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侯爵令嬢は手駒を演じる  作者: 橘 千秋
第一部 ローランズ王国編
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53話 覚悟

 憎しみに塗り潰された私は、王家主催の夜会で美しい少女と出会った。



 デビュタントの白いドレスを身に纏った少女は、緊張で頬を染めながらも初々しく、会場の男たちを魅了した。それは私も同様だった。

 私が何よりも魅入られたのは、彼女の瞳だった。


 神秘的で、アメシストのように透き通るような光彩を持つ紫の瞳に、私は釘付けだった。

 あの紫の瞳は、隣国のサモルタ王国で一部の王族のみが持つものだ。

 しかも紫の瞳を宿した王族は、神として崇められ信仰される。

 故に、サモルタの王族は他国には嫁がない……はずだった。

 先代オルコット公爵がサモルタの王女と恋に落ち、ローランズ王国に連れ帰るまでは。


 二人の結婚は随分と揉めたらしいが、王女が紫の瞳を持たずに生まれて冷遇されていたことから、最終的には両国で承認された。

 また二人は大変仲が良く、孫が生まれてからも子供を産んだ。

 その子供の名はエリザベス。

 彼女は紫の瞳を持って生まれてきた唯一の子だった。

 しかし病弱だった彼女は、娘を一人産んで死んでしまった。

 そしてその娘もまた、紫の瞳を受け継いでいた。



 娘の名は、ジュリアンナ・ルイス――そう、私が見惚れた少女だ。

 ローランズとサモルタの王女を祖母に持ち、王家の三柱の内の二家の血を引く特殊な血統を持ち、彼女が誰と婚約をするのかという話題でここ数年は持ちきりだった。

 普通なら次期王であるエドワードの妃にと幼い頃に婚約させるところだろうが、彼女の父であるルイス侯爵が王と取引をし、それを拒んでいるらしい。

 彼女には有力貴族や他国の王族からも縁談が来ているとも言われている。



 様々な思惑抱えた貴族を笑顔であしらう姿も、難易度の高い曲を踊りこなす姿も、本当に今日がデビュタントかと思うほどに完成されていた。

 誰かが彼女のことを『完璧な淑女』だと言った。

 それには、私も同意せざる負えない。

 つい最近まで美人だと持て囃されていたイザベラなど、足元にも及ばないだろう。


 しかし、彼女には一つだけ良くない噂があった。

 彼女というよりは、父であるルイス侯爵の方だろうか。

 

 ルイス侯爵とルイス姉弟は不仲らしいというものだ。

 彼女のことも、政略の道具としか見ていないと専らの噂だった。



 内面も外見も、身に流れる血さえも美しい少女。

 しかし彼女は、産まれてすぐに母親を亡くし、父親には政略の道具にしか見られていない。

 なんて、哀れで美しい少女なのだろうか。



 彼女が欲しい。彼女が欲しい。彼女が欲しい。

 彼女の――ジュリアンナのすべてが欲しい……。



 誰もが欲する高潔な彼女を手に入れれば、私のすべてが浄化されるような気がした。



 そうだ、ジュリアンナを手に入れなければ……。

 


 この国の王になり、ジュリアンナを妃に迎える。

 それこそが正しいとこの時はそう思っていた。










 

 「ダグラス殿下。わたしたちの血は、勝手な事をすれば沢山の人達を苦しめてしまいます。しかし、それでも自分の意見を通したいのならば、自分の身に流れる血から逃げ出せばよいのです」



 17歳となり、ますます美しくなった彼女が言った言葉に、私は驚いた。



 「しかしそれは……」


 

 驚きを隠せない私に彼女は微笑む。




 「苦しめたくない人がいて、この国の王族であり続けたいのならば、どうか自分の血を認めて囚われて下さい。貴方の身に流れる血が無ければ出会えなかった人です。どうか、その人を大切に……」



 愕然とした。

 可哀相だと思っていた彼女は、しっかりと自分の意思を持っていた。


 その事が面白くなかった私は、思わず彼女に意地悪を言ってしまう。



 「……ジュリアンナは私と同じで違うのだな。貴女は……己の身に流れる血を受け入れているのか?」


 「わたしの心の内は秘密です」


 

 はぐらかされた。

 だがしかし、彼女は己の血を受け入れているのだろう。

 そうでなくては、こんなに明るく笑う事などできない。



 このころの私は、憎しみの感情が和らぎ始めていた。

 あれほど憎しみ続けていたのに、父も姉も弟も皆、以前と変わらずに私に接してきたからだ。


 しかし、私にはマクミラン公爵との契約書がある。

 裏切ることは、私の死にも繋がる。

 何故なら、マクミラン公爵と私はディアギレフ帝国と手を結んでいるからだ。


 


 「分かった。私も自分の血と向き合おうと思う」



 それが精一杯の言葉だった。




 「それが、ダグラス殿下の幸いに繋がる事を祈っております」



 そう言った彼女は、心から私の幸せを願っているように見えた。

 

 自分の中に、熱い感情が溢れだす。

 この瞬間、私は本当の意味でジュリアンナに恋をしたのだろう。


 彼女に触れようと手を伸ばすと、懐かしい声が響く。


 

 「兄上、婚約者がいるのに他の女性にみだりに触れるのは良くない。狸爺共に餌を与えるのですか?」



 いつもの猫かぶりを止めて、身内にしか見せない本性をさらすエドワード。

 その声は怒りを滲み、その目は私を威嚇していた。


 弟もまた、彼女に恋をしているのか。

 彼女を取られまいと必死なその姿に、あれほど遠い存在だと思っていたエドワードが、身近に感じた。



 その後、私はエドワードに負け、ジュリアンナはエドワードとダンスを踊った。

 難易度の高いその曲を優雅に踊る二人に、全員釘付けだ。

 時折、二人は親密そうに会話をする。


 

 不思議と嫉妬という感情は湧きあがらなかった。

 あの二人ならばと思ってしまう自分がいた。



 憎しみを抱いた瞬間から許されないと思っていた。

 だがやはり……私は、家族を愛しているのだ。

 思わず苦笑が漏れる。



 家族のためならば、この身に流れる血を受け入れよう。

 今ならまだ、間に合うかもしれない。



 私は自分の仕出かした事の始末をつける決意をした。






前回残り3話とか言いましたが、無理そうです。

この分だともっと続きそうです。

申し訳ありません。


ダグラス王子視点は次で最後になります。


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