばい!全力で走るよ!!」
無我夢中で走る。灰が悲鳴をあげている。
「きゃあっ!いたたた~><」
雪に足を取られ香が転倒した。
ホワイトベア達はすぐそこまで迫って来ている。
どうする。心を冷めきらせて考える。もう時間がない。
しかたない。腰袋から炸裂弾を取り出し力いっぱい上方に向かって投げた。
ドゴーーン ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォー!!
爆発の振動で雪崩が発生した!思惑通りだ!!
ホワイトベア達は次々と雪崩に飲み込まれていく。
後はこの雪崩を私達がどう回避するかだ。
「カオルーーー!!!」
手を伸ばし香の手を握る。
「真冬~♪」
短時間では良い策も浮かばなかった。
私は強く香を抱きしめた。
そして雪崩に飲み込まれていったのだった。。