始まりは冬
限りなく降る純白の雪。
舞っているのか。
それとも散っているのか。
自身の心模様によって感じ方はそれぞれか。
私にはとても美しく見える。
白く煌めく一瞬の灯火のようだ。
その無数の白は明日も明後日も降り続けるだろう。
このまま一生煌めき続ける事だろう。
それが今住むこの世界の理だと思っていた。
「今日は一段と雪が降るな。日が暮れる前に家に帰るか。」
そんな事を呟きながら冷え切った身体に鞭を打ち家路を急ぐ。
白髪に白のロングコートを纏いまるで雪のような白さ。
私の名は、優月 真冬 猟師だ。
寒い気候の中では作物は育ちにくい為、生きていくには狩りをするのが主流だ。
肌を刺すような冷気。
私はフードを深くかぶり、マフラーを上げて頬を覆った。
やっとの思いで村にたどり着き帰宅。
玄関を開けると
暗い部屋
誰もいない部屋
親も兄弟もいない私にとってはいつもの光景。
誰かに『おかえり』って言われたい。
暖炉に火を灯す。
暖かい。
少しだけ心も温かくなった。
さあ、夕食の準備。
今日の収穫はイノシシだ。
愛用の短剣でイノシシを捌いた。
血を洗い流し、削いだ肉を鍋に入れる。
そこに山で採れたキノコも加え火にかける。
余ったシシ肉は乾燥させていつでも食べられるようにしておこう。
シシ肉を薄く切り暖炉の周りに干す。
これだけあればしばらく食料には困りそうにないな。
火にかけていた鍋がぐつぐつと音を立てる。
食欲をそそる良い匂い。
キノコシシ鍋の出来上がり。
夕食の支度が終わりテーブルに着く。
コンコンコン
誰かが玄関の扉をノックしている。
誰だろう?なんて思いながら扉を開ける。
「良い匂いが外にまで漂ってるよ~♪私も一緒に晩御飯頂きたいな~♪」
なんて言いながらずかずかと家に入ってきた。
背は低く、ショートの黒髪に大きな瞳が印象的。
とっても可愛らしい女の子。
彼女の名前は、花月 香
私の古くからの友人だ。親友とでも言っておこう。
「今日はお鍋だね~、おいしそ~!いっただきま~す♪」
まだご馳走するとも言っていないのに食べる気満々だ。
でも、よくあるいつもの事だから動じない私。
身寄りのいない私にとって彼女の存在は特別だ。
香が鍋をつつきながら口を開く。
「相変わらず豪快な料理だね~♪」
「いえいえ、そちらこそ男勝りな豪快な食べっぷりで!」
余程お腹が空いていたのか鍋がみるみる内に減っていく。
「御飯はモリモリ食べなきゃね~!力の源だぜ~♪」
沢山食べている香の姿に癒される。
彼女は急に箸を止め、真剣な表情を見せた。
「あのね~真冬、私のお仕事手伝ってくれないかな~?最近忙しい??」
「今は村の食料も安定している。忙しいって程ではない。仕事の内容は?」
返した言葉に香の表情が一瞬ニヤける。
「冷封山に生えてる光冬草っていう薬草を取りに行きたいんだ~!私1人じゃ危険だからそれの護衛してもらえないかな~?」
香は村で唯一の薬師だ。薬の材料調達ってわけね。
私も度々お世話になっているので彼女には頭が上がらない。
しょうがない、引き受けるか・・・。
「了解した!日程は?」
「ん~、出来れば早く!明日とか空いてる?患者さんの具合良くないんだよね~。」
明日・・・それもまた急な話しだな。
しかし患者の事を考えると一刻でも早い方がいいだろう。
一瞬戸惑いはしたが明日で良しとしよう。
「じゃあ出発は明朝でいいかな?」
「さすが真冬!助かる~!じゃあ明朝迎えにくるね~♪」
まんまと香に乗せられた用な気もしたが悪い気はしない。
食事を済ませしばらく雑談をした後、香は嬉しそうに帰って行った。
眠る前に明日の荷物を軽くまとめておいた。
服を着替えベッドに入り目を閉じる。
疲れていたのかすぐに深い眠りに落ちた。
その時の私はこれから自分の運命が大きく変わるだなんて全く想像もしていなかった。
この依頼を受けなければ、死ぬまでただの猟師として平凡に生きていけたのだろう。